花王は、蚊の嫌がる肌表面をつくるという新たなアプローチの蚊除け技術を発見したとして、12月10日にオンライン記者発表を開催した。
同社パーソナルヘルスケア研究所・マテリアルサイエンス研究所は、研究により、肌上に低粘度のシリコーンオイルを塗布することで、蚊が肌にとどまらず、吸血を阻害できることを明らかにした。
これは、従来の虫除けとは異なり、蚊の脚が持つ微細な構造に着目し、肌表面を蚊の嫌う物性に変化させることによって蚊を止まらせなくする新しい着眼点の蚊除け技術だ。蚊の吸血行動とは、肌に降り立って、脚先を使って態勢を安定化してから開始される。従って、蚊が肌に降り立ってもすぐに離脱すれば、吸血されることはないことが分かっていた。
そこで花王は、蚊が嫌う表面について調べたところ、皮膚表面に低粘度のシリコーンオイルを塗布すると、蚊の足が触れている時間が大きく減少し、さらにその後、脚を擦り合わせるようにして付着したオイルを拭う行為をしていることが分かった。
この現象に着目し、蚊の脚と液体が接触したときの状態を詳細に研究した結果、蚊の脚は特異な微細構造により、非常に高い撥水性を持つが、低粘度のシリコーンオイルに接触すると、液滴が蚊の脚に短時間で濡れ広がることが分かったのだ。脚が濡れ広がることで、液体の方向に引き込まれる力が発生。5マイクロニュートンという非常に小さな力ではあるが、この力が多数の脚に生じることによって、蚊にとっては体重の8割にも及ぶほどの力となり、危険を感じてすぐに飛び立つのだ。
発表会では、実際にマヒドン大学との共同研究を行うタイの研究所にて、人の肌を使った実証実験の映像を公開。同様の効果を持つように調合したクリームを塗った肌には、蚊が吸血しようと止まるものの、すぐに飛び去っていく様子が見て取れた。
また、花王は、このような濡れ現象を利用して蚊よけを行なっている例が自然界に存在するのではないかと検討。中でも、カバが分泌する“赤い汗”には、紫外線止ま(日やけ止め)効果 や保湿の効果に加え、蚊から身を守る働きもあるのではないかと推測した。
そこで、和歌山県のアドベンチャーワールドからカバの分泌液を入手し、分泌液の物性に近いシリコーンオイルを比較例として、それぞれを塗布した基板に蚊を止まらせる実験を実施。その結果、どちらの液体も蚊の降着抑制効果を持つことが明らかとなった。
従来の虫除けは国によって規制が異なり、承認をグローバルに展開することはむずかしい。また、従来の虫除け剤はしっかりとした効果はあるものの、特有の香りやべたつきなど、日常使いするには抵抗があるという声もある。今回の研究知見は、こうした課題を解決する新たな虫除け剤の誕生につながることが期待される。