ようやく涼しくなったと思ったら、化粧品業界はクリスマス商戦真っ盛り。今年のトレンドも楽しみですが、昨年のウィンターシーズンに「化粧品の名入れ(刻印)」サービスが多くのコスメファンの心をつかんだのはご存じの通り。

巷では、個肌対応のスキンケア品やパーソナルメークレッスンが目立ち、ファション誌のメークページを開くと、流行を取り入れながらも「私らしい」「私に似合う」など、「私」がキーワードの商品、サービスが次々と紹介されています。

その流れで登場した「名前入りコスメ」は、クリスマスプレゼントとして友だち同士で贈りあったり、自分へのご褒美として購入したり、手軽にオーダーメード気分を味わえるアイテムとしてヒット。プチプラから高級品まで幅広い価格帯のコスメが存在する現代、化粧品の中身ではなく、パッケージでオーダーメードの特別感を出しているのかもしれません。そこにポーラ文化研究所の研究員が興味を持ったのは「名前入り」を好むのが現代に限った話ではないからです。

桶盥、湯桶(江戸時代後期・橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具より)

化粧道具を含む婚礼調度は、江戸時代には大名家で姫君が生まれると、すぐに製作がはじめられるものもあったといいます。西洋でも王侯貴族の化粧道具には紋章を施したり、持ち主のイニシャルを刻印したりしていました。ポーラ文化研究所が所蔵する江戸時代後期の「橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具(約50点)」は、残念ながらもとの所有者は特定できないのですが、大きな盥(たらい)から小さな筆にいたるまで家紋が入っています(写真参照)。まさに究極のお誂え、オーダーメード品だったと考えられます。

刷毛・筆類(江戸時代後期・橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具より)

かつて、現代のように合成の原料が安価につくられるようになる前は、化粧料やフレグランスは上流階級のごく一部の人のために調合されるもの。化粧は特権階級のものとして行われてきました。特別な人のための化粧品。つまり、最近の「名前入りコスメ」は、刻印された名前の人「だけ」に誂えられたという、ちょっとリッチな特別感を感じさせてくれるわけです。

「橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具(江戸時代後期)」

ポーラ文化研究所は1976年の設立以来、「化粧・女性・美意識」をキーワードに東西の化粧史および、その周辺分野、各時代の風俗や美人観などを含めた化粧にまつわる幅広い研究活動を行っています。その成果は、ホームページや出版物、調査レポート、展覧会などのかたちで広く社会に発信しています。

研究者たちは、何百年も前の古い資料を読み込んだり、現代女性の化粧への気持ちを調査するにつけ、時代や場所を越えて流れ続ける不変の「化粧心」に度々、驚かされています。この連載は「化粧の時間旅行」と題して、化粧の過去と未来を結び付け、目からウロコの「化粧心」を紹介します。昔の日本人の気持ちをつかんだトレンドは、現代人にも通用するはず。マーケティングを考えるヒントになるかもしれません。どうぞお楽しみに。(富澤洋子・ポーラ文化研究所 研究員)

※クレジット記載のない図版は、すべてポーラ文化研究所提供

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ポーラ文化研究所は1976年の設立以来、「化粧・女性・美意識」をキーワードに、化粧文化に関する研究活動を行い、ホームページや出版物、調査レポート、展覧会などのかたちで情報発信している。[ホームページ]
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