日本の化粧文化を世界に発信する
――花王グループは、グローバル成長が期待できる化粧品ブランドを選定し、投資を集中しています。海外事業の状況について、どのように考えていますか。
内山 中国市場はプレミアム領域の勢いが落ちています。中国発のトレンド、中国ブランドの興隆を意味する「国潮」が消費トレンドになっているように、現地ブランドを支持する生活者が増加傾向なのは、日本ブランドにとって逆風です。しかし、花王グループの「Curél(キュレル)」と「freeplus(フリープラス)」は現地開発・生産・販売に切り替えるなど、地産地消の戦略に舵を切ったことで、売れ行きは好調です。この二つのブランドのように、中国現地の状況に合わせた戦略を推し進めようと思います。
――日本の美意識と先端科学を融合させたグローバルラグジュアリーブランド「SENSAI(センサイ)」については。
内山 ブランドコンセプトは「THE SENSE AND SCIENCE OF JAPAN」で、日本の繊細な美意識と科学技術を融合させた商品を提案。例えば、日本古来の希少なシルク「小石丸シルク」は比類のない細さと美しさを持っており、「SENSAI」の商品に独自価値をもたらしています。また、茶道にインスパイアされたスキンケアのリチュアルで、ダブル洗顔やダブル保湿を丁寧に行い、肌を慈しむようにケアする「Saho(作法)」を提唱しているのも、「SENSAI」の独自性を支えています。ASEANを含むアジア市場に広く打って出て、グローバルラグジュアリーブランドの地位を確立します。
「SENSAI」は広くアジア市場に出て日本のラグジュアリーブランドとして存在感を確立する
――「MOLTON BROWN(モルトンブラウン)」の成長戦略は進んでいますか。
内山 「MOLTON BROWN」は、出店エリアの周辺にあるラグジュアリーホテルやレストランでアメニティなどを展開することで、お客さまとのタッチポイントを創出。ブランドと商品への興味喚起につなげ、ECに送客する独自のOMO戦略「MOLTON BROWN VILLAGE」を展開しています。日本では長野県軽井沢で行っており、店舗は軽井沢・プリンスショッピングプラザ内にあります。そしてザ・プリンス ヴィラ軽井沢にアメニティを導入、軽井沢プリンスホテル フォレスターナ軽井沢の結婚式場に引き出物を提供しています。このように同エリアでのさまざまなタッチポイントを創出する「MOLTON BROWN VILLAGE」戦略が奏功していますので、国内各地に増やすだけでなく、アジア各地にも広げていきます。すでにマレーシアや台湾では順調に進行。24年末にはインドネシアに初進出し、旗艦店をオープンします。これにより、計画していたアジア各地での導入が完了しました。「MOLTON BROWN」は、ブリティッシュスタイルを象徴するラグジュアリーフレグランスブランドであり、グローバル市場ではフレグランスが伸長しているので、それを追い風に感度の高いお客さまを獲得していこうと思っています。
――グローバル成長ブランド以外は、ロイヤルティマーケティングにシフトしています。「TWANY(トワニー)」や「LISSAGE(リサージ)」などのブランド群は、どのように育成しますか。
内山 各ブランドにカテゴリーNo.1をうたえるヒーローアイテムを生み出し、ブランドの個性に共感するお客さまを固定化する取り組みに投資を継続します。その中でもカウンセリングブランドについては、お客さまの肌状態や好みを知り尽くす化粧品専門店などの取引先様と強く結び付き、一緒になって顧客づくりに挑むことが大切です。デジタル化が進み、情報が氾濫している時代ですから、自ずと対面接客の価値は高まっています。そこにチャンスを見出し、ブランドに愛情を持ってお客さまに推奨してくださる取引先様と一緒にブランドの顧客獲得を進めていきたいと思います。
――化粧品業界が抱える課題に対して、花王がリーダーシップを発揮できることはありませんか。
内山 人生100年時代ですから、これまで以上に化粧品を長く使う生活者が増えてくると思います。お客さまの悩みに耳を傾け、それに適した商品を選び、使い方を含めて提案する対面販売は、幅広い世代のお客さまに長く愛され続けるブランドへ育成することにつながります。また、年齢を重ねながら美しく生き続けるという日本らしい化粧文化を国内外に発信することは、産業全体にとって重要な取り組みになり得ます。さらに、花王はESG戦略を積極果敢に進めている企業です。そこで得た知見は業界にも還元しており、特に日用品業界では他社との協業が進んでいます。このような手法は化粧品業界でも応用できますから、私の存在意義を発揮する分野だと思います。まずは化粧品業界の皆さまと積極的に対話を重ね、花王グループの化粧品事業が貢献できることを探ります。★
月刊『国際商業』2025年02月号掲載