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組織の垣根を越えて経営者人材を増やす

――2025年1月、主力の事業会社であるポーラ、オルビスの社長が交代。グループ全体で大きな組織改編を行った狙いは何でしょうか。

横手 ポーラ・オルビスグループの課題は、国内の成長性を引き出すことです。各ブランドの課題は千差万別ですが、人材が育たなければ、ブランドは育たない。ここには明確な相関関係があります。ですから、人材に幅広い経験を積んでもらうことは、グループ全体で大事にしている考え方の一つなんです。異なるカルチャーを持つ人材が交流すると、新しい発見が生まれます。また、普段社員が気付かないブランドの魅力に光を当て、商品やサービスが持つ競争力を再認識してもらおうと考えています。今回、ポーラの小林(琢磨)社長やオルビスの山口(裕絵)社長に加えて、そのメッセージ性が特に表れているのは、じつはディセンシア社長に就いた西野(英美)さんなんですよ。

――どういうことでしょうか。

横手 西野さんはオルビス新卒入社の社員で、商品開発などを経験し、直近まで取締役執行役員(ブランドデザイン担当 サステナビリティ推進室長)の要職を務めていました。オルビス出身の生え抜き社員がグループ会社の社長に就くのは、西野さんが初めてなんです。このように各事業会社のスペシャリストを増やす一方で、多様な経験を持つ経営者人材を輩出する戦略的な人材育成を行う。ポーラ・オルビスグループは「A Person-Centered Management(“個”中心経営)」と呼び、社員一人一人の主体性、つまりその人の思考から生まれる動機を最大限に尊重していますから、西野さんのようなケースが増えると、他の社員もキャリアプランを描き直し、可能性が広がるというわけです。

――ポーラ・オルビスグループの歴史を振り返ると、ここまで大規模な役員人事は珍しいのではないでしょうか。それだけ危機感が強い。

横手 確かに、これまでポーラとオルビスは経営の両輪で、ポーラの成長期にオルビスが改革し、オルビスの業績が上がるとポーラの改革が始まるという流れがありました。しかし、今回は各ブランドの強化という危機感もありますが、それよりも戦略的に人材を育てることへの意識が高まり、グループ経営における重要な取り組みになったという方が正しい。事実、私もポーラ出身ですが、国内のマーケティングに従事した後、子会社のテレビ通販会社の立て直しや中国瀋陽への赴任、海外事業の責任者などを経験しており、その多様な経験が今の仕事に生きています。国内と海外でマルチブランド戦略を進めるには、グループ横断で戦略を考え、実行するマネジメント層が必要です。それには多様な経験を持つ人材を戦略的に育て続けなければいけない。ですから、23年末頃から柔軟かつ大胆な人事や組織変更について経営陣で話し合い、そこから事業会社のトップ層と意見を交わし、今回の組織改編を実現。そしてトップマネジメント層だけでなく、同じ意図でミドル層や現場の人事も行っています。

――以前からポーラ・オルビスグループは、30〜40代の管理職層を鍛える「ビジネス変革塾」、20〜30代の若手層を育てる「未来研究会」など、能力開発とキャリア形成機会を提供し続けていますが、それをさらに厚くする、と。

横手 じつは24年から入社1年目の社員メインのグループ研修を立ち上げたんです。昨年は初年度だったので、入社1年目は全員参加、3年目を立候補制で募ったところ、グループ各社から約30人が集まりました。研修は4日間で、ポーラ・オルビスグループの会長と社長が終日参加し、対話やディスカッションをします。研修に参加する社員は、グループ合同の入社式に出席していますが、その後は採用先で働いている。ですから、事業会社の社員という意識が強くなる。今回の研修に参加した仲間と交流することで、グループの一員になった気持ちが芽生えたそうです。特に21年2月に完全子会社化したトリコは、コロナ禍も影響して他の事業会社との交流が少なかった。グループ研修は、組織と社員の一体感を醸成するのに一役買ったと思いますが、じつは真の狙いは他にあるんです。

――と言いますと。

横手 「未来研究会」は、実在するグループ内の課題を発見し、解決提案についてチームで取り組むアクションラーニングです。期間は6カ月間で、最後はチームによる経営陣への提案を行うので、通常業務をこなしながら取り組むのは、相当の覚悟とモチベーションが必要です。ですから、参加は原則、立候補制。意欲ある若手人材が自ら手を挙げる仕組みになっています。グループ各社の社員が横のつながりを持ち、仲間が立候補したり、未来研究会への参加意欲、その後のビジネス変革塾を目指す姿を見れば、自然と刺激を受け、主体性が強くなる。そのような人材が増えれば、「A Person-Centered Management」の考え方は一段と機能を発揮することになるのです。