世界初の計測法を誰でも使えるように導く

――ゾゾグラスは、見事にSNS映えするカラフルなデザインです。これもZOZOらしい価値提案ですが、デザイン担当は入社間もない社員と聞いています。

尾台 私は20年8月に入社し、9月中旬からゾゾグラスの開発プロジェクトに入りました。前職は広告デザイナーで、ウェブは未経験。ただ、一人の消費者としてゾゾスーツやゾゾマットに感銘を受けていたので、ZOZOが好きという熱意は人一倍持っています。そうしたら、入社してすぐにゾゾグラスのデザインを任されて(笑)。成功させなきゃいけない、という思いを強く持って、リリースまで駆け抜けました。

株式会社ZOZOテクノロジーズ
プロモーションデザイン部
企画2
尾台 知里 氏

 私はデザイナーをアサインする立場ではありませんでしたが、彼女の仕事ぶりを近くで見ていて、いつもすごく積極性があったんです。指示されたことだけするのではなく、「私だったらこうしたい」と必ずコスメを使用する女性ならではの視点でプラスアルファの価値を考えて提案してくれました。そういう意識の高さと発想力が評価された抜てきだったと思います。

株式会社ZOZOテクノロジーズ
ブランディング戦略部
イノベーション(チーム)
リーダー
辻 正信 氏

尾台 私がプロジェクトに参加した時点で、メガネ型になることは決まっていたのですが、スーツ、マットの次がメガネ型のツールというのは意外だったんです。メガネ=測定ツールというイメージは誰も湧かないのではないでしょうか? でも、この意外性は、コロナ禍でのオンライン需要の高まりに加え、パーソナルカラーなども話題になっていましたから、注目してもらえるだろう、という確信は最初からありました。

――デザイン面の課題はありましたか。

尾台 ゾゾグラスの計測機能に影響を与えてはいけないことです。例えば、計測方法で顔を動かす過程がありますが、そのときにゾゾグラスが落ちないようにしなければいけません。そのため、日本人の顔に合わせ、形状を工夫しています。また、カラフルなカラーチップが特徴的ですが、肌の色を正確に導き出すために、各カラーチップの面積などにも厳しいルールがありました。それをクリアするために面積を確保しつつ、メインターゲットである女性を含め、コスメが好きで、感度の高い方に評価していただけるおしゃれなデザインに仕上げたい。機能性とデザイン性が両立できたからこそ、計測率の高さとSNSでの拡散が実現したのだと思います。

――SNS映えは狙い通り、と。

尾台 カラフルで、かわいいと感じてもらえるデザインを意識するなど、細かい工夫を積み重ねているんです。数え切れないほど試作品を描きました。、最初は紙に印刷していたのですが、パーティメガネのようにコミカルな仕上がりになってしまって……。試作品を作りすぎて、何がおしゃれなデザインなのか混乱したときは、たくさんの同僚から意見をもらったりしました。

――デザインへのこだわりが生産に影響を与えることも考慮しなければいけませんね。

尾台 その点は山田さんや堂免さんのサポートを受けたのですが、「これは難しい」という意見ももちろんありました。そのたびにカラーチップの面積、けい線の太さなどをミリ単位で調整していきました。また、ゾゾグラスのデザインと同時進行で、お客さまに送付するときのパッケージデザインも担当しました。

――そちらも難題があったのでしょうか。

尾台 パッケージのデザインは、ヤマト運輸さまの「ネコポス(※3)」のサイズ――大きさ、厚さ、重さに対応することです。ゾゾグラスは約37.6グラム(※4)ですから、重さはクリアできます。しかしプラスチック製なので、割れないようにパッケージは強度を保たなければいけません。そこで、ヤマト運輸さまの作業工程も踏まえながら、破損しにくいパッケージを考えました。パッケージのデザインについては、リリース直前の3月上旬まで試行錯誤を続け、今のパッケージにたどり着きました。また、パッケージに印刷したZOZOTOWNアプリのダウンロード用の二次元コードも分かりやすい位置に配置するなど、コミュニケーションにもこだわっています。こうしたコミュニケーションデザインは辻さんが引っ張ってくれました。

※3 小さな荷物を宅急便レベルの翌日配達でポストに投函するヤマト運輸のサービス

※4 ものによって多少個体差がある

 そもそもメガネをかけて肌の色を測るという行為自体が、誰も経験していない特殊な方法です。だからこそ、計測方法に関しては、とにかく分かりやすく伝えなければいけません。そのため、直感的に理解できるユーザーインターフェースになるよう心がけています。例えば、測定結果は、ファンデーションの購入に結び付くことが求められます。ですから、ユーザーがヘモグロビン量とメラニン量から成る科学的な知見と根拠を感じ、ゾゾグラスへの信頼が芽生えるようなユーザーインターフェースにしています。

――直感で使用してもらうデザインは“言うはやすし”だと思います。どのような工夫があるのでしょうか。

 計測前のステップとして、正しく計測するために、髪の毛がかからないようにすること、メイクを落とすこと等をきちんと伝えないければいけません。また、部屋の明るさが足りないときは、アラートとして黄色いバーが表示されます。明るさが規定に到達していなければ、顔の角度を変えるなどのアドバイスが表示される仕組みです。これらの画面の案内に従えば、誰でもクリアできるようになっています。

山田 実は、プロトタイプは、国内の開発部隊とニュージーランドにあるグループ会社が連携して作成したのですが、日本の生活者に合わせた仕様にすることが必要で、そのため細かい改善を何度も繰り返しました。例えば、テストをお願いした社員の多くが前髪を上げるのを忘れて計測してしまい、エラーが頻発したんです。それを避けるには、どうすればいいか、と辻をはじめとしたメンバーが考え「おでこが隠れていませんか」というメッセージを表示することにしました。漢字の方がストレートに伝わるのではないか、ひらがなの方が親近感を持ってもらえるのではないか。このような改善を粘り強く積み重ねた結果が8割超という計測率に現れていると思います。