新社長の経験を生かしポーラ、オルビスを改革
――次世代の育成は必要ですが、一方で足元のビジネス拡大も重要です。特にポーラは主軸の委託販売チャネルの減収が続いています。改革の陣頭指揮を執る小林新社長には、何を期待しますか。
横手 オルビス時代の小林さんは、公式スマートフォンアプリ「ORBISアプリ」(ダウンロード数は累計593万:24年11月末時点)、パーソナルAIメイクアドバイザーやAIアイブローシミュレーターなどを用いた顧客体験の創出など、DX戦略の強化で好業績に導いた印象が強いでしょうが、じつはその裏では、人材の活用やリアル接点を用いた顧客と絆を育む取り組みなどを徹底して回していたんです。
――例えば、どのような成果があるのでしょうか。
横手 コロナが落ち着き始めると、オルビスはグループ各社に先駆けてリモートワークの日数を減らし、全社員が会社にそろう日を増やしました。その結果、社員間のコミュニケーションが活発になり、多様なアイデアが生まれ、実行力も高まった。それが矢継ぎ早にデジタル体験を創出することにもつながったわけです。一方、VIP顧客とは定期的にリアルイベントを開催して交流を深め、小林さんはニックネームで呼ばれるような絆を育んでいます。もちろん頻繁にリアルイベントを開くことはできませんから、ZOOMを使ってお客さまと交流することも行い、リアルとデジタルを組み合わせてオルビスのファンを社内外に増やしていったんです。
――その手腕に委託販売チャネルの復活を託した、と。
横手 小林さんはポーラ出身とはいえ、09年にディセンシア取締役、10年に社長に就任。17年にオルビスに移り、取締役と社長を経験していますから、ポーラには約17年ぶりに戻ることになる。その間、多様な経験を積み、経営者としてポーラの現状を俯瞰して分析し、リアルとデジタルそれぞれの強みを引き出し、委託販売チャネルだけでなく、ポーラ全体の競争力を高めてくれると思います。
――もう一つの主力ブランド、オルビスを率いる山口新社長のミッションは。
横手 山口さんはポーラに入社して長らくマーケティングを担当。そこから21年1月にディセンシア社長に就きました。ディセンシアのブランドコンセプトは「肌の不公平をなくしたい」で、敏感肌に悩む人々の肌に寄り添い、ポジティブな気持ちになることをサポートするのが使命です。これは山口さんから聞いたのですが、コロナが明けて、愛用者を招待するイベントを開いたところ、初対面のお客さまたちの会話が途切れず、イベントが終わっても喫茶店に移動してコミュニケーションを続けられたそうです。つまり、ディセンシアとは、敏感な肌状態を改善すると同時に、お客さま一人一人の人生を楽しくするものなんですよ。ディセンシアの化粧品を使って肌状態が改善したら、競合ブランドの商品を使うお客さまもいます。しかし、それでいいんです。なぜなら、また肌状態が敏感になってもディセンシアがあれば大丈夫、とお客さまが思っている限り、いつまでもディセンシアの潜在顧客であり続けます。ここから学びを得た山口さんには、オルビスの本質的なブランド価値を見出し、それをお客さまに広く伝えることで、高収益な事業構造を構築してほしいと思っています。
――生活者の視点でブランドを見つめ直してほしい、ということですか。
横手 そもそも化粧品事業とはいえ、お客さまを化粧品ユーザーとしてだけで見てはいけない、ということです。人々の日常生活において化粧をする時間は微々たるもの。24時間の生活シーンに寄り添うことで、生活者一人一人で異なる美容の意味を紐解き、各ブランドが商品、サービスを提供する。なぜ人が集まるのか、なぜ買い続けていただけるのか。その真の理由を探ることが、ブランドを強くする唯一の道だと思います。
――購入者が納得する商品力も鍵を握ると思いますが、研究開発を担うポーラ化成工業はどのように強化しますか。
横手 ポーラ化成工業は24年にテクニカルディベロップメントセンター(TDC)を横浜事業所に設置。研究・開発・生産の機能を一体化し、新剤型・新生産技術の両輪でモノづくりの革新に動き出しました。部門間の連動が生まれるようにし、研究開発のスピードアップを図っていますから、世界一の技術創出拠点を目指して突き進んでくれると思います。また、24年は各事業会社の社長がポーラ化成工業に足を運び、講演会を実施。そもそも各ブランドの提供価値は何か。ポーラ化成工業に期待することは何か、を語り合いました。ブランドが困っていること、ブランドが目指している夢などを知ることで、研究者の思考も変わるでしょう。
――それこそポーラ化成工業の価値を研究者自身が再認識したのでは。
横手 ポーラ化成工業が主催する研究技術展があります。グループ各社の商品企画などが集まって、膨大な量の技術について研究者がプレゼンする。商品企画が興味を持つと、具体的な活用方法について議論が始まるわけです。私は採用率100%を目指そう、と声を掛けました。苦労して研究を積み重ね、我が子のように大事な技術をプレゼンするのですから、商品企画の心に刺さってほしいと気概を持つべきでしょう。このように組織と人材を刺激し続けることで、ポーラ・オルビスグループの未来を切り拓いていきます。★
月刊『国際商業』2025年02月号掲載
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