百貨店各社のトップ人事がにわかに騒がしくなる始め、さまざまな観測が飛び交っている。
このうち、大丸松坂屋百貨店を傘下にもつJ.フロント リテイリング。現在、社長を務める山本良一氏が、役員経験なしの13人抜きで事業会社の大丸社長に就任したのは2003年のこと。それから2010年に大丸松坂屋百貨店社長、13年4月にはJ.フロント社長に就任と着実に出世してきた。だが、それも16年目に入り「そろそろ交代では」との声が聞こえてくる。
これまでも、銀座松坂屋の跡地に建設された「GINZA SIX」の完成を花道にするのではないか、また「松坂屋上野店」の改装で交代するのではないかといった観測が上がっていたが、いずれのタイミングでも残留。
そのため一部には、いずれも19年秋に予定されている「大丸心斎橋店」の改装オープンや、子会社のパルコが運営する「渋谷パルコ」の建て替えを花道にして交代するのではといった見方が浮上している。
そこで気になるのは後継者。当初、大丸と松坂屋の経営統合、J.フロントの設立へと導いた奥田務J.フロント前会長兼CEOの“秘蔵っ子”と言われていた好本達也氏が“本命視”されていた。13年に大丸松坂屋百貨店社長、17年5月からJ.フロント代表執行役常務を兼務している実力者だが、「非常に厳しく、社内での評判もイマイチ」(関係者)として外れたと見られている。
そこで浮上したのは、藤野晴由氏。大丸東京店長に就任し、12年の大丸東京店増床では店長として陣頭指揮を執った。その後、取締役兼常務執行役員に就任し、経営戦略統括部長を務めた人物だ。しかし、そんな藤野氏も18年4月の組織改編で、執行役常務は継続ながら取締役から退任、一気に混迷を深めている。「山本さんも若くして社長になった経緯もあり、何人かいる役員の中から、白羽の矢が立つ人物が現れるかもしれない」(J.フロント関係者)との声が上がるが、「大本命は不在。一体誰になるのか……」(同)と関係者は固唾を飲んで見守っている。
一方の高島屋。業界では「木本茂社長は昨年交代するだろうと目されていた」(百貨店関係者)と言うが、社長にとどまった。だが、高島屋を中心とする日本橋2丁目の一体開発も一区切り着いたことから「そろそろ」との声も上がっている。
ただ、高島屋の場合は、「常務で企画本部長の代表取締役常務で企画本部長の村田善郎氏で決まりだろう。経営を任せられる人は他にはいないと言われている」(別の百貨店関係者)との見方がもっぱらだ。
というのも、この関係者曰く「村田さんはもともと鈴木(弘治)会長と同じ組合出身で、過去、大阪で問題が発生した際に大立ち回りを演じて解決、そこからずっと鈴木会長の信が厚い」(同)言われているからだ。
高島屋で気になるのは、03年に社長に就任し、現在は代表取締役会長を務める鈴木氏の動向。会長に就任した後も「代表取締役として実質的な院政を敷いている」(同)と言われており、「最近、腰の手術をしたが、現在はいたって健康でますます元気。同じ組合出身の村田さんが社長になったら、引き続き院政を敷き続けるのではないか」(同)と見られている。
そしてセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武。セブン&アイの井阪隆一体制が誕生した16年秋に社長に就任した林拓二氏だが、業績低迷ですでに社長交代説が浮上している。
そもそも林氏は、社長候補の下馬評にも名前が挙がらなかった人物。しかし、その陰に、1999年に西武百貨店の社長を務めた後、そごうを立て直した和田繁明氏の後任として2007年に当時のミレニアムリテイリングの代表取締役会長に就任、09年からはそごう・西武の代表取締役会長を務めていた堀内幸夫氏がいたとされる。
というのも、堀内氏の推挙で13年にそごう・西武社長に就任した松本隆氏が、「在任時後半に“暴君”となって社員からも恐れられるようになっていた。業を煮やした堀内氏が松本氏に引導を渡し、子会社の社長に飛ばされていた林氏を擁立した」(別の百貨店関係者)というからだ。
そんな林氏の次として噂されるのがそごう・西武取締役の岡田正俊氏だ。20年近く前、堀内氏が統合前の西武百貨店社長を務めていた際の秘書部長を務めるも、その後一旦退社。ローソン、リーバイスの幹部を経て、数年前に、堀内氏がそごう・西武会長だった時期に、顧問として復帰し、取締役に就任した人物だ。
なぜ、そんな岡田氏の名前が浮上するのかと言えば、そごう・西武会長、そして顧問を離れて1年以上経った今もなお、「堀内氏は院政を敷き、組織人事にまで口を挟んでいる」(そごう・西武関係者)からだ。
「押しの強さはあるものの強引な人で、店舗を始め、現場からの評判は芳しくない」(同社関係者)と言われているが、まさに堀内氏の“秘蔵っ子”で信望が厚いため、「堀内氏が指名するのではないか」と見られているわけだ。
ただ、今は“インバウンド景気”という神風が吹き好調に見える百貨店だが、“冬の時代”に突入していることは間違いない。復活するためには、新しくトップに就任する人物たちが、まったく新しいビジネスモデルを構築することができるのか――。その一点にかかっている。