開店前のドラッグストア、マスクを求める行列がいまだに続いている。開店後の百貨店には逆に客がほとんどなく、店員が手持ち無沙汰に立ちすくんでいる。3月半ばを過ぎて、どちらも極端な混雑・閑散さは緩和されてきたものの、数カ月前には予想しなかった光景だ。新型コロナウイルスの感染拡大は、インバウンド消費の減少という逆風に苦しむドラッグストアと百貨店に、真逆のインパクトを与えている。

年明け前後まで、小売業の共通の課題は昨年10月の消費増税後の落ち込みをどう乗り切るかだった。だが年が明けると、まずインバウンド消費に変調が出始める。冬物衣料には暖冬の影響も出始める。感染者が世界各地に広がり始めると、世界景気の減退懸念が大きくなってきた。三越伊勢丹ホールディングス(HD)と髙島屋は通期予想を減額修正した。中国以外の国・地域への新型コロナウイルス感染拡大による小中高の休校や不要・不急のイベント自粛も始まり、外出する人が一気に減っている。

コロナ特需に沸いたドラッグストア

3月に入り発表された2月次の既存店売上高は百貨店とドラッグストアで大きく明暗が分かれた。マスクに加え、トイレットペーパーやティッシュペーパーまで品薄となる異常事態で、ドラッグストアの既存店売上高はジャンプアップした。

ドラッグ大手5社の動向を見ると、まずツルハHDは2月(15日までの1カ月)の既存店売上高が7・1%増。本格的な「巣ごもり」は2月後半からであり、さらに伸びているはずだ。3月16日に発表した第3四半期決算(2019年6月~20年2月)では、経常利益が前年同期比14・5%増益となり、据え置きの通期予想(経常4・5%増益)を上振れするのは必至だ。

ウエルシアHDの2月の既存店売上高は前年同期比20・6%増で、物販も調剤も伸びている。コスモス薬品は同11・3%増、サンドラッグは同15・1%増(ドラッグストア事業のみ)、マツモトキヨシは同8・0%増だった。

マツキヨは九州エリアの一部店舗で花粉症関連商品のセット販売を中止させ、2月21日に謝罪している。目下の焦点は業界7位のココカラファインとの統合だ。経営統合に向けた資本業務提携の基本合意書を1月31日に締結。最終契約の締結は合意から1年後の22年1月31日をメドとしており、最終契約の締結が同2月予定、同6月の両社の株主総会での承認を得て、最終的な経営統合は同10月1日予定としている。

業務提携の段階から、PB商品の相互供給・MD(マーチャンダイジング)の展開を行い、NB(ナショナルブランド)商品・調剤の仕入れ一本化とMDの統合や、販売促進・共同購買と決済契約の共通化を推進し、統合前にシナジーの早期実現を目指すという。

次の大手の合従連衡がどう展開するかに注目が集まるが、百貨店に比べればまだパイの拡大が続いている業界であり、特需がある程度長期化すると、危機感がやや減退する可能性も囁かれていたが、3月に入って状況は一変。ドラッグストアの特需は陰りが見え、前年を割り込む企業が増えている。「消費者は価格にシビアになり始めた」とドラッグ関係者は危機感を募らせる。