焦点は撤収・撤退にならざるを得ない

RIZAPグループの瀬戸健社長は、同社の構造改革とM&A(合併・買収)の凍結を発表した。急転直下の決断だった。11月14日の19年3月期第2四半期決算説明会、事前に収益急悪化=営業損益88億円の赤字・無配の告知があったこともあり、大勢のメディアやアナリストが押しかけていた。瀬戸社長と松本晃構造改革担当の二人の代表取締役が登場――。その冒頭に瀬戸社長はこう発言した。

「大幅な下方修正をした。本業に加えて、成長の手段としてM&Aをしてきた。1社1社再生してからM&Aをすべきだった。しかし、昨年、一昨年とM&Aをしてきたが見通しが甘かった。1社1社、見直しをして構造改革を実施すると決定した。構造改革が終わるまで新たなM&Aは行わない」

これは衝撃的な方向転換だった。

RIZAPグループは、16年3月期はたかだか23社だった。しかし、17年3月期には51社、18年3月期には75社に急膨張を遂げてきている。過去2年間で52社の急増を遂げたわけだが、すべてM&Aによるものである。M&Aにより売上げは急増し、営業利益も「負ののれん代」(IFRS・国際財務報告基準)をテコとして使って急増を実現してきたわけである。

M&Aは、この19年3月期も続けられ、第2四半期段階では85社(うち9社が上場企業)となっている。つまり過去2年6カ月で62社の急激な膨張を続けてきたことになる。確かに、いくらなんでも急膨張をやり続けたことは否定できない。統制を取るにしても、戦線があまりにも拡大し過ぎている。

RIZAPグループ・会社数推移(出典:19年3月期決算資料)

急膨張路線はストップして、選択と集中を行い、不採算事業など見込みのないものを選別して売却、撤退を辞さない。これまでのRIZAPグループを180度転換する決意を明らかにした。「1社1社を強くしなければならない。だが、とりわけ、この1~2年のM&AでRIZAPグループに入った会社に経営再建に遅れが生じている。見通しが甘かった」と漏らしている。

焦点は、M&Aラッシュをかけた時期にグループ入りした企業の構造改革、場合によっては撤収・撤退にならざるをえない。

瀬戸社長が、RIZAPグループの構造改革とM&A凍結に踏み切ったのは、松本構造改革担当からの厳しい助言、いや「直言」があったのは明白である。直言は、企業社会では成功するのは万に一つすらもない、クビをかけなければできない行動である。

松本構造改革担当は、瀬戸社長をこのように説得した。「M&Aはいったんフリーズしてくれ。M&Aを止めて凍結すべきだ」

瀬戸健社長は、困惑した。「困ったな」、瀬戸は当初そう思ったと表現している。「困ったな」どころか、当然ながら強い反発すらあったとみられる。しかし、松本構造改革担当の危機意識は強く、このままではRIZAPグループの生き残りは果たせないという思いがあった。

「いまの会社に集中したほうがよい。資産も見直す。会社のエクスペンスもだらしなくなっている。これも見直す。RIZAPグループの成長戦略をつくり直す。構造改革で体質を変える。優先順位を決めて、収益面でマイナスの大きい会社に向き合うしかない。RIZAPグループは“ワンダー体質”を変えれば、やっていける」

「収益面でマイナスの大きい」とは、いうまでもないが赤字会社を指している。

瀬戸社長と松本構造改革担当の“危機認識”の乖離は大きかったが、少しずつ乖離が埋められていった。「瀬戸さんとは8月後半からずいぶん話した。瀬戸さんは私の意見をずいぶん聞いてくれた」

松本構造改革担当は、8月後半から助言をして、説得を続けた。9月、10月と二人の話し合いが継続した。RIZAPグループは、9月末に最後のM&Aを行ったが、それ以降は、ぱったりと止めている。

11月初旬、瀬戸社長は、RIZAPグループの構造改革、M&A凍結の決意を固めたとみられる。11月14日が第2四半期決算説明会であり、その直前に腹を決めたとみえる。

瀬戸・松本体制を壊すべきではない

松本構造改革担当は、9月の組織変更で「構造改革担当」となっている。役職面では、いまRIZAPグループが行っている構造改革のトップになるわけだが、「会社に来るのは週1日程度」とみられ、RIZAPグループにビタッと張り付いているわけではない。事実上では瀬戸社長への「助言」が大きな仕事になる。

しかし、役回りとしてはきわめて重要である。松本構造改革担当なくして、瀬戸社長の構造改革・M&A凍結の決断はなかった。さらにいえば瀬戸社長という人の意見を聞き入れるという個性なくして、松本構造改革担当の直言はなかった。RIZAPグループは間違ってもこのコラボレーションを壊したり崩したりしてはならない。

当然ながら瀬戸社長が、構造改革の先頭に立つことになる。「瀬戸さんの頭は柔軟だ」(あるライバル企業筋の経営者)という見方があるが、事業撤収・売却を含むRIZAPグループ企業内の構造改革を決断したとなれば、行動は早いのではないかとみられる。

では、撤収を含む構造改革はどこから手をつけたらよいのか。「優先順位を決めて、収益面でマイナスの大きい会社に向き合うしかない」という松本構造改革担当の助言は無視できない重みがある。

瀬戸社長にしても決意は固まっている。

「構造改革をやるべきだったが、やっていなかった。私も構造改革をいまやるべきだと決断した」と語っている。そのうえで、「収益が出ている会社、出ていない会社。(残すべき)事業に集中し、売却も行う。金山、銀山、銅山があるとすれば、どれを止めるべきか。収益を上げられない会社を止める」

美と健康、自己実現、グループ内のシナジー効果といったRIZAPグループが掲げてきたコンセプトに合致するかどうかという問題もあるが、クライシスマネジメントの最大の要諦は生き残り=サバイバルである。RIZAPグループは、最悪の想定に立つといった最も厳しい危機意識を持ってグループの再構築に当たらなければならない。

とすれば、「収益の上げられない会社を止める」のが、サバイバルの第一の優先的な課題になる。

RIZAPグループのこの第2四半期でみても、営業キャシュフロー8700万円(前期1億7500万円)、投資キャッシュフロー35億円の赤字(前期29億円の黒字)という現実がある。キャッシュフローを改善するには、それこそ不採算の赤字企業の再構築と向き合うしかない。キャッシュフローの改善を果たさなければ、有利子負債778億円の削減返済を促進することができない。その現実から目を背けてはならない。

CD、書籍のマーケット急縮小に苦しむワンダーコーポレーション

構造改革の俎上に乗せるとすれば、18年3月にRIZAPグループ入りしたワンダーコーポレーション(ジャスダック上場)が上げられるに違いない。19年3月期の収益急悪化の大きな原因となっているからだ。

ワンダーコーポレーションは、「WonderGOO」「新星堂」などを展開しており、ゲームソフト、音楽CD、BOOKなどを取り扱っている。同社は、過去5年間、最終赤字となっている。「WonderGOO」などの店舗内に、減量ジムのRIZAP、RIZAP GOLFなどを出店してシナジー効果を発現するといったテコ入れ構想を進めている。

だが、19年3月期は、CD、書籍などのマーケット急縮小が想定以上の凄まじさで進んでいる。松本構造改革担当は「なかには構造不況業種ではないかというものもある」と発言している。明確に会社名を語っていないのだが、CD、書籍などは、それに当たるのかもしれない。瀬戸健社長も「CDは1年立ったら1円で償却してきたが、それを半年に変更している」と発言しており、CDマーケットの急縮小を認めている。CDの価値減少のスピードが凄まじいわけである。

RIZAPグループとしては、確かにワンダーコーポレーションをハイブリッド型店舗に変更・構築する立て直し策を押し進めてきている。シナジー効果を狙っているわけだが、その有効性は期待できるものか疑問が残る。

このワンダーコーポレーションの構造改革費用は39億円とされ、商品評価損、不採算事業・不採算店舗撤退費用など特別損失が計上されるとしている。つまりは減損会計を実施する。RIZAPグループとしては、IFRS(国際財務報告基準)を採用しており、これらは連結ベースでは営業損失に計上されることになる。

ジャパンゲートウェイ=「結果として見通しが甘かった」

17年12月にグループ入りしたジャパンゲートウェイ(非上場)もおそらく撤収対象にならざるをえない。瀬戸社長は、ジャパンゲートウェイ買収について「結果として見通しが甘かった」と率直に非を認めている。

ジャパンゲートウェイは、ノンシリコンシャンプー「レヴール」を生み出してヘアケア・マーケットで一時代を築いた企業だが、この会社の「操縦」は、もともとそう簡単ではない。

RIZAPグループは、TVCFなどでプロモーション活動にテコ入れしたが、販売が計画を大きく下回り、資金の回収ができなかった。「ノンシリコンシャンプー」などは、いまや当たり前の定番商品で、さらに進化した植物系のボタニカルな商品があふれ、かつて持っていたジャパンゲートウェイの新鮮さは失われている。下期に不採算商品の撤収、商品宣伝の根本的な見直しなどの構造改革をするとしている。ジャパンゲートウェイもRIZAPグループの収益急悪化の要因である。同社の上期損失は20億円、下期にも損失は避けられないとみておかなければならない。

RIZAP買収後、不発に終わった「レヴール ゼロ」

ジャパンゲートウェイのM&Aは、同社創業者の堀井昭一氏は同社経営から離れ、いわば会社・ブランドを買った格好だ。ヒト=経営者というソフトは抜いてグループ傘下入りした格好である。

堀井昭一氏は、同社創業時のカリスマだが、忌憚なくいえば創業当初のプロデュース力・商品企画力の切れは、もうないとみられる。仮にそれがあれば、M&AでRIZAPグループの傘下入りすることもなかったわけである。RIZAPグループが堀井氏抜きでM&Aを行ったこと自体は悪い選択とは言い切れない。それはそれで判断はよかったといえる。

ただし、いまのヘアケア・マーケットでは、大手化粧品企業の付加価値品、大手ドラッグストアの自社PBなどが相当な充実をみせている。大手化粧品企業は、かつて衝撃をもたらしたジャパンゲートウェイの商品開発・販売手法を十分に学び、すでに手中にしている。ヘアケア・マーケットで、ジャパンゲートウェイがノンシリコンシャンプー「レヴール」で大手化粧品企業を翻弄した状況は、完璧なまでに失われている。

つまり、RIZAPグループは、相当な経営者、堀井昭一氏のプライムタイム(全盛期)に匹敵する優秀な経営者を持ってくる必要がある。しかし、それは天の配剤に近い偶然がなければ実現しない。企業は優秀な経営者を持ってくれば、変われる可能性がある。それは一つの事実だが、ジャパンゲートウェイを操縦できる経営者を見つけるのは、かなり困難なことでしかない。現実的にいえば戦線を拡大し過ぎた咎めであり、撤収という想定を検討せざるを得ないのではないか。

ぱど、サンケイリビングとも広告収入減に直面している

17年3月にグループ入りしたぱど(ジャスダック)も構造改革・事業再構築に苦闘している。フリーペーパーの最大手企業だが、広告収入減で売上げが低迷している。フリーペーパーは、ネットに広告を奪われているわけである。

ぱどのこの第2四半期は、営業損益で3億円台の赤字、最終損益で6億円の赤字に落ち込んでいる。家庭版ぱどの発行回数減などを抱えており、さらに美容系関連のウェッブサイトの減損損失、事業整理損失が計上されている。

たまらず、18年11月にRIZAPグループ傘下のサンケイリビング新聞社(非上場)との事業統合を進めようとしている。サンケイリビング新聞社も18年3月にRIZAPグループ入りしたフリ-ペーパー企業だ。そのサンケイリビングの子会社リビングプロシード社を、ぱどの子会社に移行させる。流通・配布部門を統合するのが狙いだ。

だが、サンケイリビング新聞社自体も、ネットに直撃されてフリ-ペーパーの広告減で上期営業損失が5億円という状況だ。ぱど、サンケイリビング両社は機能統合、すなわち管理部門、営業部門などの統合を行わなければ、黒字を生むどころか、赤字を減らすことができない状況にある。

瀬戸社長は、ぱどについてこう語っている。

「構造改革が進んでいない。ただ、RIZAPグループは、ぱどに広告を出して(媒体として)使用しており、シナジーはある」

だが、シナジー効果があるとしても、最初に述べたワンダーコーポレーションもほとんど同様だが、RIZAPグループ内に、ぱど、サンケイリビングといったフリーペーパー企業2社を所有する必然性はあるのだろうか。フリーペーパーなど外部にあってもなんら問題はなく、使えばよいだけのことになる。

会社を「持つか、持たざるか」でいえば、持たなくてよいわけである。これらも撤収対象としなければならない。「持たざる」ことの経営の有効性も身につけるべきである。

MRKホールディングス、HAPiNSでも構造改革を実行

16年7月にグループ入りしたMRKホールディングス(東証2部)も構造改革の真ッ最中だ。女性用の体型補整用下着の企業だが、新主力製品「カーヴィシャス」の生産・納品遅延で第2四半期は営業損益で5億円の赤字、最終損益で7億円の赤字になっている。「(MRKホールディングスについて)買収当初は店舗など手の付けられない状態だった。(新規のマーケティングで)現状は大きく改善している」(瀬戸社長)。

MRKホールディングスは、構造改革で下期は回復し、通期では営業損益で黒字化を目標にしているとしている。上期の営業損益での5億円の赤字は、あくまで新製品の生産・納品の遅れによる一過性の問題とみているわけである。

RIZAPグループ傘下の上場企業であるHAPiNS(ジャスダック・16年5月グループ入り)、堀田丸正(東証2部・17年6月グループ入り)なども、それぞれ構造改革を進めており、問題がないわけでもない。 HAPiNSはインテリア・生活雑貨専門店、堀田丸正は洋装・和装の会社である。「美と健康、自己実現」とは関係性があるかどうか少し曖昧な感がないではない。ただし、クライシスマネジメントでのエマージェンシー(緊急性)といった要因・要件からすれば、ここではそれになんとか当たらないといえそうである。

ただ一方で、非上場企業のタツミプラニング(16年2月グループ入り)がメガソーラー事業の大型案件での受注遅延、資産見直しなど構造改革で上期5億円の赤字を出している。この会社などは、いまの状況では最大の見直し・撤収要件ではないが、「美と健康、自己実現」といったRIZAPグループの企業理念・コンセプトとはややかけ離れている。企業規模は小さいとみられ、緊急性はそれほどないかもしれないが、これらも撤収対象とみなければならない。

瀬戸社長は「1社1社を強くしなければならない」と構造改革に踏み切った。構造改革を“先送り”にしなかった決断は、日本の経営者には絶えてみられないものといえる。瀬戸社長はまだ40歳の若さであり、それこそ1社1社を強くしていけばRIZAPグループを名実ともに「強い会社」に復活させることは不可能ではない。至難なことだが、それに挑戦する時間が残されているのは確かである。

ジャーナリスト・小倉正男