花王解析科学研究所・ヘアケア研究所は、頭髪表層に発生するうねりが毛流れを乱して、髪の印象を損なう原因となっていることを見いだし、そのうねりに紫外線が深く関わっていることを発見した。さらに発生メカニズムを調べると、紫外線の影響で毛髪内部の結合が切断され、切断された一部がひずんだ状態で再結合するという、美容室で施術されるパーマの仕組みに似た現象が起きていることを突き止めた。

今回の研究成果は、第89回SCCJ研究討論会(2022年12月12日・東京都)にて発表した。

頭髪表層の特異的なうねりに着目

毛髪一本一本の形状の不規則なうねりは、日々のヘアケアでは抜本的な解決は困難であり、生まれつきのくせ、ヘアカラーや熱などによるダメージの蓄積が原因と考えられてきた。

花王は、改めて頭髪の実態を調査し、髪をめくりあげた内側ではうねりが少ない一方、頭髪表層では顕著にうねりが多く、これが髪の印象に大きな影響を与えていることを見いだした(図1)。そこで本研究では、頭髪表層に特異的に発生するうねりの要因とメカニズムの解明を試みた。

紫外線とひずみの影響で、うねりが発生することを発見

実際の生活では、日中外出すると太陽光にさらされ、就寝時には枕との接触で毛髪がひずんだ状態のまま時間が経過するなど、複数の要因の影響が頭髪表層に集中すると考えられる。これらを考慮して評価した結果、太陽光照射のみでは毛髪形状に有意な変化はみられなかったが、照射後、毛髪をひずんだ状態で保持すると顕著にうねりが発生し(図2)、保持時間が長いほどうねりが強くなった(図3)。一方で、太陽光から紫外線を遮断するとうねりの発生が抑制されたことから、紫外線とひずみがうねり発生の大きな要因であることを見いだした。

パーマに類似したメカニズムで、うねりが発生していることを解明

毛髪を構成するタンパク質には、タンパク質をはしごのようにつなぐジスルフィド(SS)結合が多数存在する。紫外線の影響でSS結合が切断されることは報告されているが、うねり発生との因果関係はわかっていなかった。今回の研究では、うねりが発生する過程におけるSS結合量の変化を、ラマン分光法を用いて経時的に分析。その結果、太陽光照射時は紫外線の影響でSS結合が切断されて減少し、その後、急激に増加する過程と、緩やかに増加する過程があることを発見した(図4)。

これは、切断されたSS結合の一部が、時間の経過とともに再結合していることを示す新しい知見である。さらに、SS再結合とうねり発生の時間を比較すると、図3のうねりが徐々に強くなる時間と、図4の緩やかに再結合が進行する時間が合致している。この緩やかな再結合は、タンパク質間のSS再結合に対応すると考えられ、うねり発生と連動していることを明らかにした。

以上により、毛髪が紫外線にさらされた後にひずんだ状態におかれると、切断されたSS結合がひずんだ状態で再結合し、うねりの発生につながったと考えられる(図5)。これはパーマと類似したメカニズムであり、頭髪の内側よりも、表層では紫外線やひずみの影響が特に大きく、意図せず不規則な形状に発生したうねりが固定された状態になっていると推察される。

今回の研究成果は、さまざまな髪悩みにつながる頭髪表層でのうねり発生メカニズムを、新たな側面から世界に先駆けて解き明かした。うねり発生の一因である紫外線から髪を守ることは、皮膚と同様に重要。今後は本知見を、毛髪に簡便に塗布できる紫外線対策製品の開発などに活かしていく。