苦難を乗り越える組織風土

――ZOZOは、化粧品の新しい購買体験を創出しました。ゾゾグラスの開発が成功裏に終えられた理由は何でしょうか。

山田 ZOZOはユーザーに喜んでいただくことへのこだわりが強い。だからこそ、企画、開発、デザインなどの各組織に横串が刺さり、高品質のツール、サービスが生まれるのだと思います。先ほど、辻が話した通り、肌の色を計測するのは、誰もが未体験。それを多くの人にやってみたい、と思っていただけるように仕上がったのは、全体の思いが調和した証しだと思います。

――クリエイティブには産みの苦しみがつきものです。社員一人一人のモチベーションが落ちないのは不思議です。

堂免 分光計測計で商品の色を測る仕組みづくりでは、何度も心が折れそうになりました。オンライン上で顔の色とファンデーションの色をマッチングさせるなんてできるのか、と悩み続けました。女性社員の意見も取り入れながら何回もミーティングを重ねましたが、正解がないものですから苦しい時間を過ごすことも少なくありませんでした。しかし、日本には魅力的なブランドが勢ぞろいしているので、世の中の女性が喜ぶ、お買い物がしやすいコスメ専門モールをつくるんだ、と信じたことで目の前の課題から逃げ出さずに開発できたのだと思います。

――生活者視点で改善を繰り返したユーザーインターフェースについてはいかがでしょうか。

 ZOZOの最大の特徴は、取り扱っているアイテムのファンが社内にたくさんいることですね。アパレル、シューズ、コスメと、みんなZOZOが取り扱うアイテムカテゴリーが大好きな人たちばかりなんですよ。自分が迷わず使えるもの、家族や友人に自信を持って薦められるものに仕上げたいという基準、自負心を持っているから、細部までこだわり抜く文化が生まれてるのだと思います。

――ゾゾグラスは、どのように進化していくのでしょうか。

山田 現時点ではファンデーションのみ対応していますが、カラーコスメティクスの分野は、順次広げていきます。また、コロナ禍ということもあって、カラーメイクを試用する機会が少なくなっていますから、オンライン上でのバーチャルタッチアップなどの機能の提供も視野に入れています。

――計測精度は高まっていくのでしょうか。

山田 ローンチの段階で十分な計測精度を担保しています。今でも毎日、多くの方々に利用していただいているので、膨大な計測データが蓄積されています。世界を見渡しても、100万人規模の肌の色のデータを持っている企業は少ないと思うので、ここからZOZOらしい新サービスを生むことができるのではないかと期待しています。

――ZOZOは成長戦略の一つとして、計測技術のライセンス販売を掲げていますが、進捗状況はいかがでしょうか。

山田 国内外100社超の企業と話し合っている段階で、具体的なプロジェクトに進んでいる案件もあります。特にZOZOが重視しているのは海外市場です。ECは海外にビッグプレイヤーが多い状況です。その点、技術は海外展開のハードルが低いと考えています。ZOZOが持つ特許も多く、知財の視点でも十分な競争力を発揮できると思います。

月刊『国際商業』2021年10月号掲載