ロート製薬は、色素細胞(メラノサイト)が細胞内に蓄積するビタミンC量を高め、メラニン合成を抑制するアプローチを開発した。これまで、ヘルスケア領域における多彩なビタミンCの有用性を高める為の研究の一環として、ビタミンCの高濃度配合、安定化、浸透性向上技術などの技術開発を進めてきた。

同研究により、イリス根エキスに、色素細胞の細胞内ビタミンC量を増加させ、メラニンの合成量を抑制する作用があることが明らかとなった。細胞内のビタミンC濃度に着目することで、ビタミンCの有用性を更に引き出すアプローチの応用拡大が期待される。

なお、世界初なのはイリス根エキスが色素細胞内のビタミンC濃度を高めることである。

ビタミンC(以下、VC)は、細胞の抗酸化、コラーゲン合成やターンオーバーなどの健全な皮膚の成長と維持に必須な栄養素であり、ロート製薬は人工皮膚モデルの開発を通じてその重要性を証明してきた(図1)。これらVCの有用性は、肌に塗布することによっても発揮される可能性が示されているが、効果的な製剤を設計するためには、VCを皮膚の細胞に輸送することが重要となる。

そのため、一般的にはVC製剤はVCの高濃度溶解、安定化、皮膚内部への浸透性を高める技術開発が検討され、VCを皮膚細胞が存在する組織内部へ送り届ける技術は直近25年で大幅に進化した。

図1.人工皮膚モデルを用いた皮膚におけるVCの重要性の確認

しかしながら、皮膚内に送り届けられたVCは必ずしも細胞に活用されるわけではない。細胞が実際に細胞外から細胞内に取り込んで蓄えるVC量は、細胞外のVC濃度と完全に相関はせず、ある程度細胞外VCが高濃度になると細胞内VCの増加は頭打ちになる事が分かっていた(図2)。これは、細胞がVCの吸収と排出、酸化還元反応のバランスを制御し、細胞内のVC濃度を一定に保つ性質によるものであり、過剰なVCは細胞に入れず排出されてしまうと考えられる(図3)。

図2.細胞に添加したVC濃度と細胞内VC濃度の関係性のイメージ図

図3.細胞がVC濃度を調整するしくみ(イメージ)

この知見は、製品中のVC高濃度化が進む市場において、お客の求めるVCの細胞内で発揮する“実効濃度”を高めるためには、濃度の上積みとは異なる視点が必要であることを示唆する。そこで同社は、VCそのものの濃度だけに着目するのではなく、“細胞がVCをより取り込みやすい状態”をつくるという、新しいアプローチを探究した。

結果1.イリス根エキスが細胞内のビタミンC量を高めることを確認

色素細胞を用いた試験において、細胞内のVC濃度を高める素材がないか約300種類の候補素材を対象にスクリーニングを行ったところ、イリス根エキスにより細胞内VC濃度が153%に増加したことを確認した(図4)。細胞の取り込み効率を高めることで、実効的なビタミンC濃度が底上げされることが示唆された。

図4.イリス根エキスによる色素細胞内VC濃度の増加作用

<試験方法>

ヒト正常表皮色素細胞を、イリス根エキスを含むVC不含有培地で24時間培養後、VC含有培地に交換し4時間処理して細胞を回収し、細胞内ビタミンC量を測定し比較した。コントロールを100%とした。

(n=4;mean±SD.**P<0.01,Student’st-test,ロート製薬研究所で実施)

結果2.VCとの相乗効果によるメラニン生成抑制

ヒト色素細胞を用いて細胞内メラニン合成量を確認したところ、ピュアVC単独投与と比較して、イリス根エキスと併用することで、メラニン生成量がさらに低下することが明らかとなった(図5)。細胞内のビタミンC濃度を高めることが、メラニン生成抑制作用を強めるメカニズムとして働く可能性が示唆された。

図5.VCとイリス根エキスによるメラニン合成抑制作用

<試験方法>

ヒト正常表皮色素細胞をVCとイリス根エキスを含む培養液で培養し、5日後に細胞を回収し細胞内のメラニン量を測定し比較した。ビタミンC単独の場合のメラニン合成量を100%とした。

(n=4;mean±SD.**P<0.01,Student’st-test,ロート製薬研究所で実施)

同研究で得られた「細胞内ビタミンC濃度を高める」という世界初のアプローチは、今後のビタミンC製剤開発の基盤技術として、広く活用される可能性がある。

同社は今後も、お客の肌悩みに真摯に向き合いながら「活性型ビタミンC」や「即効型ビタミンC」などとも呼ばれる「ピュアビタミンC(肌の中〈角層〉ですぐに働くビタミンC)」にこだわり、従来の市場商品とは異なる視点を積極的に取り入れていく。そして、より実効性の高い製剤設計の追求と高い実感価値をもたらすスキンケア研究を進めていくとしている。