「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」を受け継ぐ

--ポーラは創業90周年を迎えます。ポーラブランドは静岡で生まれ、いまやアジアに広がっていますが、その競争力は、どこから生まれているのでしょうか。

横手 ポーラは年に2回、ビジネスパートナーであるBDの表彰式を行っています。先日、90周年という節目の年が始まる表彰式の時、僕が約1500人の前で話したのは、BDの前身であるポーラレディ第1号の上木寿栄子(うえきすえこ)さんのことです。

創業から8年後の1937年といえば、女性の社会進出が進んでおらず、女性の販売員は珍しい存在。上木さんは、ポーラ京都支店の入り口にあった「セールスマン募集」の張り紙を見て、「女性ではあきまへんか」と自らポーラの門を叩いた。この勇気ある第一歩からポーラの女性活躍の歴史が始まったことを18年3月8日の「国際女性デー」の広告で訴えたところ、多くの反響があったんです。

当時の写真が1枚残っているんですが、中央に写っているのが、上木さん。周囲は、当時のポーラ役員陣。端っこには、創業者の鈴木忍が立っています。おそらく社長が静岡から京都に駆けつけて、第1号のポーラレディをお祝いした時の記念撮影なんですが、この写真を「国際女性デー」に使用する許可をいただくために、上木さんの実の娘さんとお話ししたとき、ポーラレディ第1号のあまりに素晴らしい仕事振りをお聞きして感銘を覚えたんですよ。

前列中央がポーラレディ(現BD)第1号の上木寿栄子さん。彼女の勇気ある行動がポーラの女性活躍の歴史が始まった

--それが競争力の源になっている、と。

横手 娘さんによると、上木さんは「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」ということを実践されていたそうです。当時のポーラレディは、商品を風呂敷で包み、お客様の自宅に訪問していたのですが、上木さんは、高級化粧品を提案するのに相応しい着物を着こなすなど、まったく隙のない装いだった、と。お客様を訪問する前日、着物の着方、歩き方、風呂敷の包み方、広げ方、たたみ方をなんども練習していたというのです。幼少期の娘さんからすると、物を売りに行くという印象はまったくなかったそうです。

もともと上木さんの家庭は、ごく普通の暮らしを営んでいたそうですが、上流階級の邸宅に足を運んだ時に、見たこと、感じたことから学びを得て、それを自分の家で実践することで、例えば、季節の衣替えはきちんとしようとか、自らの感性、美意識、スキルを磨いていったのです。娘さんによると、上木さんは外出するときには、お化粧を欠かしたことがなく、いつの間にか部屋中に姿見が増えていったそうです。

上木さんは67年間ポーラの仕事に従事し、勇退されましたが、娘さんは「ポーラのために生まれてきたような母でした」とおっしゃっていました。つまり、上木さんは誰も提示していないのに、「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」というポーラの仕事のあるべき姿を実践していた。しかも、お客様に尽くし、学ぶことで自らを成長させる。その結果として、社会に影響力を与えたことは、その後のポーラレディ、いまのBDの道標になったのは間違いありません。

--BDの原点から顧客重視のビジネスを続けていることが、ポーラの強みを育んでいるということですね。

横手 現在、月商2億円の組織を率いる静岡の遠藤芳枝城山支店長も、お客様、スタッフに尽くす人です。例えば、研修会を開く時、朝一番に出社して、椅子とテービルをセッティングし、ゴミを拾って、トイレを掃除する。BDが到着すると、率先して「お疲れさま」「ありがとう」と声を掛けて、迎え入れる。どうしてそこまで相手に尽くすことができるのかと尋ねたところ、最初にポーラの仕事をしたときの話をしてくれました。

ポーラの横手喜一社長

初めてメーク品を一つ買っていただけたとき、売れたことを喜ぶのではなく、お客様が自分を選んでくれたこと、自分を認めてくれたことが嬉しかったそうで、だから恩返ししないといけないと心に誓ったというのです。そのためには、もっと勉強しなくてはいけない、もっと努力して、次に会うときに素敵な提案ができるようにならなければいけない。その一心で遠藤さんは仕事に臨んできたわけです。

--第1号の上木さんと同じですね。

横手 そうです。結局、ポーラの仕事とは、指示待ちではなく、自分が出会った人に認めていただき、深い関係を築き、人生とともに歩むつながりをつくれるかにかかっているんです。その過程で、自らが努力して成長し、新しい仲間が増える経験を積んでいく。これについて、僕は、役割の仕事ではなく、使命の仕事だ、と表現しています。

ポーラが創業から90年続いてきたのは、文字通り、現場の人たちが使命として仕事に取り組んできたから。誰かに支持されたわけではなく、目の前のお客様の美しくなりたいという気持ちを叶えてあげたい、それを通じて自分自身が成長したい。この使命感を持ってやれる人が第1号から今の日本のトップを走る人たちまで、一貫して続けていることがポーラの90年の歴史そのものだと思うんですよ。

--より良い商品をお客に提供したい。そのような現場の思いに本社側が触発されたから、商品力に磨きがかかったのでは。

横手 それもあると思います。あと、特にスキンケアは、使い続けていただくことで、本当の良さを実感していただけるから、BDがお客様の一生に寄り添っていきたいという想いで仕事をしたことでポーラの研究所のスキンケアの強みがさらに生かされたという相乗効果を発揮してきたと思います。