ポーラは経済合理性だけでは紐解けない
--社会の成熟化は、世界中で進む。ポーラの可能性はそこにある、と。
横手 そうです。昨今の働き方改革において、仕事とライフスタイルを別々に考えるのは、まさに役割重視の時代。生活のために役割として仕事をこなす。だから、ワークライフバランスを議論しなければいけない。でも使命という仕事になると、その思いは自身の根幹となる考え方とつながってくるので、ライフとワークが切り離せなくなる。
そうなると、目の前の人はもちろん、自分が住んでいる地域、社会、家族と自分を結びつけることが問われるようになりますから、ポーラのBD、ショップオーナーが持っている社会的価値は、これから高まっていく。ポーラの売り場は、化粧品を届ける場という役割を越えて、人と人が出会う場、一緒に課題解決を考える場として重要な役割が果たせるんじゃないか、と思っています。
--地域の中心に「ポーラ ザ ビューティ」があるから、コミュニティが成り立つと言われる存在を目指しているんですね。
横手 自然に人が集まる場所。化粧品を探していない人も足を運べる場になれば、ポーラは人と人の橋渡し役となり、新しい取り組みが生まれるコミュニティになると思います。ポーラのショップオーナーがそれぞれの地域においける存在意義を提示できると、ポーラで働こうと思ってもらえる。
それを実践しているBD、ショップオーナーが増えていることが、ポーラの強さを支えています。この社会の変化は、中国などの海外マーケットにも広がっていく。化粧品売り場は、物を売って、サービスを提供する場と考える時代は終わっていくのだと思います。
--成熟化が進んでいる中国沿岸部などは、ポーラが一気に成長してもおかしくない。ただ、グローバルブランドになるには、ブランドの哲学を発信し、浸透させないといけません。
横手 ブランドのメッセージを理解していただくことは、成長の可能性を伝えることになるとともに、ポーラのビジネスが経済合理性だけでは紐解けない部分で成立していることを理解してもらうことにもつながります。社会、経済が変革していく中で、おそらく世の中の価値観は経済合理性だけで理解できなくなりますから。女性を通して社会に寄り添っていたポーラへの共感を広げることに力を注がなければ、ポーラの価値が台無しになりかねない。
--具体的には。
横手 先日、中国・深センに直営店を出店した時、オープニングイベントとして、主力商品である最高級ブランド「B.A」のプレゼンテーションをするのが普通だと思いますが、私たちは草月流の生け花のプレゼン、ワークショップを行ったんです。
日本発のブランドとして日本の文化を体験してもらいたいという想いもありますが、それ以上に私たちは、生け花が新しい自分と新しい物の見方の発見、気づきの機会になると思い、深センのお客様に体験していただいた。
ポーラという会社が何を考え、何を大切にしているのかに共感してもらうことが狙いです。日本の高級コスメを買いに来た中国のお客様に、商品の購入だけで終わらせるのは避けなければいけません。
--商品の販売は顧客とブランドの出会いの始まりでしかない。
横手 そうです。商品の販売だけで終わると、そのお客様は、次は他の高級コスメブランドでも構わないと思うかもしれない。きちんとポーラの哲学、考え方を伝え、自分自身の新しい一面を見つけられる場とか、自分を成長させてくれる場と思っていただければ、化粧品の購入以外の目的で来店してくださるようになる。このような新しいコミュニティを世界中に持つことが、ポーラの存在意義なのだと思います。