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米国タルトの成功がパンピューリ買収の礎に
――2024年は、11月に中長期ビジョン「Vision for Lifelong Beauty Partner-Milestone2030」を発表し、12月にタイ発のブランド「PAÑPURI(パンピューリ)」を買収。大きな動きのある1年になりました。
小林 中長期ビジョンのキーポイントは「脱・自前」なんですよ。コーセーの強みを捨てろ、と言っているのではなく、むしろ逆。コーセーの強みを生かして、世界中の優れた企業や研究機関と連携する。それだけ自社のアセット(資産)に自信があるから、地域に最適化されたグローバルでの事業成長を目指す「脱・自前」を打ち出せた、というわけです。
――その象徴的な事例がパンピューリの買収。社内外に「脱・自前」の意図を示しました。
小林 コーセーグループの反省点は企業買収のスピード不足。パンピューリを展開するピューリ社の取得は、14年の米国タルト以来、10年振りですからね。中長期ビジョンで「地域に根付いたブランドの新たな獲得」を打ち出したのは、数年に1度は、コーセーグループと親和性の強いブランドを取得するという意志を示しています。その第一弾であるパンピューリは、タイに古代から伝わる伝統的なアプローチと香りへのこだわり、化粧品としての効果感、使い心地の良さと心まで豊かにするような洗練された商品設計が強み。ここにコーセーの官能品質を追求し続ける哲学を加えることで、よりブランド価値、商品力を高めることができると期待していますし、モノづくりに徹底してこだわる姿勢は両社本当によく似ています。
――M&Aの話し合いは、トントン拍子に進んだのでしょうか。
小林 話し合いが本格的に始まったのは24年6月頃で、株式譲渡契約の締結が12月10日ですから、非常にスムーズに進んだと思います。その背景には、タルトの成功があるんです。14年にグループ入りしてもらった後も、創業者のモーリーン・ケリー氏を起用し続け、いまでも大活躍しています。それはタルトのブランド価値はケリー氏が生み出しているからで、そのクリエイティブな感性を最大限に尊重しているからです。コーセーグループに入った後も、業績は右肩上がりに伸びていますから、米国の会社は米国の人に任せるという現地化、権限委譲を選んだ当時の判断は正しかったことになります。
――それがパンピューリ買収と、どういう関係があるのですか。
小林 パンピューリは、タイのクラフトマンシップ、マインドフルネス、卓越した感覚を融合させたウェルネスへのユニークなアプローチを重視しています。それを引っ張るのが、創業者でCEOのボラビット・シリパーク氏です。買収後もケリーがタルトを率いて世界を席巻する姿を見て、コーセーとであればパートナーシップが上手くいくのではないか、と思ってくれたのです。シリパーク氏は、パンピューリの伝統を守りつつ、コーセーの技術、専門知識、リソースを生かし、新しい美容体験を創造しようとしていますから、非常に期待しています。
――中長期ビジョンで示した「ビューティコンソーシアム構想」の最初の事例になりそうです。
小林 ビューティコンソーシアム構想は、コーセーと思いを同じくする企業やブランドとお互いの強みを生かして、相互的な連携を通じて持続的な成長と企業の価値向上を目指す考え方です。優れたパートナーと組むには、コーセーグループの企業力が問われる。ですから、強みである長期視点経営、チャレンジ精神、エンゲージメントの高い人材、ブランド、研究・生産・販売の各体制をさらに磨くことが必須。そのための手段として、26年の持ち株会社制への移行を検討しています。グループシナジーの極大化、意思決定の迅速化、経営資源の戦略的かつ効率的な配分を可能とする経営体制の確立は、ビューティコンソーシアム構想の礎になります。