パーパスに基づくブランド価値を重視

――改めて足元の化粧品市場について、どのように捉えていますか。

内山 日本市場については、コロナの影響がほぼなくなり、市場は回復しています。ただ、韓国ブランドの台頭などがあり競争が激しくなっています。さらに訪日客数は戻っても、化粧品の購買はコロナ前の水準に戻っていない。トップラインが下がりつつあるのは、化粧品産業の共通課題ではないでしょうか。収益性の改善は喫緊の課題だと考え、まずは花王グループ一丸となって取り組もうと思います。

――具体的には、どのような手立てを打ちますか。

内山 お客さまが化粧品を買う時、多種多様な商品の中から自分の好みに合ったものを探すプロセスを楽しんでいます。ですから一定数以上の品数がないと、お客さまの購買意欲を引き出せませんが、一方でそれが生産コントロールの難易度を上げており、コスト高の要因にもなっています。お客さまの負担にならないように、生産体制の改善に一歩踏み込み、収益性改善に結び付けたい。そのために、最善策を模索することを重視します。

――競合が増えているとはいえ、特に「KANEBO(カネボウ)」と「KATE(ケイト)」の実績は好調に推移しています。

「KANEBO」は、パーパスに基づく強いメッセージでアジア市場に打って出る

内山 どちらもパーパスに基づくメッセージ性が強いことが共通項です。「KANEBO」のパーパスは「美ではなく、希望を発信する」で、単に美しさを提供するだけでなく、その人自身の魅力を引き出し、希望を感じていただきながら、自信を持って生きることを応援しています。「I HOPE.」というブランドメッセージは、商品やコミュニケーション活動を通じて多くの生活者の心に届き、共感の輪が広がっています。一方、「KATE」のブランドスローガン「NO MORE RULES.」は、社会的な同調圧力や固定観念にとらわれず、より自由にメイクを楽しんでほしいという願いを込めたもの。それが自分らしく生きたい、という生活者のインサイトに響いています。24年7月25日にオープンしたブランド初のグローバル旗艦店「KATE TOKYO 渋谷サクラステージ店」は、「NO MORE RULES.」の世界観を体現。リアルとデジタルを融合した体験を提供する場になっており、「KATE」らしい表現力だと思います。

「KATE」初のグローバル旗艦店は若年層が支持するパーパスを余すことなく体現

――プレステージブランド「est(エスト)」は24年秋にリブランディングを実施。第1弾の商品として9月6日にエイジングケアライン「G.P.」から3タイプの化粧水と乳液を発売。「est」の戦略をどう見ていますか。

内山 2000年に誕生した「est」は、エビデンスにこだわり、高い効果実感が特徴のソリューションを提案し、お客さま一人一人の真実の美しさを引き出すために、肌解析に重きをおいてきたブランドです。今回のリニューアルでも「est」らしい先見性が随所に表れていると思います。例えば、花王グループの化粧品ブランドでは初めてRNAモニタリング技術を活用した肌解析機「True Beauty Scope」を全店舗に導入。写真を撮るだけで肌のキメやみずみずしさ、メラニンの状態に加え、エイジングの3大要因と呼ばれる「角化不良・酸化・糖化」まで解析。お客さま一人一人の肌状態に合った商品を提案できるようになっています。また、ボトルデザインも非常に洗練されたと思います。この根底には、真実の美しさを突き詰めるために無駄なものを省く、という「est」の思想があります。シンプルなボトルデザインは、素肌を徹底的に磨くこと、そしてシンボルカラーの「True ORANGE」は朝日の光や人の持つぬくもりを象徴しており、揺らぎ立つエナジーをイメージしています。

「est」オリジナル肌解析「True Beauty Scope」