化粧をし、身仕舞いをととのえるのに必要な化粧道具、鏡。現代ではガラス鏡が一般的ですが、人がはじめて自分の姿を映し見たのは水たまり、つまり水鏡にはじまったといわれています。やがて技術の発達に伴って金属製の鏡が登場。古代エジプトの墓の副葬品にも、青銅で作られた手鏡があります。
日本での金属製の鏡のはじまりは弥生時代。中国大陸から青銅鏡が伝わり、国内生産も行われます。しかし、古代における日本の鏡は化粧道具というより権威の象徴でもあり、祭祀にも使われる特別な存在でした。実用品としての鏡が人々の生活に取り入れられていくのは、貴族文化が花開いた平安時代。使っていたのは上流階級の一部の人々で、鏡は『源氏物語』などの文学作品にも登場しています。そして江戸時代になると庶民にも普及。鏡を手に、化粧をしている女性を描いた浮世絵も数多く残されています。
江戸時代までの鏡は金属製の鏡が主流でしたが、欧米の文化や技術が取り入れられた明治時代になるとガラス鏡が普及、現代に続きます。そして近年登場した新しい鏡がAI搭載のスマートミラー。なかでも注目のスマートミラーが今年発売予定の「novera(ノベラ)」(https://www.novera.co.jp/)です。
センシング技術で肌や表情の変化を分析するビューティサポートだけでなく、『なりたい自分に希望がもてる』コンシェルジュともいえるキャラクターと対話できるという鏡。デモ機を体験したのですが、キャラクターの声を耳で実際に聞き、対話することで自身の思考や感覚がこんなに前向きに引き出されるものだと驚かされました。ただ自分の姿を映し見るだけでなく、人のココロにも寄り添う鏡が生活の一部に、そんな未来はもう目の前なのかもしれません。
(川上博子・ポーラ文化研究所 研究員)
※クレジット記載のない図版は、すべてポーラ文化研究所提供
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス ポーラ文化研究所
ポーラ文化研究所は、化粧を美しさの文化として捉え、学術的に探求することを目的として1976年に設立されました。以来、日本と西洋を中心に、古代から現代までの化粧文化に関わる資料の収集と調査研究を行い、ホームページや出版物、調査レポート、展覧会などのかたちで情報発信しています。 |