韓国コスメが若年層を中心に人気だ。今回は、韓国コスメブランドのインスタグラム戦略を紐解きつつ、日本のコスメブランドも参考にできる施策を紹介する。
2020年9月の財務省貿易統計によれば、2015年時点で約100億円だった韓国からの化粧品輸入は、2019年には約400億円に迫る勢いで増加している(※1)。また、10代~20代の韓国コスメの使用経験率は5割を超えるというデータもある(※2)。
韓国コスメの人気の理由として、値段の安さ・高い品質・パッケージのビジュアル性の三つが挙げられる(※2)。手に取りやすい価格の割には高品質で、「コスパ」を気にする10~20代の心を捉えた。SNSネイティブな世代にとって、SNSに投稿したくなるデザインのパッケージであることも重要である。
後述とつながる話だが、SNS上の「クチコミ」が出やすい商品の特徴に、価格の安さ(値段の手頃さゆえに手に取る人口が多い)とSNSで「映える」デザインの2点がある。韓国コスメは、その両方を満たしている点も言及しておく。
韓国ひいては韓国コスメの人気ぶりは、インスタグラム上でも顕著だ。弊社が調査したところ「#メイク」「#コスメ」と一緒に投稿されている頻出ハッシュタグTOP1000中54個が、韓国関連ワードだった。ちなみに、この調査データで最も投稿数が多かったブランド名はDiorで、次点が「CLIO」(韓国のコスメブランド)と「Chanel」だった。
筆者が見たところ、韓国コスメブランドは大きく2つの戦略を実施している。
ひとつは、UGC(User Generated Content)の積極的な活用である。UGCとは、ユーザーの投稿(クチコミ)だ。Twitterを対象とした調査だが、UGCが少ないことが理由で購入をしなかった人は今や6割を超えている(※3)。購買に影響している点から、自社のUGCを多くSNS上に出しておくことは、SNSをマーケティングに活用するうえで重要な観点だ。
韓国のコスメブランドは、質の高いUGCをフィード投稿にリポストする施策を積極的に行なっている。また、商品を積極的に発信してくれる「アンバサダー」を募り、彼らのUGCをリポストする施策も多い。
アンバサダーはブランドの情報を積極的に発信してくれる存在で、いわゆる「一般人」から選ばれる。企業の募集に自ら応募した人が就くため、ブランドに対する熱量があり、高いモチベーションで発信してもらえる点がメリットだ。
一般人であるアンバサダーによる投稿は、ほかのユーザーに親近感を感じさせるだけでなく、投稿を作成する際の「手本」にもなる。アンバサダーの「手本投稿」に近いUGCをブランドがリポストし、それを見た他のユーザーがUGCを出し、再びブランドがリポストすれば、自社商品が絶えずインスタグラム上で話題になっている状態を作れる。
ユーザーが身近に感じる投稿をリポストすることで、「私の投稿も公式にリポストしてもらえるかもしれない」という期待感を持たせ、新たなUGC創出のモチベーションを生み出せるという効果もある。前回の記事でも書いたが、インスタグラムは「コミュニケーションの場」としても機能している。韓国のコスメブランドはこの特性を捉えているのか、ユーザーとのコミュニケーションにも積極的だ。UGCの活用などを通じたコミュニケーション施策は、まだUGCが少ないブランドでも使えるため、これからインスタグラムの活用を考えているという日本のコスメブランドも参考にできるのではないだろうか。
ふたつめの戦略は、UGCから得たユーザーニーズを反映した投稿を作っていることだ。
例えば、韓国コスメのアカウントでは商品を肌に塗布したスウォッチの投稿が多い。これは店頭で商品を試し、発色具合を確認して購入する消費者の行動と、「事前に情報を知りたい」心理に応えるものだ。実際にインスタグラムでコスメブランドを検索してみると、ユーザーによるスウォッチのUGCは多い。公式スウォッチ画像の投稿は、こうしたUGCの状況からニーズを的確に捉えた施策だと考えられる。
インスタグラムは若年層にとって、大きな「情報収集の場」となっているSNSだ。ユーザーが欲しい情報を提供するためにも、ハッシュタグ検索などから行なうUGCの観察は、自社投稿のヒントとなるだろう。
インスタグラム=作り込んだ画像を投稿する場というイメージもあってか、日本のコスメブランドはブランドの世界観を意識した投稿が多い。当然、世界観を重視する投稿も必要だ。一方で、ハッシュタグやメンションつきの投稿などを調査し、ユーザーが求めている情報を知り、自社の投稿に落とし込むことも、日本のコスメブランドが参考にできる施策だろう。
とはいえ、韓国の人気コスメブランドでも、改善を推奨したいようなアカウントもある。
ホットリンクのクチコミ分析ツール「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」を使い、2018年以降の韓国コスメブランド12個のTwitter上のUGC数推移を比較したところ、数が右肩上がりのブランドもあれば、低迷もしくは年々下がっているブランドもあった。
UGC数が低迷気味のアカウントの特徴に、一方的な情報発信を行なう「オウンドメディア」的な使い方をしている点が考えられる。要するに、公式HPの更新やプレスリリースのような投稿をしてしまっているのだ。
情報があふれ返り、タイムラインによって情報がパーソナライズされている現代では、美容感度が高いユーザーであったとしても、企業からの公式情報ばかりを必要としているわけではない。むしろ一般ユーザーによる美容情報用アカウント(「美容垢」)が、自主的に自社商品をUGCで紹介したことがきっかけとなり、ヒットしたという商品も多い。
メディア環境に変化が起きている現在、多様な顧客接点を構築する施策も必要だ。企業アカウントによる一方通行な宣伝ではなく、影響力の強いユーザーにギフティングをしたり、コラボ企画を依頼したりなどして、UGCを出して貰うことを前提とした施策展開も重要である。
ユーザーから常に選ばれるブランドになるため、工夫が必要なのは日本も韓国も同じだ。プラットフォーム固有の特性を踏まえた施策展開など、ブームを起こしている韓国のコスメブランドの事例も、参考にしてみてはいかがだろうか。
株式会社ホットリンク
グローバルでのソーシャル・ビッグデータの流通と分析ソリューションの提供により、ソーシャル・ビッグデータを価値化する企業である。市場や自社・競合、顧客の声やキャンペーン反響などの各種調査、ターゲットユーザーのプロファイリング、ブームの兆し発見などマーケティングROI(投資収益率)向上や製品改善、経営革新や予測など、ビジネスにおけるソーシャル・ビッグデータの幅広い活用を支援している。さらにデータを基にプロモーションも提供することで、クライアントのSNSマーケティング全般をサポートする。 |
※1 https://www.jcia.org/user/statistics/trade
※2 https://lab.testee.co/k-cosme_2020
※3 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000055921.html
月刊『国際商業』2021年07月号掲載