ファッション通販サイトZOZOTOWN(ゾゾタウン)を手掛けるZOZOが化粧品販売で頭角を現している。以前からゾゾタウンはコスメを取り扱っていたが、2021年3月18日のサイト&アプリのリニューアルと同時にコスメ専門モールZOZOCOSME(ゾゾコスメ)を立ち上げた。
22年3月期第1四半期のコスメカテゴリーは、ページビュー(PV)が大幅に上昇(前年同期比)。チークが約180倍、アイシャドウ、アイライナー、アイブロウが各約60倍、口紅、リップティント、グロスが合わせて約40倍、マスカラが約30倍という具合で、長引くコロナ禍で需要が低迷するメイク市場で異彩を放っている。スキンケアのスターターキットの販売量も伸びており、6月のカテゴリー別売り上げランキングには香水が3位に飛び込んだ。アパレルECの雄であるゾゾタウンが化粧品販売の在り方に一石を投じているのは間違いない。
躍進の理由はいくつもあるが、一つは新しい顧客体験の創出である。特にユーザーインターフェース(UI)へのこだわりについて、ZOZOの大久保真登氏、小野奈々氏に話を聞いた。
工夫を凝らしたカラー表示でメイク需要を顕在化
――6月28日にディオール、7月15日にシャネルがゾゾコスメに出店。一段とコスメ専門モールとして魅力が高まっています。
大久保 確かに、ゾゾタウンは以前からコスメを販売していたとはいえ、アパレル専業のイメージが強いですからね。その現状を変えようと、コスメチームは商品ラインアップを拡充したいという強い思いを温めていたんです。市場をリサーチすると、コスメの成長性は十分にあり、アパレルとの親和性も強い。ただ、課題もあって、特にコスメとアパレルの売り方が全く異なることは考慮しなければいけませんでした。
――具体的には。
大久保 例えば、カラー展開が豊富なメイクアップ商品は、アパレルとは比較にならないほど、SKUが多い。多様な色を見比べるのは、お客さまの楽しみである一方で、ECを運営する立場からすると、商品の見せ方を誤ると、利便性、視認性ともに低下し、ECとしての競争力を発揮できなくなります。だから、ゾゾコスメは、洋服が大好きな人たち(社員)が磨き続けてきたゾゾタウンのノウハウを最大限に生かし、ユーザー目線を徹底したコスメ専門モールになっているんです。女性社員が中心となってプロジェクトを進めたことで、ZOZOらしい顧客体験を創出できたのではないでしょうか。
――その一つが独自UIのデザインなのですね。
小野 UIのデザインでは、コスメが買いやすいことはもちろん、ブランドさまが大切にしている世界観を表現することに工夫を凝らしました。アパレルの場合は、ブランド横断の売り場にすることで、商品の検索、購入がしやすくなりますので、ゾゾタウンではサイトもアプリも、ブランド軸で検索し、スピーディーかつ簡便に購入できるようになっています。一方、コスメの場合は、各ブランドさまが掲げているコンセプトを余すことなく発信することが求められます。それは営業部門からもブランドさまの要望として聞いていたんです。
――お客、ブランド双方を満足させるUIとは、どういうことでしょうか。
小野 例えば、口紅などカラー数の多いアイテム検索したとき、一つのアイテムで展開される全てのカラーが羅列されると、同じ商品ばかりが上から並ぶことになります。すると多様なブランドさまの商品があるにもかかわらず、探しにくくなってしまい、お客さまの利便性も損なうことになります。その解決策として、「カラーをまとめる」機能を考案。例えばTシャツは、白、赤、黒といった各カラーの商品画像を検索結果画面に並ぶことも多いのですが、コスメアイテムは「カラーをまとめる」機能によって、商品ごとに展開カラーを表示させられるようにしました。商品を選択した後、商品ページにも各カラーごとにカラーチップを置くことで、お客さまとブランド&商品の出会いの機会を増やしたんです。これまでEC上での買いやすさにこだわってきたZOZOならではの課題解決だったと思います。
――ゾゾコスメのオープンと同時にリリースしたフェイスカラー計測ツールZOZOGLASS(ゾゾグラス)は、店頭に足を運ばなくても、テスターを使わなくても、肌の色に1番近いファンデーションとマッチングしてくれます。この顧客体験は新鮮な驚きをお客とブランドに与えました。
大久保 UIの開発で苦労したのは、まさに私たちが大きな夢を描き、ゾゾグラスの導入に挑んだからです。ZOZOが大事にしているのは、オフラインでの購買体験をオンラインでも再現した上で、新しい価値に磨き上げることです。だから、コスメの販売でも、テクノロジーを駆使した購買の課題解決を提案することにこだわったんです。高精度に肌の色を測るアルゴリズムなどは、ゾゾグラスの開発チームが取り組んだのですが、私たちは、肌の色を計測したお客さまが商品を選び、購入するまでの一連の流れをデザインしたんです。ゾゾグラスの開発も試行錯誤の連続でしたから、仕様の変更があるたびに、同時進行でUIの改善を繰り返しました。その苦労のかいがあって、新しい顧客体験をつくれたと思います。
小野 ゾゾグラスの予約注文件数は、2021年5月22日に100万件を突破しています。また3カ月の計測者数は80万人超で、想定以上にお客さまに利用していただいていると思います。売り上げランキングの上位にファンデーションが入っているのは、ゾゾグラスの効果であることは間違いありません。コスメの新しい買い方に興味を持ったお客さまが集まるとともに、商品画像の真下に置いたカラーチップの効果もあり、アイシャドウ、リップなどもランキングの上位に入っています。ZOZO独自のUI、ゾゾグラスがお客さまに支持されたことで、ゾゾコスメへの出店に興味を持つブランドさまが増えています。6月28日にオープンしたディオールさまは、メイクアップ、スキンケア、フレグランスの272品番をラインアップしており、ファンデーション関連商品14品番がゾゾグラスに対応。ゾゾコスメに期待していただいていることがうれしいですね。
――UIにおける課題はありますか。
大久保 もちろん、ゾゾコスメの現状に満足することなく、日々、改善を積み重ねています。その一つは、ゾゾタウンのサイト&アプリの上部に新設したタブの認知拡大です。「すべて」「シューズ」「コスメ」がそれで、まずはお客さまに使用方法を知っていただき、慣れていただきたいと思っています。メルマガ、LINEなどを通じて限定商品の発売を告知したり、リマインドすることで、タブを使用する機会を創出する。サイト&アプリで「コスメ」のタブを開くと、一気にコスメの世界に引き込まれていく。こんな購買体験を常態化するための施策も展開していきます。
小野 三つのタブを置くことで、ゾゾタウンの取り扱いカテゴリーに対する認知が広がったのは間違いありません。実際、コスメ購入目的のお客さまの増加に引っ張られる形で、シューズの売上高も伸びています。コスメのこだわり検索も、機能性、デザイン性、使い勝手を綿密に追求したものです。UIチームは、アパレルの検索機能と差異が生じないようにしながら、コスメのカラーを美しく見えるように商品画像のサムネイルの基準値を整えたり、画像1枚1枚の見え方にこだわっています。丁寧にUIの開発、改善を積み重ねることによって、探しやすさ、選びやすさ、買いやすさを兼ね備えたサイト&アプリに仕上げていきます。このように細部にこだわり続ける企業文化がZOZO最大の強みだと思っています。★
月刊『国際商業』2021年09月号掲載