イノベーションと社会的意義の関係性が変わった
--ポーラ独自の企業文化を継承していることも、競争力を支えているのではないでしょうか。
横手 ポーラが文化を失わないのは、一人一人のBDの仕事が「やらされ仕事」ではないからでしょう。自分のビジネスとして自らの意思で選び、お客様に向き合っている個人事業主ですから、仕事と生活が一体になっています。
例えば、仕事とプライベートの両立で忙しい現代女性のニーズに寄り添うこともできる。本当にお客様に向き合うことは、BDのやりがいとなり、充実感につながります。つまり、ポーラの仕事は全て個対応で、各自でやることが違うから、答えもなく、終わりもない。オペレーションのマニュアルはあっても、接客のマニュアルがないのはそのためです。
ポーラレディの第1号から自然体で行ってきた我々の仕事は、これからの社会に絶対に求められます。ポーラの仕事の価値を発信すれば、これからの社会に適した働き方だと認めていただけると思います。
--個に寄り添うことで、成長の機会が増えるのですね。
横手 世の中は変わっています。例えば、社会は成長から成熟にシフトしており、成長の追求が生む歪みに疲れを感じたり、疑問を持ち始める生活者が増え、成長を第一に置く考え方に違和感を当たり前のように持ち始めています。
そうすると、どこかで調整局面を迎え、バランスをとる動きが強くなる。自分らしさ、人それぞれのやりがいを見出すことを問われる時代になりつつあるからこそ、ポーラのように自分で考え、自分で目の前の人に尽くせる仕事。それを通じて自分が成長し、充実感を得る仕事は重要性が高まると思います。
--ポーラは「共創から生まれる新しい価値」をテーマに掲げていますが、現状はいかがでしょうか。
横手 価値観の成熟化が進むことで、社会の中の自分を考える方向に変わってきたのではないか。例えば、新卒採用の最終面接で感じたのは、学生の意識が様変わりしていることです。「2029年にどのようなポーラをつくりたいか」をテーマにプレゼンテーションを聞くと、これまではポーラを軸に物事を語る学生が多かったのに、最近は、まず私が実現したい社会について語る学生が増えています。
一人一人が自立して生き生き生活できる社会を実現したい、仕事を諦めて子育てに専念してくれた母親の背中を見て、いつも女性が頑張れる社会を実現したいとか。このような自分の考えと、女性活躍支援を軸にした活動を全国津々浦々でやっているポーラの考えが一致するから、採用試験にエントリーしたと学生は話すんですね。
--企業と社会の距離を意識しなければ、ビジネスを成長させることが難しくなっていますね。
横手 先日、ポーラ化成工業が共同研究をスタートしたマサチューセッツ工科大学メディアラボ(MITメディアラボ)の伊藤穰一所長に教えていただいたのですが、これまでは「イノベーション」の名の下に、とにかく新しいことをやって、そのあとに社会的な意義を考えてきたが、今の学生は社会にとって価値はあるのか、という視点からイノベーションを解き明かす方向に一気に変わってきているそうです。これは、まさにポーラに起きていることと同じです。
その最たるものは、ポーラが行っている地域との共生活動「うつくしくはたらくプロジェクト」で、自治体や地元企業と一緒に地域の女性の働き方や子育て中の女性の活躍の場を増やす取り組みを行っていますが、これへの共感が広がることで、プロジェクトは自然と全国に広がっている。あらゆる人々が社会の成熟化に伴う価値観の変化を感じており、そこに向き合う機会を求めている。
この流れに乗れていることは、ポーラのステークホルダーのやりがい、充実感につながっています。2年ほど前から、ポーラと社会のウィンウィンの関係が見えてきたのは、私にとって嬉しいことですよ。