日本メナード化粧品は、藤田医科大学医学部応用細胞再生医学講座(教授:赤松浩彦)および皮膚科学講座(教授:杉浦一充)と共同で、顔と身体(体幹と四肢)の皮膚の弾力の違いについて研究を行った。顔、腹部、臀部、大腿部において遺伝子発現の違いを解析した結果、身体(腹部、臀部、大腿部)ではHOXA9と呼ばれる遺伝子が特異的に発現していることを発見した。また、HOXA9遺伝子は、真皮線維芽細胞の増殖やコラーゲン、エラスチンの産生を促進することも確認した。これらの結果から、HOXA9遺伝子が、顔と身体の皮膚弾力の部位差を生み出していると考えられた。これらの研究成果は、今後の皮膚科学研究や、ボディケア製品の開発への応用が期待される。

人間の皮膚は、部位によって構造や性状が異なる。これまでの研究から、顔に比べて、腹部や臀部、大腿部など身体の部位では、皮膚が厚く、弾力が高いことが分かっている。しかし、このような顔と身体の皮膚性状の違いが何故生じるのかについては明らかになっていなかった。

そこで同研究では、皮膚の弾力の部位差に着目し、皮膚性状の違いが生み出される要因を明らかにするために、顔と身体の各部位で特異的に発現する遺伝子の解析を行った。その結果、HOXA9と呼ばれる遺伝子が、腹部や臀部、大腿部で特異的に発現していることを発見。また、HOXA9遺伝子が真皮線維芽細胞の増殖やコラーゲン、エラスチンの産生を促進することも確認した。

これらの結果から、身体では特異的にHOXA9遺伝子が発現していることで、顔に比べてコラーゲン、エラスチンの産生が促進され、皮膚の弾力を高めていると考えられた。

なお、同研究成果は、国際学術誌「Journal of Investigative Dermatology」(オンライン版)に掲載。論文タイトルは「Site-specific expression of HOXA genes in skin and its effect on skin elasticity」(URL:https://doi.org/10.1016/j.jid.2025.04.005)。

皮膚の詳細な構造や性状は、部位によって差があることが知られている。20代の女性被験者を対象に顔と身体(腹部・大腿部)の皮膚弾力を測定したところ、顔と比較して、腹部と大腿部の弾力が高いことを確認した(図1)。

図1:各部位の皮膚弾力の比較

HOX遺伝子は個体の胚発生の初期において身体の構造(頭、胸、腹など)を決定する重要な遺伝子群だ。これまでにヒトでは39種類のHOX遺伝子が同定されている(図2)。HOX遺伝子は胚の前後軸に沿った特定の領域で発現し、身体の各部位の形成を決定している。近年では、胚発生段階だけでなく、成体においてもHOX遺伝子が機能を有することが報告されている。同研究では、HOX遺伝子が皮膚弾力の部位差にも影響を及ぼすと考え、研究を進めた。

図2:人間の身体の構造を決めるHOX遺伝子

30~60代(男女)の顔と身体(腹部、臀部、大腿部)の皮膚から採取した真皮線維芽細胞について、遺伝子発現の違いを詳細に解析した結果、HOX遺伝子の一つであるHOXA9遺伝子が身体で特異的に高発現していることが明らかとなった(図3)。

図3:各部位由来の真皮線維芽細胞におけるHOXA9発現の比較

HOXA9遺伝子の役割を明らかにするために、HOXA9遺伝子の機能を抑制した真皮線維芽細胞を作製し、皮膚弾力に関わる要素との関連を調べた。その結果、HOXA9遺伝子の機能が抑制された線維芽細胞では細胞の増殖能とコラーゲン、エラスチンの産生能が低下することが明らかとなった(図4)。

図4:HOXA9遺伝子が細胞増殖とコラーゲン、エラスチンの産生に及ぼす影響

これらの結果から、HOXA9遺伝子は皮膚において弾力に大きく関係するコラーゲンやエラスチンなどの発現を高める役割があると考えられた。また、HOXA9遺伝子は、身体に特異的に発現していることから、顔と身体の皮膚弾力の部位差の要因となっていると推察された。