M&Aで見えた人材育成の課題
――壮大な構想の実現に向けて、順調なスタートを切ったのでは。
小林 いや、パンピューリ買収を通じて、コーセーの課題が浮き彫りになりました。
――と言いますと。
小林 やけに社内が静かなんですよね。例えば、タルト買収の時は、商品を高く評価する社員もいれば、将来性に懸念を示す社員もいて、侃々諤々の議論があった。それが面白かったのを覚えています。でも、パンピューリは、タイ国内のラグジュアリーなショッピングモール、百貨店、ホテル、リゾート、トラベルリテールなどで店舗展開し、盤石の地位を構築済み。その上、香港、日本、中国、欧州で販売していることもあり、社内の議論がスムーズに進んだ。M&Aの検討は、中長期ビジョンに関する議論を深める絶好の機会ですから、私としてはやや拍子抜けだったんですよ。
――もっと社員は好奇心を持つべきだ、と。
小林 広い視野を持ち、深い洞察力を持たなければ、次代の経営を担うことはできません。ですから、自身の担当分野の仕事に邁進するとともに、周囲の事業にも目を配り、問題意識をぶつけ合いながら、常に活発な議論があってしかるべき。そうしなければ、ビューティコンソーシアム構想の土台になる、グループ内での相互的な連携を高めることも、グローバルでの多様なビジネスモデルの展開も、ウェルビーイング領域への提供価値の拡大も、思うように進まないのではないか。そういう危機感を改めて感じたのは事実です。
――それが成長のボトルネックになりかねないということですか。
小林 これまでの事業構造ですと、ブランド別の収益管理にこだわる傾向がありました。コーセーが多様なブランドを持つポートフォリオを組んでいるのは、順調なブランドが稼いだ資金で、次の時代を担うブランドを育成するためです。各ブランドの収益意識が強くなり過ぎると、一部のブランドに投資が偏り、強いブランドポートフォリオが組めなくなる。例えば、コスメデコルテが順調な間に、どのブランドに種まきしておくのか。エリア別も同じで、日本事業が生んだ利益を、どこの国・地域に投資するのか。社員一人一人はもちろん、経営陣にはコーセーグループを俯瞰して、持続的な成長を強く意識することが求められています。