RIZAPグループ(札幌アンビシャス市場・以下はRIZAPと表記)の瀬戸健社長は、2020年3月期第2四半期決算についてこう切り出した。

「売り上げが順調に進捗、利益がしっかり計上できている」

通常でいえば、何ということでもない発言だが、少なくとも瀬戸社長には相当に重い意味のある言葉だったに違いない。

この第2四半期は、いつもと同じで発表と同時に決算説明会が行われている。発表の日時は11月14日夕刻である。11月14日に瀬戸社長がこだわったのには少し理由があった。

ちょうど正確に1年前の18年11月14日にRIZAPは、19年3月期第2四半期を発表し説明会を行っている。1年前は収益の急激な悪化からM&A(合併買収)の凍結、グル-プ赤字企業の売却撤収など構造改革を宣言するという散々な第2四半期決算だった。

悪夢のような決算であり、瀬戸社長が涙目で発言し、株主・投資家に申し訳ないと頭を下げて陳謝したものだった。もちろん、瀬戸社長としてもそのことは忘れようにも忘れられない出来事であり、今回は1年前の体験を強く意識しての発表だったことは間違いない。

11月14日という日付にこだわって、この20年3月期第2四半期決算を設定したところに瀬戸社長の並々ではない思いが感じられる。

グループ上場会社は9社中8社が黒字に転換

その第2四半期(連結・IFRS)だが、売り上げ1082億円(前年同期比2・4%増)と増収を確保し、損益面では営業利益27億円(同実績58億円の赤字)、税引き前利益13億円(同実績67億円の赤字)、四半期利益8億円(同実績99億円の赤字)となっている。

前年同期の巨額赤字から黒字化を果たしたわけだが、たかだか1年でかなり手応えのある回復、あるいは回復の兆しを実現している。RIZAPにいったい何が起こったのか、といえるような変化である。

前年同期に巨額赤字を計上していたジャパンゲートウェイ(JGW)、タツミはすでに売却撤収がなされ「構造改革」でキレイにされている。営業損益が改善されている背景にはそれがある。

だが、実のところ、それだけではない。

営業損益では、本業で収益源として稼いできているボディメイクのRIZAP関連事業を除いたグループ傘下の上場企業ベースでは、前年同期は43億円強の赤字だったものが、この第2四半期は17億円強の黒字に転換している。瀬戸社長は「上場会社ベースの営業損益で合計60億円の改善」としている。傘下の上場企業の前年同期が酷かったともいえるのだが、確かに変化率としては間違いない。

グループ傘下の上場会社は9社を数えるが、前年同期は上場会社の大半が営業損益で赤字に陥落し、問題を抱えていたのが現実だった。この第2四半期では、上場会社9社のうち8社が営業損益で黒字化している。フリーペーパーのぱど(ジャスダック)1社のみが赤字だが、そのぱどは売却撤収が実行されることが決定している。

前取締役構造改革担当だった松本晃(現・特別顧問)は、1年前の11月14日にRIZAPについての初印象について「オモチャ箱をひっくり返した会社とはいっていない。オモチャ箱みたいにいろいろな会社があるなと思った」と率直でやや評論めいた言葉を吐いたものである。その「オモチャ箱のような会社」が黒字を計上するように変化しているのである。

グル-プ傘下の非上場会社ベースの営業損益では前年同期の32・1億円の赤字から0・1億円の赤字に変わっている。RIZAPグループは、非上場会社ベースでは32億円の改善としている。

ボディメイク横ばいだがMRKが大幅好転

この第2四半期のセグメント別の売り上げでみると、美容・ヘルスケア事業全体では382億円(前年同期実績385億円)と3億円(前年同期比0・8%減)の微減収となっている。

そのうち本業というか収益源のボディメイクのRIZAP関連事業は222億円(前年同期実績221億円)と1億円の増収と横ばいになっている。横ばいとなっている要因としては、前年同期が急増したということがあるようだが、類似のボディメイク事業が参入して競合が激化していることが想定される。

RIZAPを辞めたトレーナーたちが競合先になっているともいわれている。ただ、RIZAPは、「我々は顧客に同じトレーナーがずっと担当するなど顧客とのヒューマンビジネスとして成長させている」としている。競合先とは自ずと差別化が行われているというわけである。競合が起こっているのは「むしろマーケットが広がっているから」と判断している。

瀬戸社長も、「(ボディメイク事業は)8月以降は成長を示すことができている」とRIZAP関連事業について成長鈍化という見方を否定している。

美容・ヘルスケア事業で好転したのは、MRKホールディングス(東証2部)である。MRKは婦人用補正下着企業だが、この第2四半期は営業損益で5・6億円の黒字(同5億円の赤字)と好転している。

瀬戸社長は、「MRKは前年同期には商品の未納などがあったが、いまは欠品がない。多様なプロモーションで集客増を果たしており、販管費などが低下して営業利益率が改善されている。第2四半期だけで20年3月期通期計画の営業利益額を超えた」としている。

美容・ヘルスケア事業全体で微減収となったのはSDエンターテインメント(ジャスダック)の一部不採算事業(エンターテインメント事業)の売却で17億円の減収があったことを主因としている。ただ、SDはこの不採算事業売却で損益面では小幅だが黒字転換を果たしている。

HAPiNS、イデアインターナショナルは大幅増益

セグメント別のライフスタイル事業全体では297億円(前年同期実績232億円)と65億円の増収となった。

損益動向だが、インテリア雑貨・生活雑貨専門店のHAPiNS(ジャスダック)がこの第2四半期は営業損益で1億円超と前年同期比で2倍近い好転をみせている。

瀬戸社長は、「直営店は165店から157店に減ったが売り上げは横ばいを維持している。PB商品比率は57%から65%超に上昇して原価率が改善している。人気のあるPB商品の開発強化が奏功して粗利率が上がっている」としている。

直営店でも不採算店は閉店して、損益性を重視する経営を行っている。商品の絞り込みも行われた。黒字企業だったHAPiNSにおいても構造改革が促進されたわけである。

やはりインテリア雑貨・家電品のイデアインターナショナル(ジャスダック)も「BRUNOホットプレート」などのヒット商品化により営業損益で大幅増益が見込まれている。「BRUNOホットプレート」は中国向けECで絶大な人気商品のポジションを得ているのだが、「これからもBRUNOホットプレートに続いて中国向けに新しい製品をどんどん投入していく」と瀬戸社長は強気な発言を行ったものである。

ワンダーコーポレーションは構造改革で損益黒字化

セグメント別のプラットフォーム事業は、売り上げで408億円(同444億円)と36億円の減収となった。

ワンダーコーポレーション(ジャスダック)はゲームソフト、CD、文具などの会社だが、前期の22店に続いて40店を超える閉店を進めており、構造改革真っ只中である。この閉店による構造改革の影響でワンダーコーポレーションは、この第2四半期は22億円の減収となっている。

ただし、ワンダーコーポレーションは、損益面ではこの第2四半期は4・6億円の営業利益を計上している。前年同期は6000万円の赤字だったのだから、構造改革で損益構造が大きく好転している。

瀬戸社長は、「ワンダーコーポレーションは、第2四半期だけで3400回超のイベントを行って物販につなげるなどで改善を進めている。この第2四半期のイベントでのお客の動員数は173万人となっている。ワンダーコーポレーションはライブエンターテインメント会社に変化している」と語っている。

“物販からLIVEに”を合言葉に、ワンダーコーポレーションはライブエンターテインメント会社に変化

“物販からLIVEに”展開ということでイベントに参加して盛り上がって体験してというコト・ニーズ対応に業態を大きく変えている。ライブから迂回して物販につなげるという戦略といえるかもしれない。

WonderGOO、WonderREXの黒字が増加し、SHINSEIDO、TSUTAYAも黒字転換している。第2四半期にはGOO10店閉店、SHINSEIDO19店閉店、TSUTAYA9店閉店など構造改革・リストラを行っている。構造改革がワンダーコーポレーションの根底で損益改善に大きく貢献しているのは間違いない。

ワンダーコーポレーションは、CDなど「構造不況業種」といわれてきており、再建は絶望的というか、きわめて困難とみられてきた経過がある。これは売却するしかない。だが、購入先はあるのかと疑問視すらされていた。「持つ経営」のリスクを体現する業態とみられてきたわけである。

しかし、そんなワンダーコーポレーションが変貌を実現している。少なくともまだ20年3月期通期まで損益動向を見守る必要があるかもしれないが、ここまでスピード感を持って構造改革を行ったのはかなり大変なことだったと評価する必要がある。

1年間取り組み黒字を出せるように変わった

フリーペーパーのぱど(ジャスダック)は17年3月にM&Aでグループ傘下入りしたのだが、瀬戸社長はここにきて「グループ・シナジーが見込めない」として売却撤収を決断した。地域広告がフリーペーパーからネットに奪われるという事態の急変もあって、瀬戸社長は、「赤字縮小はできても黒字転換はまだできていない」として決断したとみられる。

ぱどは、この第2四半期は営業損益で1・6億円の赤字(同3・3億円の赤字)と赤字半減まで構造改革を進めてきていた。

ぱどの購入価格10億円だったが、24億円で売却が決定した。投資などの費用といったコストを差し引いて10億円の売却益が出るとしている。瀬戸社長は、「取得時は166億円の時価総額だったが、現在の時価総額は392億円となっている」と語っている。

売却撤収を行わなければ、次の新しいM&Aには踏み込めない。グループ企業の新陳代謝は絶対に必要な経営作業にほかならない――。

瀬戸社長は、20年3月期第2四半期決算を総括して最後を締めるように以下のように発言している。

「ちょうど1年前に業績を大きく下方修正して赤字を出してお詫びをした。1年間取り組んできた。黒字を出せるようになった。株主は信じてくれた。一歩一歩前進して変わっていく。(ステークホルダーに)喜んでいただける日を実現していきたい」

瀬戸社長にとって、この1年間は、通常のものではなく、10~20年分に匹敵する重たい体験だったと想像させられる。ただ、起業家・経営者として得がたい経験だったと間違いなくいえるのではないか。

小倉正男(ジャーナリスト)