インスタグラム(Instagram)の月間ユーザー数は全世界で10億人(2020年11月時点)(※1)、国内でも3300万人(19年3月時点)を突破(※2)している。20〜30代の女性を中心に幅広い年代で利用されており、多くの企業にとって無視できない存在になりつつある。とりわけ化粧品業界はインスタグラムのビジネス活用が盛んだ。

主な理由は二つある。一つは、インスタグラムにはアプリ上で商品を購入できる「ショッピング機能」が搭載されている点だ。特に日本のユーザーは、ショッピングタグなどから商品の詳細を確認する割合が他国の3倍高いというデータも出ている(※1)。

もう一つの理由は「ハッシュタグ」機能にある。インスタグラムといえば、いわゆる「インスタ映え」を意識した画像を投稿するSNSというイメージが強いかもしれない。しかし近年は「情報収集の場」として活用されているのをご存知だろうか(※3)。日本では特にその傾向が強く、他国と比較すると5倍もハッシュタグ検索が行われている(※1)。若年層の間では、もはやグーグル(Google)検索エンジンに近い存在になりつつあるのだ。

コスメ関連のハッシュタグも多い。21年1月1日~3月9日現在において「#コスメ」「#メイク」と一緒に投稿されている頻出ハッシュタグを調査し、ランキングを抽出してみた。下図は、上位20位を表にしたものである。

ランキングにはないが、コロナ禍で増加した「#マスクメイク」の投稿も見逃せない。マスクにつかない、崩れないメイクアイテムを紹介する投稿が増えた。また、マスク映えの投稿も急増した。消費者としては、アイメイク、アイブロウのHow to系商品を見て購入検討する際に、「マスクとの相性」という観点が商品の新たな魅力になった。現代では、このハッシュタグ投稿の状況から、今のメイクの関心傾向が分かるようになっている。また、図には入っていないが、ランキング全体を見ると韓国語のハッシュタグが複数件抽出されている点も興味深い結果だった。

ランキング調査と同じ条件で抽出した頻出単語ワードマップも紹介する。

コスメ関連の頻出単語ワードマップ(2021年1月~3月までの集計データ。インスタグラムの投稿のキャプションに並んでいる文字列を元に抽出。「#コスメ」「#メイク」のトップ投稿合計4000件がもと。示唆にならない接続詞や諸々のノイズは除去)

ランキングのデータと共通しているのは、どちらも「#マスク」の存在感が高いことだ。新型コロナウイルス感染症による影響と考えられるため、「#マスク」の頻出化は20年から始まっていたのだろう。仮説に過ぎないが、「#アイメイク」の投稿の伸びはマスクが関係している可能性も示唆できる。ランキングだけではなく、ワードマップからも韓国の存在感が目立つ点も注目に値する。

ハッシュタグを起点とした購買行動が生まれていることも、特筆すべき現象だ。例えば、新しいリップアイテムが欲しいユーザーが「#赤リップ」「#ティント」などで検索をしたとしよう。検索結果には、一般ユーザーによるレビュー投稿が出てくる。タップすると、写真やキャプションとともに商品が紹介されている。「#(商品名)」でも検索を行い、他のユーザーのレビューも参考にする。複数の商品で同様の行動を繰り返し(要するに比較検討だ)、最終的に公式アカウントの投稿からショッピングタグを辿り、購入ページに遷移し、買う。

このように、検索から購入までをインスタグラム内で完結させる購買行動は既に発生している。ホーム画面に追加されたショッピング機能により、インスタグラムでの買い物がより手軽になっていくことも鑑みると、ハッシュタグ検索起点の購買行動が加速する流れも起こるかもしれない。

SNS時代特有の検索・購買行動が台頭する状況下で、企業はどのようにハッシュタグを活用すればよいのだろうか。ポイントは、情報収集と情報発信の二つの軸から施策を考えることである。

情報収集の観点からいうと、自社に関連するハッシュタグを定期的に探し出し、検索結果を観察することを勧めたい。ユーザーの率直な意見がわかるし、そこから得た情報は有益な形で活かせるからだ。先ほどの「#コスメ」「#メイク」を例に出そう。検索結果には、コスメのレビューをまとめた投稿が多く見受けられる。商品の写真だけでなく、ユーザーがメイクをした写真や、アイテムの魅力を説明した文字入りの画像もあるようだ。

自社商品や関連ハッシュタグからは、ユーザーが自社の「クチコミ」をどのように出しているのかがわかる。気づけなかった訴求ポイントが見つかったり、ユーザーが見たい投稿の要素がわかったりするため、プロモーションや投稿の作成に活かせるのだ。「#リップ」や「#アイシャドウ」など、カテゴリ名検索によって流行の商品も把握する手もある。競合ブランドを調査したり、英語や外国語で検索して世界のコスメトレンドを観察したりなど、活用法は多様だ。

次に、情報発信の観点である。

若年層にとって、インスタグラムは検索エンジンのような存在になりつつある。グーグル検索をして何も出てこなかった場合に「情報自体が存在しない」と感じるように、いまやインスタグラム上でハッシュタグ検索しても情報が出てこなければ、「存在しないもの」と認識される可能性が高いのだ。この点をひとつ取っても、ターゲットが検索しそうなハッシュタグを調査し、自社の投稿に設置することは、重大な意義を持つ。若年層の新規ユーザーへの認知拡大を狙う場合は、ハッシュタグを活用した情報発信がもはや欠かせない。

また、ハッシュタグつきの投稿を続ければ、インスタグラム上の発見タブに載る可能性もある。発見タブは、いわば「インスタグラムのスクランブル交差点」のような存在だ。大勢のユーザーが閲覧する場所につき、上位に掲載されれば、より多くの認知拡大に繋がる。美容系インフルエンサーの目に留まり、自主的な形でレビューを投稿してくれる可能性もゼロではない。そうなれば、さらなる波及効果が望める。インスタグラムはツイッター(Twitter)よりも「情報拡散力」が弱いSNSだが、ハッシュタグの活用によって上記のようなマーケティング効果を期待できるのだ。

筆者は20代前半だが、友人に気になるコスメを紹介する際は、企業ページではなく、ハッシュタグ検索から見つけた一般ユーザーのレビュー投稿を見せている。同年代の多くの友人も同じような行動をとっているため、私個人に限った話ではないはずだ。インスタグラムを主戦場にプロモーションを行い、若年層から高い支持を得る新興ブランドも多数登場してきた。ハッシュタグを情報収集と情報発信の二軸で活用できれば、顧客との距離感は縮められる。顧客の生の声を聞き、商品開発やプロモーションに活かせば、企業としてさらなる成長が見込めるだろう。(ホットリンク  富井真歩)

株式会社ホットリンク

グローバルでのソーシャル・ビッグデータの流通と分析ソリューションの提供により、ソーシャル・ビッグデータを価値化する企業である。市場や自社・競合、顧客の声やキャンペーン反響などの各種調査、ターゲットユーザーのプロファイリング、ブームの兆し発見などマーケティングROI(投資収益率)向上や製品改善、経営革新や予測など、ビジネスにおけるソーシャル・ビッグデータの幅広い活用を支援している。さらにデータを基にプロモーションも提供することで、クライアントのSNSマーケティング全般をサポートする。
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(※1)Instagram、世界の月間アクティブアカウント数は10億に。日本のハッシュタグ検索は他国と比べて5倍 | Web担当者Forum

(※2)Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破 – Facebookについて

(※3)高校生・大学生のTwitter・Instagram利用目的1位は「情報収集」 | EdTechZine