コーセーのハイプレステージブランド「コスメデコルテ(DECORTÉ)」がアンダーズ東京のルーフ トップバーで行った「AQ ミリオリティ アフターパーティ(6月28日)」は世界の耳目を集めた。

「AQ ミリオリティ アフターパーティ」に世界中のメディアが殺到

このパーティは、同ブランドの最高峰ライン「AQ ミリオリティ」が10年ぶりにリニューアルされ、9月16日に日本の百貨店と化粧品専門店のほか、14の国と地域でほぼ同時期に発売されることを記念して行われたもので、海外インフルエンサー、百貨店バイヤー、国内外の専門店だけで約160人が出席。そこにシンガポール、タイ、マレーシア、香港、韓国、アメリカ、イギリス、台湾、中国のメディアが駆けつけた。これは世界各地でコスメデコルテの存在感が高まり、日本発のグローバルブランドの階段を駆け上がっていることを示している。

イタリアの専門店経営者らと記念撮影するコーセーの小林一俊社長(左から3番目)と小林正典常務(一番左)

1グラム2666円の商品が、最高峰ラインと名乗る覚悟を示す

「コスメデコルテ」の歴史を振り返ると、ブランド誕生は1970年。先進の皮膚科学研究に基づく技術と、肌効果・感触・香りの相互作用で肌と脳が心地良いと感じる化粧品として、コーセーの英知を結集してつくった。2000年に技術の粋と究極の品質の結晶として、最高峰ライン「AQ ミリオリティ」を開発。AQ(Absolute Quality)は「最高の品質」、MELIORITY(ミリオリティ)は「卓越した技術で届ける」という意味だが、ハイプレーステージ、最高峰と名乗るには、会社として覚悟が問われる。

新「AQ ミリオリティ」のラインアップ

今回の「AQ ミリオリティ」リニューアルには、10年の歳月を費やした。生活者ニーズ、市場環境は千変万化。プロダクトライフサイクルは短くなりがちで、「AQ ミリオリティ」のリニューアルは遅いように感じるだろうが、小林一俊社長が「私自身、コスメデコルテのものづくりには、大変こだわっている」と語り、コスメデコルテの責任者である牧島伸彦セレクティブブランド事業部長も「高級品とは、2年、3年で商品が変わる姿勢ではいけない。高級品に相応しい自信あるものつくるには、長い時間が必要だ。これからの10年、通用するものをつくったという自負がある」と「AQ ミリオリティ」のリニューアルに一切妥協していないことを説明した。

コーセーの小林一俊社長

2000年に発売したブランド誕生30周年記念のクリーム「AQ クリーム ミリオリティ」は、45グラムで9万円。1グラム当たり2000円で、当時の1グラムの金の値段よりも高い商品をコーセーが出したと話題になったが、09年のリニューアル発売に続き、今回の「コスメデコルテ AQ ミリオリティ インテンシブ クリーム n」も45グラムで12万円(1グラム2666円)。一段と高まった商品へのこだわりが国内外の注目を喚起。「AQ ミリオリティ アフターパーティ」が盛況裏に終わったのは、そのためだろう。

稀少な屋久島の茶葉、腕の曲線美を生かしたデザインを採用

新「AQ ミリオリティ」のコンセプトは「Drastic Regeneration」。肌は自ら美しくなろうと生まれ変わり、再生する力をもつことに着目。肌本来がもつ「自己再生能力」を最大限に高める発想で、肌だけでなく、顔立ちの印象、そして心まで劇的に変えていくことを目指している。

AQ ミリオリティには、屋久島の茶葉「紅富貴」を配合

美容成分に希少価値の高い屋久島産「紅富貴エキス」を配合。生命の循環と再生の島で、世界遺産「屋久島」の潤沢な水と肥沃な土壌で育まれた茶葉「紅富貴」は、農薬、科学肥料を一切使わない有機栽培で育てられている。茶葉が大自然の恵みを最大限に蓄えた最高のタイミングを見計らって、一枚一枚丁寧に摘み取り、エキスを抽出。メチル化カテキンとポリフェノールを多く含み、保湿効果が期待できるという。

パーティ会場は、屋久島の自然を再現

「AQ ミリオリティ アフターパーティ」会場のデザインは、屋久島の自然を再現したもの。そのステージに登壇したブランドアンバサダーを務めるモデルのケイト・モス氏は、次のように「紅富貴エキス」の使用感を表現した。

「私の肌の調子がとても良いのは『インテンシブクリーム』を使用しているおかげだと思います。とても濃厚でありながら、肌への吸収が良く、肌にハリがでる。使用感が気持ちが良いのも特長です。肌を活性化し、とても素晴らしい商品だと思う。希少価値のある美容成分、世界遺産の屋久島産『紅富貴』を使用しているのも、効果につながっているのではないでしょうか」

ケイト・モスと小林コーセー社長がトークセッションを実施。二人の笑顔が印象に残った

「紅富貴エキス」のほか、生体類似成分「リン脂質」とオレイン酸からなるカプセル「高純度ハイ オレインディレイソーム」を採用。まろやかな使用感で肌との親和性を高め、素早く美容成分が角層に届き、うるおいが持続する。やわらかさと弾力感をあわせもつ「究極の素肌美」を追求するスキンケアに仕上がっている。

一方、新しいプロダクトデザインも、高級品にふさわしい佇まいだ。独創的な流線を描くパッケージは、女性の繊細でエレガントな「腕の曲線美」をイメージ。クリスタルやダイヤモンドを想起させるカットは、ジュエリーを身につけた瞬間の高揚感と幸福感を、肌の未来を照らすような煌びやかな輝きを表現している。「AQ ミリオリティ」は、手にするだけで、心の機微に触れるような繊細でエレガントな商品と言えよう。

世界的なプロダクト&インテリアデザイナーのマルセル・ワンダース氏

「AQ ミリオリティ アフターパーティ」には、プロダクトデザインを手がけた世界的なプロダクト&インテリアデザイナーのマルセル・ワンダース氏も駆けつけた。じつは小林社長とマルセル・ワンダース氏は同年代で、10年来の付き合い。ビジネスパートナーでもあり、親友でもある。パーティで小林社長は「マルセル・ワンダースからミリオリティのブランド感を感じていただきたい」と話したあと、「Please Marcel」とステージに招き入れ、観衆に笑顔で紹介した。マルセル・ワンダース氏の一問一答は、次の通りである。

ステージで抱擁を交わすマルセル・ワンダース氏と小林コーセー社長。ビジネスパートナーの関係を超え、親友と呼び合う

--コスメデコルテには、どのような思いを抱いていますか。

マルセル・ワンダース 10年前だったと思う。コスメデコルテから初めてスキンケアのデザインを頼まれて、大変光栄だった。長い時間をかけて小林社長のことを知るようになり、デザインについてもサポートしてくれた。彼はビューティビジネスの権威だと思う。私たちは、一緒に色々なプロジェクトで協力させていただいた。ポイントメーク、ベースメイク、小さなギフトのパッケージもつくらせてもらった。キャンペーンでは、素晴らしいカメラマンと仕事をさせてもらっている。17年、GINZASIXにオープンしたブランド旗艦店「Maison DECORTÉ」にも携わった。私たちが常にやりとりしているコスメデコルテのチームは素晴らしく、色々なアイデアを出して私たちに刺激を与えてくれる。その結果、今日があるのだと思います。コスメデコルテは、積極的にグローバル化を図り、とても大きく発展してきたと思う。

--「AQ ミリオリティ」のデザインについては。

マルセル・ワンダース 素晴らしく美しい。このプロジェクトに携わり、このような挑戦をさせてもらったことをとても光栄に思っている。デザインは、女性的なものにしたかったんです。合理的、幾何学的ではなく、とてもフェミニンなラインをつくってみたいと思った。美をフェミニンな形で表現したかったんです。そして、色々なボトルの見た目、感触をつくっていくことで、カーブを生み出し、美しいデザインになった。美は、それだけで美しいわけではない。他のものとの関係によって、美は出来上がっていく。そのボトルの要素は、女性の身体です。「AQ ミリオリティ」は、色々な方に愛して欲しいので、一目で「AQ ミリオリティ」とわかるようにしたかった。その上で、キャップでは、クリスタルの技術で、新しいレベルの透明性と輝きを表現した。これらの要素を重ね合わせ、ローマの芸術のようにしたことで、素晴らしい商品になった。

--最後に、コスメデコルテとの今後について、どのようなことを考えていますか。

マルセル・ワンダース コスメデコルテというのは、美だと思う。美というのは、国であり、コスメデコルテその物が国なんです。そして、愛というのがアンバサダーです。このブランドを、このようなアイデンティティで見ないといけないと思う。そして、そのような見方を共有して、さらにコスメデコルテの国際的な活躍、この美のコンセプト自体を大きくしていかなければいけない。また、それとは別に、私たちはテクノロジーの変化が激しい世界にいます。あまりにも多くの生活スタイルが変わってきている。コスメデコルテの中で、つまり、美の世界でもそれは起こっています。コスメデコルテは、たくさんのイノベーションが起きていることに対して、重要な一歩を今後とっていくことになる。テクノロジーは、かなりのものを変えた。私たちは、100歳、200歳まで生きるかもしれない。そうだとすると、とても良いスキンケが必要になると思う。

コスメデコルテの次の10年は、9月16日の新「AQ ミリオリティ」発売で幕を開ける。

中国ニューリッチ層を取り込み、年間売上高1000億円の大台へ

「AQ ミリオリティ」のリニューアルは、コーセーの業績を占う意味でも重要なポイントとなる。19年3月期のコスメデコルテは売上高が680億円。対前年1.5倍で、業績を支える重要なブランドになっている。小林正典常務取締役(マーケティング本部長)は「AQ ミリオリティは、コスメデコルテの最高級ラインとして位置付けられているのはもちろんですが、日本、世界の化粧品のハイパープレステージ市場を牽引してきました。すでに日本だけでなく、中国をはじめとしたアジア、北米、欧州とグローバルに展開し、多くの愛用者を獲得していますが、今回のAQ ミリオリティのリニューアルによって、さらに世界中のお客様に感動と驚きを提供していきたい」と話す。そして牧島事業部長は、「20年3月期は、日本・海外合わせて、2桁以上伸ばす。そのうち、海外は150%の成長を目指したい」と意気込んでいる。

各国メディアとの記念撮影①。海外市場での関心度の高さが伺える

これだけ高い目標を掲げるのは、ターゲット層の変化をチャンスと捉えているから。これまでの主力顧客層である世界中の富裕層に加え、日本では特別な一品として高級化粧品を使用する若い世代が少なくないこと。さらに「中国で増えているニューリッチ層」(牧島事業部長)が新たなターゲットとなる。ニューリッチ層とは、経済的に成功した両親を持ち、留学や旅行で豊富な海外経験を重ねている90年生まれ以降の若い世代のことで、消費意欲も、購買力も驚くほど高い。中国ニューリッチ層を攻略すれば、コスメデコルテの年間売上高は、1000億円超も視野に入る。

各国メディアとの記念撮影②。中華圏市場の攻略はブランド成長のカギを握る

じつは中国ニューリッチ層にアプローチする基盤は整っている。コスメデコルテの中国導入は09年。2年後の11年からコーセーの活動理念で、小林社長が最重視する「良い商品を、良いお店で、きちんと売る」ことを軸にしたブランディングを強化。その結果、「コスメデコルテ=高級ブランド」という認知を得た。そして18年にTmallに旗艦店を設置。高級ラインは販売せず、エントリーラインを軸に展開。Eコマースを若年層にアプローチするツールとして活用することで、コスメデコルテの「プリム ラテ」ライン、「ヴィタ ドレーブ」ラインの売り上げが伸び、「AQ ミリオリティ」はもちろん、「AQ」「AQMW」といった高級ラインの提案機会が増えている。

とはいえ、闇雲に拡販しないのが、コーセーらしさでもある。高級ブランドの育成で不可欠なのはブランド価値を守ることで、高め続けること。高級品の持ち味は、商品力だけでなく、カウンセリング販売を含む世界観の体験にある。Eコマースによる接点拡大を進めすぎると、稀少性が低下しかねないから「特別なもの(高級品)は店舗で買っていただきたい」(牧島事業部長)とリアルとEコマースの連動を高めていく。中国国内のコスメデコルテのカウンター数は現在18店舗だが、2年以内に40店舗体制を目指すほか、世界中を旅行する中国人との出会いの場として、トラベルリテールへの出店も加速させる考え。「AQ ミリオリティ」を含む、高級ラインを体感する生活者は世界各地で積み上がっていくだろう。

一方、中国以外の国・地域でのブランド訴求も強めていく。そのために「AQ ミリオリティ」は、ほぼ同じタイミングで世界中で発売する。9月から10月にかけて発売する14の国・地域は、日本、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、フランス、イギリス、スペイン、イタリア、アメリカ、カナダだ。各国の法規制に同時対応するのはハードルが高く、コスメデコルテも「過去20年間で初めての経験」(牧島事業部長)だったが、それを乗り越え、従来に比べ各国の発売時期の差は短くなっている。19年第2四半期決算で、これからのモノづくりの指針として「モノづくり2026」を公表。そのキーワードとして「グローバルな適応性(薬事対応、気候、嗜好・習慣、人種、宗教、生活信条、流通などへの対応)」を挙げたが、「AQ ミリオリティ」は、その先陣を切ったと言える。研究部門ではグローバル薬事体制の一元化が進んでおり、「グローバルな適応性」をコスメデコルテ以外のブランドに波及させられるか。ここがコーセーの業績を左右することになる。