「すごく嬉しいですよ」。ポーラの横手喜一社長が社員の成長を褒め、笑った。2016年1月に社長に就いてから何度もインタビューを重ねてきたが、ほとんど社員を褒めたことがない。いつも5年後、10年後を見据え、ビューティーディレクター(BD)、ショップオーナーというビジネスパートナーに対して以上に、ポーラの社員には意識改革を求めてきたから。横手社長の笑顔は意外だった。

ポーラは2019年9月18日、創業90周年を迎える。化粧品を売る、エステを提供するという単純明快なビジネスモデルは、いずれ通用しなくなるのではないか。だから横手社長は、日本はもちろんアジアを含む世界において、ポーラが社会にとって不可欠な存在になることを目指しており、そうしなければ「ポーラの未来はない」と断言する。今回の取材では、決算の数字には現れない、国内外の地域に寄り添うポーラの戦略に込められた想いを率直に聞いた。

「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」を受け継ぐ

--ポーラは創業90周年を迎えます。ポーラブランドは静岡で生まれ、いまやアジアに広がっていますが、その競争力は、どこから生まれているのでしょうか。

横手 ポーラは年に2回、ビジネスパートナーであるBDの表彰式を行っています。先日、90周年という節目の年が始まる表彰式の時、僕が約1500人の前で話したのは、BDの前身であるポーラレディ第1号の上木寿栄子(うえきすえこ)さんのことです。

創業から8年後の1937年といえば、女性の社会進出が進んでおらず、女性の販売員は珍しい存在。上木さんは、ポーラ京都支店の入り口にあった「セールスマン募集」の張り紙を見て、「女性ではあきまへんか」と自らポーラの門を叩いた。この勇気ある第一歩からポーラの女性活躍の歴史が始まったことを18年3月8日の「国際女性デー」の広告で訴えたところ、多くの反響があったんです。

当時の写真が1枚残っているんですが、中央に写っているのが、上木さん。周囲は、当時のポーラ役員陣。端っこには、創業者の鈴木忍が立っています。おそらく社長が静岡から京都に駆けつけて、第1号のポーラレディをお祝いした時の記念撮影なんですが、この写真を「国際女性デー」に使用する許可をいただくために、上木さんの実の娘さんとお話ししたとき、ポーラレディ第1号のあまりに素晴らしい仕事振りをお聞きして感銘を覚えたんですよ。

前列中央がポーラレディ(現BD)第1号の上木寿栄子さん。彼女の勇気ある行動がポーラの女性活躍の歴史が始まった

--それが競争力の源になっている、と。

横手 娘さんによると、上木さんは「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」ということを実践されていたそうです。当時のポーラレディは、商品を風呂敷で包み、お客様の自宅に訪問していたのですが、上木さんは、高級化粧品を提案するのに相応しい着物を着こなすなど、まったく隙のない装いだった、と。お客様を訪問する前日、着物の着方、歩き方、風呂敷の包み方、広げ方、たたみ方をなんども練習していたというのです。幼少期の娘さんからすると、物を売りに行くという印象はまったくなかったそうです。

もともと上木さんの家庭は、ごく普通の暮らしを営んでいたそうですが、上流階級の邸宅に足を運んだ時に、見たこと、感じたことから学びを得て、それを自分の家で実践することで、例えば、季節の衣替えはきちんとしようとか、自らの感性、美意識、スキルを磨いていったのです。娘さんによると、上木さんは外出するときには、お化粧を欠かしたことがなく、いつの間にか部屋中に姿見が増えていったそうです。

上木さんは67年間ポーラの仕事に従事し、勇退されましたが、娘さんは「ポーラのために生まれてきたような母でした」とおっしゃっていました。つまり、上木さんは誰も提示していないのに、「お客様に尽くして、尽くして、尽くし倒す」というポーラの仕事のあるべき姿を実践していた。しかも、お客様に尽くし、学ぶことで自らを成長させる。その結果として、社会に影響力を与えたことは、その後のポーラレディ、いまのBDの道標になったのは間違いありません。

--BDの原点から顧客重視のビジネスを続けていることが、ポーラの強みを育んでいるということですね。

横手 現在、月商2億円の組織を率いる静岡の遠藤芳枝城山支店長も、お客様、スタッフに尽くす人です。例えば、研修会を開く時、朝一番に出社して、椅子とテービルをセッティングし、ゴミを拾って、トイレを掃除する。BDが到着すると、率先して「お疲れさま」「ありがとう」と声を掛けて、迎え入れる。どうしてそこまで相手に尽くすことができるのかと尋ねたところ、最初にポーラの仕事をしたときの話をしてくれました。

ポーラの横手喜一社長

初めてメーク品を一つ買っていただけたとき、売れたことを喜ぶのではなく、お客様が自分を選んでくれたこと、自分を認めてくれたことが嬉しかったそうで、だから恩返ししないといけないと心に誓ったというのです。そのためには、もっと勉強しなくてはいけない、もっと努力して、次に会うときに素敵な提案ができるようにならなければいけない。その一心で遠藤さんは仕事に臨んできたわけです。

--第1号の上木さんと同じですね。

横手 そうです。結局、ポーラの仕事とは、指示待ちではなく、自分が出会った人に認めていただき、深い関係を築き、人生とともに歩むつながりをつくれるかにかかっているんです。その過程で、自らが努力して成長し、新しい仲間が増える経験を積んでいく。これについて、僕は、役割の仕事ではなく、使命の仕事だ、と表現しています。

ポーラが創業から90年続いてきたのは、文字通り、現場の人たちが使命として仕事に取り組んできたから。誰かに支持されたわけではなく、目の前のお客様の美しくなりたいという気持ちを叶えてあげたい、それを通じて自分自身が成長したい。この使命感を持ってやれる人が第1号から今の日本のトップを走る人たちまで、一貫して続けていることがポーラの90年の歴史そのものだと思うんですよ。

--より良い商品をお客に提供したい。そのような現場の思いに本社側が触発されたから、商品力に磨きがかかったのでは。

横手 それもあると思います。あと、特にスキンケアは、使い続けていただくことで、本当の良さを実感していただけるから、BDがお客様の一生に寄り添っていきたいという想いで仕事をしたことでポーラの研究所のスキンケアの強みがさらに生かされたという相乗効果を発揮してきたと思います。

イノベーションと社会的意義の関係性が変わった

--ポーラ独自の企業文化を継承していることも、競争力を支えているのではないでしょうか。

横手 ポーラが文化を失わないのは、一人一人のBDの仕事が「やらされ仕事」ではないからでしょう。自分のビジネスとして自らの意思で選び、お客様に向き合っている個人事業主ですから、仕事と生活が一体になっています。

例えば、仕事とプライベートの両立で忙しい現代女性のニーズに寄り添うこともできる。本当にお客様に向き合うことは、BDのやりがいとなり、充実感につながります。つまり、ポーラの仕事は全て個対応で、各自でやることが違うから、答えもなく、終わりもない。オペレーションのマニュアルはあっても、接客のマニュアルがないのはそのためです。

ポーラレディの第1号から自然体で行ってきた我々の仕事は、これからの社会に絶対に求められます。ポーラの仕事の価値を発信すれば、これからの社会に適した働き方だと認めていただけると思います。

--個に寄り添うことで、成長の機会が増えるのですね。

横手 世の中は変わっています。例えば、社会は成長から成熟にシフトしており、成長の追求が生む歪みに疲れを感じたり、疑問を持ち始める生活者が増え、成長を第一に置く考え方に違和感を当たり前のように持ち始めています。

横手社長はポーラと社会の関係性、距離感を大切にしている

そうすると、どこかで調整局面を迎え、バランスをとる動きが強くなる。自分らしさ、人それぞれのやりがいを見出すことを問われる時代になりつつあるからこそ、ポーラのように自分で考え、自分で目の前の人に尽くせる仕事。それを通じて自分が成長し、充実感を得る仕事は重要性が高まると思います。

--ポーラは「共創から生まれる新しい価値」をテーマに掲げていますが、現状はいかがでしょうか。

横手 価値観の成熟化が進むことで、社会の中の自分を考える方向に変わってきたのではないか。例えば、新卒採用の最終面接で感じたのは、学生の意識が様変わりしていることです。「2029年にどのようなポーラをつくりたいか」をテーマにプレゼンテーションを聞くと、これまではポーラを軸に物事を語る学生が多かったのに、最近は、まず私が実現したい社会について語る学生が増えています。

一人一人が自立して生き生き生活できる社会を実現したい、仕事を諦めて子育てに専念してくれた母親の背中を見て、いつも女性が頑張れる社会を実現したいとか。このような自分の考えと、女性活躍支援を軸にした活動を全国津々浦々でやっているポーラの考えが一致するから、採用試験にエントリーしたと学生は話すんですね。

--企業と社会の距離を意識しなければ、ビジネスを成長させることが難しくなっていますね。

横手 先日、ポーラ化成工業が共同研究をスタートしたマサチューセッツ工科大学メディアラボ(MITメディアラボ)の伊藤穰一所長に教えていただいたのですが、これまでは「イノベーション」の名の下に、とにかく新しいことをやって、そのあとに社会的な意義を考えてきたが、今の学生は社会にとって価値はあるのか、という視点からイノベーションを解き明かす方向に一気に変わってきているそうです。これは、まさにポーラに起きていることと同じです。

地域との共生活動「うつくしくはたらくプロジェクト」について発表し、社員が共有

その最たるものは、ポーラが行っている地域との共生活動「うつくしくはたらくプロジェクト」で、自治体や地元企業と一緒に地域の女性の働き方や子育て中の女性の活躍の場を増やす取り組みを行っていますが、これへの共感が広がることで、プロジェクトは自然と全国に広がっている。あらゆる人々が社会の成熟化に伴う価値観の変化を感じており、そこに向き合う機会を求めている。

この流れに乗れていることは、ポーラのステークホルダーのやりがい、充実感につながっています。2年ほど前から、ポーラと社会のウィンウィンの関係が見えてきたのは、私にとって嬉しいことですよ。

ポーラは経済合理性だけでは紐解けない

--社会の成熟化は、世界中で進む。ポーラの可能性はそこにある、と。

横手 そうです。昨今の働き方改革において、仕事とライフスタイルを別々に考えるのは、まさに役割重視の時代。生活のために役割として仕事をこなす。だから、ワークライフバランスを議論しなければいけない。でも使命という仕事になると、その思いは自身の根幹となる考え方とつながってくるので、ライフとワークが切り離せなくなる。

そうなると、目の前の人はもちろん、自分が住んでいる地域、社会、家族と自分を結びつけることが問われるようになりますから、ポーラのBD、ショップオーナーが持っている社会的価値は、これから高まっていく。ポーラの売り場は、化粧品を届ける場という役割を越えて、人と人が出会う場、一緒に課題解決を考える場として重要な役割が果たせるんじゃないか、と思っています。

--地域の中心に「ポーラ ザ ビューティ」があるから、コミュニティが成り立つと言われる存在を目指しているんですね。

横手 自然に人が集まる場所。化粧品を探していない人も足を運べる場になれば、ポーラは人と人の橋渡し役となり、新しい取り組みが生まれるコミュニティになると思います。ポーラのショップオーナーがそれぞれの地域においける存在意義を提示できると、ポーラで働こうと思ってもらえる。

「ポーラ ザ ビューティ」を地域を支える存在にする

それを実践しているBD、ショップオーナーが増えていることが、ポーラの強さを支えています。この社会の変化は、中国などの海外マーケットにも広がっていく。化粧品売り場は、物を売って、サービスを提供する場と考える時代は終わっていくのだと思います。

「ポーラ ザ ビューティ」の店内。地域の人々が集う場に進化させていく

--成熟化が進んでいる中国沿岸部などは、ポーラが一気に成長してもおかしくない。ただ、グローバルブランドになるには、ブランドの哲学を発信し、浸透させないといけません。

横手 ブランドのメッセージを理解していただくことは、成長の可能性を伝えることになるとともに、ポーラのビジネスが経済合理性だけでは紐解けない部分で成立していることを理解してもらうことにもつながります。社会、経済が変革していく中で、おそらく世の中の価値観は経済合理性だけで理解できなくなりますから。女性を通して社会に寄り添っていたポーラへの共感を広げることに力を注がなければ、ポーラの価値が台無しになりかねない。

--具体的には。

横手 先日、中国・深センに直営店を出店した時、オープニングイベントとして、主力商品である最高級ブランド「B.A」のプレゼンテーションをするのが普通だと思いますが、私たちは草月流の生け花のプレゼン、ワークショップを行ったんです。

日本発のブランドとして日本の文化を体験してもらいたいという想いもありますが、それ以上に私たちは、生け花が新しい自分と新しい物の見方の発見、気づきの機会になると思い、深センのお客様に体験していただいた。

ポーラという会社が何を考え、何を大切にしているのかに共感してもらうことが狙いです。日本の高級コスメを買いに来た中国のお客様に、商品の購入だけで終わらせるのは避けなければいけません。

--商品の販売は顧客とブランドの出会いの始まりでしかない。

横手 そうです。商品の販売だけで終わると、そのお客様は、次は他の高級コスメブランドでも構わないと思うかもしれない。きちんとポーラの哲学、考え方を伝え、自分自身の新しい一面を見つけられる場とか、自分を成長させてくれる場と思っていただければ、化粧品の購入以外の目的で来店してくださるようになる。このような新しいコミュニティを世界中に持つことが、ポーラの存在意義なのだと思います。

ポーラとオルビスの連携に驚いた

--先ほどおっしゃった経済成長依存への疑問は、国を越えた共感を呼ぶ可能性があります。

横手 結局、人の気持ちに訴える価値の在り方は、ボーダレスですよ。我々は、そこに自信と誇りを持つべきだと思います。ポーラは創業90周年を迎えるにあたり、「未来は、出会いでできている」をテーマに、ポーラが思い描く「未来の美しさに向けた出会い」を6本の映像で表現しています。

第1弾「#1 この島と生きていく ~長崎県五島市 福江島~」、第2弾「#2 夢に国境はない ~中国・深セン~」、第3弾「#3 日常にないもの ~仙台ロイヤルパークホテル~」を特設サイト(https://www.pola.co.jp/special/anniversary90th/)で公開していますが、日本各地で、BDはもちろん、ポーラ社員が何をすべきかを考え抜いた仕事が生まれて来ているのは、すごく嬉しいことです。

--これまで何度も横手さんをインタビューしていますが、現場の変化を手放しで喜ぶ姿は初めて見ました。

横手 ポーラの考え方、思いを自主的にキャッチし、それを現場に落とし込み、独自の取り組みを企画し、周囲を巻き込みながら実行する。こうした動きを聞くと、本当に嬉しい。先日も、九州の会議に参加したら、ポーラTB事業部の鹿児島ゾーンとオルビスの鹿児島のショップが一緒になって地元で美容体験イベントをやった、と報告を受けたんです。これには驚きました。

--同じグループとはいえ、ポーラとオルビスは、これまでビジネス上の接点が少ない。意外な組み合わせですね。

横手 鹿児島ゾーンのスタッフもBDも、地元で集客力の高い化粧品イベントをやりたいと考え、ショッピングモール内のブランドに声を掛けたものの、実現のハードルは高かった。それに乗ってくれたのが、オルビス。去年の第1回が盛り上がったので、今年も第2回を実施したそうです。

ポーラとオルビスは同じグループとはいえ、化粧品ブランドとして競合している側面もありますが、鹿児島ゾーンのスタッフは「抵抗感は全然ない」と話すんです。むしろ、オルビスの接客、若年層のお客様との交流から学びがあったことから、今度は大分ゾーンがオルビスと組んだイベントを開催する、と動きが広がっています。

--地域と地域のコラボが自然に生まれ、広がり始めたことに手応えがある、と。

横手 事例があるといっても、少しずつ生まれているに過ぎませんが、手応えはあります。採用活動において内定者の声を聞くと、若手社員の個性が豊かで、自分たちの意見、アイデアで仕事を進められる、と聞いてポーラを志望したという話を聞くと、組織が少し変わり始めたことを感じます。

--一昔前のポーラの印象といえば、営業力の強さにスポットが当たりがちでしたから、ずいぶん変わりました。

横手 その意味では、すごい変わったと思いますよ。

--それでも、成果は出始めたばかりとのことですが、創業100周年を目指すポーラの課題とは。

横手 今の変化の延長線上に100周年は入っていると思います。この10年という期間で、真の意味でポーラが社会性を養い、それに適した価値を提供できるか。現代における社会的意義をポーラ社員、ショップオーナー、BDにきちんと伝え、それを分かち合えるかが鍵を握っているように思います。

--まだ道半ばですか。

横手 そうですね。まったくもって安心というレベルになってくれないと、10年後の先にある10年、つまり創業110年、120年、130年を目指す土台が築けない。これを疎かにすると、未来が大きく変わってしまうような気がします。

というのは、これからの10年はマーケティングの概念が変わる10年だと思っているからです。企業は、商品とサービスを一人でも多くのお客様に届けるマーケティングをずっとやっているわけですが、おそらく、そのような手法は、社会にも、お客様にも、響かなくなっていく。生活の余計なもの、つまり、ノイズのような存在になるのではないか。

先ほど話したように、社会の中で、地域の中で、お客様の心の中で、どうやって関係性を結ぶかが問われた時に、ポーラの中で少しずつ芽吹いていることは良いこととはいえ、それが企業活動の全体に波及しないと、BDも、社員も、お客様もポーラに集まってこないと思います。

教育の場ではなく、学びの場が重要になる

--その変化を示すのが、社会性を重視する若者の増加ですね。

横手 社会のあり方を最優先に考える世代が入社してきたとき、これからの社会を語れる知識と感度を持つ社員がいるかどうか。社会と企業の間に乖離が生じることは避けなければいけません。その価値観を社内で醸成し、根付かせることが創業100周年に向けた転換のポイントで、いまは、そのちょうど過渡期にいると思います。

--組織全体がオープンマインドを持たなければ、価値観の変化を許容できません。

横手 ポーラに集う人材一人一人が社会的な価値観の大きな変化に気づいて、自分自身の仕事の仕方を変えていけるかに尽きると思います。

--とはいえ、日々の仕事に追われる中、気づきを得るのは容易ではありません。

横手 組織全体に気づきを与える役割は、社長である僕の使命です。新しい視点の投げかけや物事の見方を提示し続けられるか。言われて見ればそうだよね、という気づきをもっと増やせば、それを理解する人材、感じる人材、動きを変える人材も増えていく。社長の仕事は、方針や理念を発信することと気づきを与えることが一番大事だと思います。

--19年1月、事業部はもちろん、国内と海外も横断する教育体制「ポーラ ユニバーシティ(UNIV.)」を立ち上げました。気づきを与える場として期待しているのでは。

横手 ユニバーシティのコンセプトは、教育の場ではなく、学びの場です。BDや社員に知識を与えるのではなく、学び、成長してもらうことが重要で、ここにも大きな価値観の変化があるのです。

ポーラ ユニバーシティの組織図

例えば、営業が強い企業は、社員に教えることがうまく、教え込むことにもやりがいを感じるでしょう。そうすると、キーワードを覚えて、それを反復練習しますが、ユニバーシティが目指すのは、そこではない。自ら気がつき、周りとディスカッションを繰り返し、学びを得ていくことを大切にしています。

--具体的には。

横手 例えば、制服の着こなし方、髪の毛の整え方などを伝えるのは接客の基本中の基本ですが、手段だけを教えるのは詰め込み型の教育です。これがポーラのやり方だ、と価値観を押し付けています。

でも、起業家精神をもち、ショップオーナーを目指しているBDほど、自分たちで考えて、この地域のお客様には、これが適している、喜ばれると自分で考えることができなければいけません。ですから、ユニバーシティでは、ポーラに相応しいスタイルは何か、と問いかけ、みんなで答えを見つける。これが、これからの教育のあり方だと考えています。

--ユニバーシティの役割は、意識改革を加速させることもあるのですね。

横手 詰め込み型の教育は、仕事を役割で考えている証左です。でも、本当に目の前のお客様に喜んでいただき、感動していただきたいと思ったら、役割を越えて考え抜くはずです。そこを追求すると、使命としての仕事になる。これを目指すためにも、今からどういう思考回路が必要なのか、どうやってお客様の気持ちを理解するのかのスキルを培っておかなければ、これからのお客様と信頼関係を築くことはできないと思います。

--お客様に、仲間に、気づきを与えられる人材を育てる、と。

横手 ユニバーシティ内には、知識・スキルを学ぶ場であるビューティクリエイション学部に加え、ビジネス・SAL学部があります。SALとは、ポーラの企業理念「Science. Art. Love」の頭文字をとったもので、幅広いビジネス知識を得たり、専門性を追求したりするなど、リベラルアーツを学ぶ場といえます。

これから地域でお店を経営するのに、何が必要なのか。その本質的な問いを考え続けるための感覚を養ってほしい。一過性のヒット商品、サービスを生むだけでは、経営を持続できない時代ですから、その感覚がないと、女性起業家を育てても経営は成り立ちませんよ。

--優秀な女性起業家に育つ人ほど、ポーラ以外にチャレンジに興味を持ちませんか。

横手 化粧品の魅力がある限り、ポーラとBD、オーナーの絆は消えないでしょう。朝と夜、自分の肌に向き合う時間をどのように過ごすかは、女性の生活、人生にとって重要な価値を持っています。多くのお客様は、ポーラの商品を使い続けることにモチベーションがある。ポーラのBDやオーナーは、その気持ちを人一倍強く持っていますから、自分の生活そのものを含むビジネスに対して、女性起業家としてのスキルが高まったからとポーラから離れる気持ちにはならないと信じています。

--ブランド愛の強いビジネスパートナーの心を満たす商品を出し続けることが求められます。最近では、10年ぶりに承認された新規美白医薬部外品成分を配合した「ホワイトショット」を5月24日に発売しました。

横手 このような商品は、ポーラに興味を示す女性を増やすので、コミュニティの門戸を広げる効果が期待できますよね。すでにあるコミュニティにおいても、自分たちが目指している方向性を再確認できますから、地域におけるポーラの可能性が高まります。17年1月に発売したシワ改善薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」でも、それを実感しました。

新カテゴリーを創出したシワ改善薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」

日本で第1号、10年振りの承認というメッセージを出すことは、企業やブランドが社会的に意義あるものを提供し続けなければいけないという意味で、今後、ますます重要になるかもしれませんね。

--「ホワイトショット」の新製品は、6月1日に天猫国際を通じて中国で発売。リンクルショットの投入が発売から約2年半後であることを考えると、アジア展開がスピードアップしています。

横手 数年前だったら、アジア展開の優先順位は圧倒的に低かったのですが、今は中国で美白を求めている女性が増え、そのぶん、ポーラに期待している女性も増加しています。この事実を踏まえ、中国女性とのコミュニケーションをきちんと図ろうという組織風土は、2年ほど前から意識的につくってきました。

天猫国際のPOLA旗艦店。10年ぶりに承認された新規美白医薬部外品成分を配合した「ホワイトショット」を販売

--ポーラのターゲットが広がっていることに気が付かせた、と。

横手 ポーラの場合、海外取引は卸価格として計上されるので、決算資料の海外売上比率は、実際のビジネス規模よりも低く出るんです。つまり、個数ベースあるいは末端売上ベースに換算すると、決算の数字とは様相が違う。推計値ですが、国内のインバウンド売上高を海外売上に組み込むと、ポーラは、国内と海外のお客様にバランスよく支えていただいていることが見えてきます。

この変化を仮説を含めて社員に提示すると、当然、意識が変化します。ブランドマネジャーは、免税店の店頭で何が起きているのか、百貨店の店頭で何が起きているのか、中国国内で何が起きているのかに興味を持つようになっています。

--ポーラ ザ ビューティ銀座店での中国女性からの問い合わせ件数について、17年は月5~10件以下だったのが、18年下期は月180件程度に増加している。これを調べ、社員に伝えたのは、横手さんと聞きました。

横手 価値観を変えるきっかけを与えたいんですよ。会社の基本的な管理の枠組み、情報収集の枠組みは、大事な仕事ですが、それだけに依存すると、今起きている変化のごく一部しか把握できなくなってしまう。変化を見つけて、見える化して、社長自ら発信することが大事なんだと思います。

--現場に足を運ぶことは多いのですか。

横手 外国人からの問い合わせが増えている、と耳にしたら次の日に見に行きますよ。現場の状況を把握し、会議で報告。東京だけの事象なのかと調べを進めていく。このような変化そのものが日常の数字では見えない部分を浮き彫りにしていく。こういうのを見つけ出して、どんどん社員に伝えていきたいですよね。