ZOZOCOSME(ゾゾコスメ)が2021年3月18日にオープンした際、世間の耳目を集めたのが肌の色を計測するツール「ZOZOGLASS(ゾゾグラス)」だ。利用にかかる費用は、送料を含めて無料。にもかかわらず、カラフルなメガネをかけて、スマホのインカメラで顔を映しながら計測するだけで、肌の色を構成する成分「ヘモグロビン量」と「メラニン量」を推定し、肌の色を計測できる。イエローベースかブルーベース、さらに春夏秋冬の4タイプに分類して、パーソナルカラー(あなたに似合う色)が分かることは、生活者にとって化粧品ECの最大の不を解消した。予約注文件数は100万本を突破し(※1)、計測者数は80万人を超えている。ゾゾグラスの登場は、化粧品販売に一石を投じたのは間違いない。ゾゾグラスの開発プロジェクトが始まったのは19年11月で、総勢100人超の社員が試行錯誤を続けた。集中連載の第2回は、ゾゾグラスの誕生秘話について、ZOZO計測事業本部本部長の山田貴康氏、ZOZOテクノロジーズブランディング戦略部イノベーション(チーム)リーダーの辻正信氏、ZOZOテクノロジーズプロモーションデザイン部企画2の尾台知里氏、ZOZO計測事業本部プロデュースブロックの堂免直美氏に話を聞いた。
※1 2021年7月27日時点
“脱メガネ”の発想で精度とコストを両立
――ゾゾグラス開発のきっかけは何だったのでしょうか。
山田 創業者の前澤(友作)さんが退任した後、経営陣を中心に会社の方針、特に今後の注力分野を議論する中で、アパレル、靴の次にコスメが挙がりました。コスメの購入シーンにおいて、生活者はどのような不満、不便を感じているのか。それを理解するために、社内外のコスメユーザーにインタビューしたところ、特にファンデーションの色選びで、自分の肌の色に合ったものを見つけることに悩む意見が多かったんです。ゾゾコスメの営業施策を考えても、市場規模の大きいファンデーションは欠かせないアイテムですから、肌の色の計測に挑もうと決めました。
――開発はスムーズに進んだのでしょうか。
山田 当初はヘッドバンド型などの案もあったのですが、誰でも使い方が分かるメガネ型にすることは、早い段階で決まりました。ただ、難しかったのは、色の計測なんです。ZOZOは、これまでアパレル分野で身体の寸法を測る「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」(※2)、シューズ分野で足のサイズを3Dで測る「ZOZOMAT(ゾゾマット)」を提供してきましたが、色を測るのは初めてのケースで、全くノウハウがなく、まずは色に関する初歩的な勉強から始めたんです。
※2 現在は配布終了
――肌の色の計測の難しい点とは。
山田 一つは、お客さまがゾゾグラスを使用する環境が千差万別であることです。例えば、肌の色に影響を与える照明の環境は一定ではありません。そこで、それら環境光の影響を打ち消すために ゾゾグラス と独自のアルゴリズムを開発したんです。このため今回生産する全ての ゾゾグラス において高い精度で同じ色を印刷できるように製造しています。その精度を検査するための基準として、色差(色の違い)を測る基準としてΔE(デルタ・イー)=2を目標としています。
――ゾゾグラスは無料配布。コストを抑えることも難題だったのではないでしょうか。
山田 計測精度とコストのバランスは、重要なテーマの一つでした。ZOZOはメガネメーカーではありませんので、ゾゾグラスはメガネではなくプラスチック製の計測ツールだと位置付けました。私自身を含めゾゾグラスの開発メンバーにはメガネを作った経験がなかったので、たくさんの苦労がありました。ゾゾグラスの製造工場は海外にありますから、新型コロナに伴う渡航制限で現地に足を運ぶことができず、対面でのコミュニケーションが取れない中で、信頼関係を育み、製造から検品まで、あらゆる工程の品質管理にこだわり続けました。その積み重ねによって、ゾゾグラスは大きくコストダウンできました。