杜の都・仙台に、日本とイタリアの有力化粧品専門店の経営者が集結した。コーセーは、日本で開いている有力専門店経営者の合同会議「絆の会」をイタリアでも立ち上げ、19年、初の相互交流を開始。まず4月に日本の有力店経営者がイタリアを訪問し、店頭を視察するとともに、経営者同士が意見を交換。その2カ月後の6月にイタリア側が来日。日本側と合流し、28日に東京・アンダース東京(虎ノ門)で行ったコスメデコルテの「AQ ミリオリティ アフターパーティ」に出席。翌29日、仙台にあるコスメセレクトショップ「粧苑SUKIYA S-PAL店」を訪問。日伊の経営者は、意見を交わしながら道中を共にした。

日本とイタリアの有力専門店経営者が仙台にあるコスメセレクトショップ「粧苑SUKIYA S-PAL店」を訪問。由佐幸継・粧苑SUKIYA社長は質問攻めにあった

この国境を越えた「絆の会」の交流を企画した意図について、コーセー化粧品販売の藤原功常務取締役は「コスメデコルテの存在感について、各国単位で理解するのではなく、グローバル単位で感じていただきたかった」と説明する。19年3月期のブランド売上高は前年比1.5倍の680億円で、今期も二桁成長を目指している。国単位では理解し難いグローバルブランドの勢いを専門店に理解してもらえば、製販一体の取り組みが一段と深くなるに違いない。企画意図は「もう一つある」と藤原常務が続ける。

「我々は化粧品専門店チャネルを中心に戦略を考えており、日本でも、イタリアでも、絆の会をさらに強化していきたい。イタリアでも素晴らしいお店さまとの出会いが増えています。日本のお店さまと文化が似ており、それぞれの成功事例を共有することで、両国のお店さまの発展をこれまで以上にサポートしていきたい」

粧苑SUKIYA S-PAL店を歩き回る日本とイタリアの経営者

確かに、粧苑SUKIYA S-PAL店の視察中、由佐幸継・粧苑SUKIYA社長は、イタリア側から質問攻めにあっていた。コスメデコルテのカウンター内ではもちろんのこと、フレグランスコーナー、エステコーナーでも、全員が立ち止まり、由佐社長の話に聞き入る姿が印象に残った。イタリアの化粧品専門店の経営者は、次のように話す。

イタリアの経営者は、高級感あふれる店内に興味を持っていた

「私の店には、最高級品がそろっていますが、コスメデコルテは最高の場所にディスプレイしています。それだけ素晴らしい商品だと思う。粧苑SUKIYA S-PAL店を見て、商品が整然と完壁に配置されており、お客さまから見て分かりやすいことが大きな学びになりました。イタリアで『絆の会』のような経営者同士が情報交換する場は少なく、コーセーは素晴らしい取り組みを始めてくれた。しかも、異なる文化を学べる今回のような相互交流は、新しい知識が得られるので良いことです」

店内を歩きながら活発に議論を交わしていた

じつはイタリア市場の競争は激しい。百貨店は数が少なく、高級化粧品の買い場といえば、化粧品専門店が中心。だが、そのタイプはいくつかに分かれ、生き残りをかけた競争が始まっている。

一つ目のタイプは、伝統的な専門店。それぞれのお店が独自経営を保ち、個性豊かな売り場づくりを行う。販売はカウンセリング重視で、顧客と信頼関係を築き、愛用者を育成。藤原常務が日本の文化と似ていると指摘したように、日本の専門店に近い経営スタイルで、コーセーのコスメデコルテが最も力を入れているタイプだ。これ以外の化粧品専門店は、ドイツのダグラス、フランスのセフォラのようなグローバル規模の化粧品専門店チェーンと、これに対抗するために小規模店が組む緩やかな連合体(コンソーシアム)がある。

コーセーがイタリア市場開拓において、伝統的な専門店を重視するのは、彼らがブランドと商品の良さを理解して取引を始めるから。高級化粧品の選択眼が優れており、消費者にブランドと商品の魅力をきちんと伝える力を持っている。つまり、伝統的な専門店は、目先の数字に惑わされず、一人一人のお客に価値を伝え、愛用者を積み重ねるコーセー流「高級ブランド戦略」に適しているわけだ。

とはいえ、伝統的な専門店もダグラスやセフォラ、コンソーシアムと差別化しなければ生き残れない。それはチャネル間の競争が激しい日本市場でも同じだ。「絆の会」が始めた日伊の相互交流は、両国の化粧品専門店を重視するコーセーが仕掛けた経営サポート策といえる。実際、由佐社長は、絆の会と日伊相互交流について、次のように話す。

「絆の会は、同じ悩みを抱える同業者同士が集まり、解決に向けて色々な意見を聞けるところが良い。そして、小林(一俊)社長が座長だから、製販のトップの顔が見える付き合いをして、信頼関係を育んでいることが最大の強みだと思います。その上で、今回の相互交流は、異文化から学びを得て、自社に導入できるのが素晴らしい。イタリアの知識を持っているのと、持っていないのとでは大違いだと思います」

日本の専門店経営者も積極的に意見交換

イタリア視察での学びについて、由佐社長が挙げた事例はいくつかある。一つは、ミラノの店は、取り扱いブランドが驚くほど多かったという。日本の化粧品専門店業界で有数のフレグランスコーナーをつくった由佐社長が「うちの10倍はあるんじゃないかと思った」という。

また、12万円もする「コスメデコルテ AQ ミリオリティ」のクリームが月60個、70個も売れるほど、多くの優良顧客を持っていることに驚きを隠さなかった。その店の売り場は、ブランドを前面に出さず、商品を並べている。「これで売れるのかと思ったが、販売員の方がプロ中のプロなんでしょう。ブランドは集まるところに集まる。化粧品専門店も強くなると、ここまでできるのか、と思った」と由佐社長はイタリア視察で多くの刺激を受けたようだ。

だが、コーセーのイタリアビジネスは始まったばかり。コスメデコルテの取り扱いも100店を超えたところで、売り場の構築、接客の磨き上げはこれからが本番。その意味で、コーセーの狙いは、日本の化粧文化を発信することにもある。「イタリア人は、良いと認めたら、価格を気にせずに手を伸ばします。だから、日本と同じように、良いものと理解していただくためのカウンセリングが大事。もっと日本の成功事例を伝えていきたい」と藤原常務は話す。

由佐幸継・粧苑SUKIYA社長は些細な質問にも丁寧に答えていた

これは日本の化粧品専門店にとっても、モチベーションになるに違いない。由佐社長が説明する。

「我々が育てたブランドが世界に羽ばたくのは、本当に喜ばしいことだ。イタリアはもちろん、スペイン、フランスに住む女性たちがメイド・イン・ジャパンのハイクオリティな商品を高く評価し、使っていただいている。日本の評価は一昔前と全然違う。特に、コスメデコルテのように、つくり込まれた商品が外国で一目置かれるようになっているのは、素晴らしいことだ。相互交流の次のステップについて、『絆の会』のみんなで考えたいと思っています」

日伊「絆の会」の店舗訪問は、記念撮影で幕を閉じた

コーセー化粧品販売の熊田篤男社長は、「日本と海外の経営者を結ぶことも営業現場の役割の一つ」と指摘。例えば、日本の営業は担当地域のことだけでなく、広い視野を持つことが求められる。それは世界に派遣されている社員も同じ。つまり「絆の会」は、日本、アジア、欧米を結ぶグローバル戦略に取り組むコーセーにとって、社員の意識改革を促す重要な組織といえるのだ。