利益改善が続くなか成長の継続力が問われる
桑原 日用品市場を見ると、国内需要は酷暑が長引き堅調に推移。主要メーカーはSKUを絞り値上げをする動きが鮮明になり、競争条件は緩和しています。一方、海外市場はアジア市場の不安定感が目につきます。ポスト中国で消費のけん引役と見られていた東南アジアも、流通企業間の競争で在庫が溜まり始めると、急に在庫調整する動きも出てきている。日本企業に限った話ではなく、ローカル企業も膿を出していますから、この激しい競争環境は少なくとも25年前半まで続くと見ています。
宮迫 花王の日用品事業が好調なのは、国内で値上げがしやすい条件がそろったからというのもあると思います。値上げしにくいカテゴリーばかりでしたが、リビングケアやファブリックケアの価格が上がり続けていますよね。競合のP&Gとライオンの動きがおとなしく、花王にとって追い風が多かったと思います。
桑原 24年は花王のデータマーケティング手法が当たった年だったのではないか。各カテゴリーのシェアも高いですから、少しでもトップラインが上がると、スケールメリットが効いて利益に落ちてくる。ですから収益は伸ばしやすい状況になっています。だからこそ、次の注目点はサニタリーの利益率で、ROIC(投下資本利益率)が取れていれば良いからと一桁台の利益率を維持。しかし、その真意が読み取れない。というのもユニ・チャームのサニタリーは利益率が高いからです。花王もシェアは上位ですから、不織布関連は重視しないのか、と勘繰ってしまいます。25年はサニタリーの立て直し策に注目します。
宮迫 もう一つの焦点は、ヘアケアのハイプレミアムラインが売れ続けるのかですね。「melt(メルト)」と「THE ANSWER(ジアンサー)」が好スタートを切ったようですが、ヘアケア市場は明らかに競争過多。発売から1〜2年は売れるでしょうが、その後の持続性について判断するのが難しい。一方、ユニ・チャームは今後2〜3年は我慢の時期になると思います。理由は二つあって、まず中国でローカルブランドの台頭が著しいこと。そしてそれらの中国企業がベビーケアで東南アジアに進出し、TikTokでどんどん売っており、日本企業の対応が後手に回っています。フェミニンも同じことになるリスクがあると感じます。二つ目は、ユニ・チャームはアジア各国で新商品を出す度に値上げをしてきましたが、それに消費者が息切れし始めていると思っています。ユニ・チャームは低価格ラインを出して原価を下げる方針ですが、その戦略が軌道に乗るまでは競合に押されるのは仕方がないと思います。
桑原 ただ、ユニ・チャームには、展開する国・地域への権限委譲が進んでおり、現地の判断で素早く動ける体制が構築されています。ピンチをチャンスに変えるためのアクションも素早く行える。その強みを発揮するのではないでしょうか。もう一つの強みは、人口減の日本市場において売り上げ、利益を引き上げる体制を築いていること。日本企業は特定の事業に依存し過ぎて、それが傾くと、全体が落ち続けることが多いのですが、それはユニ・チャームではあり得ないのではないでしょうか。ですから、市場を厳選して新商品を投入すれば、まだ伸びると思います。その意味では、先進国で急成長中のペットケアについて、いつユニ・チャームはアジアで成長するのか。そこに注目しています。
宮迫 私はライオンの出方が気になっています。値上げしやすい市場環境下で、リビングケアとファブリックケアのシェア下落を容認するとは思えない。大型ブランドとして23年4月に発売した「ソフラン エアリス」は生産中止になりましたが、柔軟剤は諦めていないはず。自社の特徴あるブランドに絞り、攻勢に出ることを期待しています。
桑原 24年に竹森(征之)社長が戦略を大きく転換し、利益率が改善したのは大きな成果。国内売り上げが伸びないのは寂しさもありますが、競争費用を減らしているのに、それほどファブリックケアとリビングケアが落ちていないのも良かった。加えて生産体制の整理統合を発表し、25年も利益率の向上が望めるのは、経営の舵取りができているからではないでしょうか。ただ、ここ数年、新商品のヒット率が悪いのは改善点。会社の売上計画が未達なのは不安材料です。海外は、オーラルケアが中国で伸び続け、今後はアジアで需要が顕在化します。まだまだ成長余地は十分にありますし、新興国へのチャレンジ精神も買っています。コルゲート・パルモリーブなどのグローバルメーカーとの戦い方に注目しています。
宮迫 中国のオーラルケアは、成長の中身を精査したいですね。足元の売上増は、新規取引先の拡大が要因。既存店の状況次第では新店開拓が頭打ちになった時が怖い。中国を含むアジアにおいては、現地の生活者ニーズに沿った差別化商材を出し続けられるかが鍵を握ると思っています。★
月刊『国際商業』2025年02月号掲載