畠山 先ほど、「森は海の恋人」の活動を説明した時、植樹と教育を行ったことで川と海の環境は良くなった、と話しましたが、その状況を一変させたのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災でした。巨大な津波に襲われた気仙沼の海は真っ黒になり、私は、牡蠣の餌になる植物性プランクトンは死に絶えた、と落胆しました。
ところが、5月過ぎに京都大学の調査で、牡蠣が食べきれないほどの植物性プランクトンが海中にいることが判明し、私は人目をはばからずに嬉し泣きしました。京都大学の先生は、気仙沼湾流域の川の環境を整えたことが功を奏した、とおっしゃっていた。これは気仙沼だけの話ではなく、地球の未来を考える上で大切なことです。
鎌田 どういうことでしょうか。
畠山 日本を俯瞰すると、日本海と太平洋に数多の川が流れ込んでいる国だとわかります。2級河川まで含めると、約3万5000の川がある。つまり、日本は、生き物の宝庫である汽水域に囲まれた国なんです。人々は、新幹線や高速道路、リニアモーターなどの巨大事業に目を奪われがちですが、じつは川の環境を整え、自然に少しでも近づけていけば、日本という国は安泰なんです。結局、地球史を振り返ると、文明が生まれたのは川の側で、その環境の良し悪しが文明の未来を決めたわけです。だから、上流の森林がしっかりしていないと、人間は生きていけないんですよ。
金城 最近、僕も知人に借りた山に木を植えています。まだお遊びの段階ですが、水は高いところから低いところに落ちるとき、いろいろなものを巻き込む。そこにサンゴの敵である農薬や除草剤が含まれていることは、肌感覚でわかっているから、見て見ぬ振りはできないと思い、植樹について勉強を始めたんです。
例えば、サンゴに悪影響を与える殺虫剤は使えないから、アブラムシを駆除するためにトンボの研究をしたりしているんですよ。「海の種」でサンゴの養殖ができることは証明できたので、遠い将来、新しい農業の仕組みを提案できたら嬉しいと思って、山遊びを楽しんでいるんですよね。
畠山 例えば、沖縄の海は、赤土流出問題を抱えています。沖縄の美しい海を「美ら海」と呼ぶけれど、陸と海の関係をなるべくキレイに整えないと、青い海は保てない。海の生物、つまり、牡蠣の目線、サンゴの目線で物事を考えれば、何をすべきかが見えてくると思います。
鎌田 そのためにも「SAVE the BLUE」を永続的な取り組みにしていかなければいけません。もともと「雪肌精」は、和漢植物を配合した化粧品で、植物の恩恵の上に成り立っていることは1985年のブランド誕生時から変わっていません。
ただし、これまで以上に自然との共生を図っていかなければ、お客さまに認めていただけないでしょう。プラスチックの使用量を極力減らすために、再生紙の使用を増やしたり、サステナブルな資材を使用したり、さまざまな工夫を重ねていますが、その根幹を担うのが「SAVE the BLUE」だと考えています。
目先の数字を追うのではなく、社会的価値のある取り組みを一人でも多くの人に知っていただく。それを積み重ねることで、「雪肌精」のファンが増え、地球を守る活動が続いていく。このような取り組みに、コーセーの社員が誇りを持ち、プライドを懸けて前に進められるように導いていきます。
金城 環境問題を語るとき、絶望的な数字ばかり並べがちだけど、これはやめたほうがいいと思う。沖縄の海にゴミを捨てたおばあちゃんに声をかけたら、「昔からそうしてるよ。海は全部持っていってくれるから」と答えたんです。
大昔から沖縄では、人間と海が共生してきたんですが、近年、地球環境問題は加速しています。ゴミの量が急増していることに、年配の人たちは気がついていなかった。おじいちゃん、おばあちゃんに海を汚くしようなんて気持ちは一切ないから、怒ったり、注意しても仕方がない。
環境保全の現場で働く僕の願いは、他人の行動を糾弾するのではなく、環境問題を解決した先にある未来に希望が持てるようにしてほしい、ということ。それが多くの人たちに気づきを与え、環境保全への意識を高めることにつながると思うんです。
畠山 私も物事を悲観的に考えない性格で、いつも大丈夫だよ、と思っています。そういう風に考えていたほうが、世の中はうまく回っていきます。これの逆は絶望しかないから、物事が前に進まない。企業もそのように考えるべきだと思いますよ。
金城 良いことをやった企業を評価することが、当たり前に行われる社会になると、SDGsに取り組む企業がもっと増えると思います。企業がメリットを享受することを悪く捉える風潮があるけれど、それがなくなれば、物事の進み方が変わるでしょう。
もちろん、コーセーは、以前からそういう視線を持って、僕と一緒に頑張ってきてくれた。環境活動に取り組み企業価値を高めることが評価される時代になって、その見本がコーセーと言われるようになり、同じように取り組む企業が1社でも多くなったら、とても嬉しいです。
鎌田 化粧品は、医薬品ではありません。身体に塗ると、瞬時に効果が出るものではなく、個人差はありますが、1カ月、半年、1年と継続使用することで肌が美しくなります。例えば、ずっと保湿を続けると、40代、50代、60代と加齢するにしたがって、肌の質感に差が生じます。つまり、女性は、将来の肌が美しくなることに期待して、毎日、化粧品を使用しているのです。
このようにお客さま、社会と長く付き合えるのが、化粧品の強みです。「SAVE the BLUE」のような社会貢献活動も、短期間で成果を求めるのではなく、女性の肌を数十年かけてケアするように、長期視点で取り組む。そう考えると、化粧品ブランドは、地球環境に多大な貢献ができるカテゴリーなのかもしれません。そのためにも、先ほど申し上げたように、コーセーの社員が「SAVE the BLUE」に誇りを持ち、常に高いモチベーションで取り組めるようにしていかなければいけません。
金城 僕の夢は、沖縄のサンゴ礁を再生することです。子どもの頃、僕は、とてつもなくキレイな海を見て育った。釣りをするとき、サンゴの上を歩いていったんですよ。踏んだサンゴがバキバキ折れても、環境が良ければ再生力が高いから大丈夫だったんです。でも、いま、沖縄に残るサンゴは当時の1割未満。僕の子どもの頃の海がフルカラーテレビなら、いまはモノクロテレビを見ているような感覚です。あの美しい海が崩れるのを見たら、なんとかしようと動くしか選択肢がなかったんです。それが僕のモチベーションになっています。
畠山 私も、どうしてかわからないけど、物心ついた時から、生き物が大好きなんです。気仙沼も自然が豊かな土地で、子どもの頃、野山を走り回った。その経験は、いまの子どもたちにはできません。東日本大震災のとき、気仙沼周辺は大きく地盤沈下して、満潮になると、海水が耕作放棄地に流れ込んだ。そうすると、その土地に生き物がわーっと増えた。汽水域のように、海と陸の境目は生き物の宝庫。この環境に子どもたちを招き、思う存分、遊ばせることにとても価値があると信じているから、私もバイタリティが生まれるんです。
金城 もちろん、僕にも迷いがなかったわけじゃない。どうして僕がサンゴを増やさなければいけないのか。そういう悩みを抱えてたとき、多くの人々と語り合うことで、僕の考え方がまとまっていった。理屈抜きに大切に思えるものを大切にできる人生は、本当に幸せなんだと気がついたんです。理屈にとらわれて、他人を説得することばかりに目を奪われる。そういう大切なものを見失った人は、人生を振り返ったとき、後悔するのではないか。
だから、コーセーの雪肌精「SAVE the BLUE」プロジェクトは、誰にも遠慮することなく、動き回ってほしい。自分たちが化粧品業界の環境保全活動をリードしてきたと自負するなら、この先もリードし続けるという気概を持つべきです。コーセーは、僕が知っている企業の中で、一番誠実にサンゴに向き合ってきた企業なんだから、自信を持って行動して欲しいですよ。
鎌田 金城さん、畠山さんに激励していただき、とても光栄です。コーセーは雪肌精「SAVE the BLUE」プロジェクトに力を入れ続けます。地域に密着した活動を通じて、金城さんや畠山さんのような環境の専門家、お客さまや取引先の方々、社員などのステークホルダーを巻き込むことで、「SAVE the BLUE」を社会に根付かせていきます。★
(取材協力:コーセー)