二つ目は、ポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターの楊一幸氏、宍戸まゆみ氏、斉藤優子氏、竹内啓貴氏、五味貴氏が発表した「なぜ表情によってシワが形成されるのか?-表情によるシワ形成メカニズムの解明-」である。
シワは男女問わず世界中の人々が直面する悩み。シワ形成の主な原因として挙げられる加齢や紫外線の影響は、顔全体に及ぶにも関わらず、目尻や眉間、額など、特定の部位でシワができやすいことが知られている。特定の部位にシワができる理由は、表情を作るときに皮膚の特定の部位にだけ物理的な圧力がかかるためだと考えられる。
これまでポーラ化成工業は、シワのある部分の皮膚内部では「好中球エラスターゼ」というタンパク質分解酵素が放出されることを見出している。好中球エラスターゼは、真皮のコラーゲン線維やエラスチン、基底膜といった構造体を破壊するため、皮膚の弾力を損ない、シワの形成を促す。
好中球エラスターゼは、免疫を担う白血球の一種である「好中球」という細胞から放出される。通常、好中球は血管の中におり、皮膚中にはあまり見られないため、なぜシワ部の皮膚に好中球が多く存在するのかは分かっていなかった。
そこで今回の研究では、シワ部の皮膚で見られる物理的な圧力に着目し、皮膚に連続的な折れ曲がり圧力をかけた際の変化を調べた。数万種にも及ぶ遺伝子について、圧力がかかったときの発現変化を解析したところ、今回新たに、「好中球を呼び寄せる物質」や「好中球を血管の壁に接着させ、皮膚へ染み出しやすくする物質」が大量に産生されていることが分かった。すなわち、圧力がかかると、物理的に皮膚に折り目が付くだけでなく、その部位に好中球が集まることで皮膚の内部構造も破壊され、シワが形成されやすくなると考えられる。実際に好中球エラスターゼの働きを抑える成分NEI-L1(ニールワン)を配合した製剤を連用すると、使用12週間でシワを改善することが分かっている。