売却先は通販事業で新規展開を睨む萬楽庵

RIZAPグループ(以下ではRIZAP)は、構造改革第1弾としてジャパンゲートウェイの売却に踏み切った。

RIZAPは、この19年3月期第2四半期決算(4~9月)で営業損益が急悪化し88億円の赤字を計上した。この赤字の主因としては、ワンダーコーポレーション、ジャパンゲートウェイの2社を筆頭にM&Aで傘下に入った企業群の不振が大きく、とりわけジャパンゲートウェイは第2四半期決算ベースで20億円強の損失を出していた。

売却先は萬楽庵(名古屋市)。売却金額は萬楽庵側からの要望で非公表とされている。RIZAPはジャパンゲートウェイの売却損8億円を営業損益に計上することになる。

萬楽庵の中村規脩代表取締役会長は、 TV通販「ショップジャパン」を展開しているオークローンマーケティングの創業者。萬楽庵が先行きに新規展開を睨んでいるという通販事業に関連してヘアケアなど化粧品ジャンルで実績があるジャパンゲートウェイとの何らかのシナジー効果を想定していると見込まれている。

ジャパンゲートウェイ売却撤収のもたらすもの

RIZAPが第2四半期決算に計上した88億円の営業損益赤字の主因だが、これはとりもなおさずこの1~2年にM&Aを進めた企業群の損益不振にほかならない。

上場企業ではワンダーコーポレーション32億円強、ぱど6億円弱,MRKホールディングス6億円弱。非上場企業ではジャパンゲートウェイ20億円強、タツミプランニング5億円、サンケイリビング5億円強などが赤字を出している(第2四半期決算ベース)。RIZAPの営業損益赤字の足を引っ張っているのが、これらの企業群である。

RIZAPの営業損益赤字の最も大きい部分は、ワンダーコーポレーション、ジャパンゲートウェイの2社が占めている。極論すると、この2社の売却撤収が当面の大きな課題だったことになる。このうちの1社、ジャパンゲートウェイ売却撤収が実行された。

RIZAPの松本晃取締役構造改革担当は、“(赤字の)大きいものから”売却撤収に取り組むといったニュアンスを漏らし、ワンダーコーポレーション、ジャパンゲートウェイ、サンケイリビングなどの社名を具体的に上げていた。当然ながら、瀬戸健社長は出血を伴う構造改革に同意をしている。

RIZAPの営業損益の足を引っ張っていた2社、すなわちワンダーコーポレーション、ジャパンゲートウェイのうち1社の売却撤収が実行されたことは、「RIZAP再生」に大きな意味を持つことになる。営業損益赤字の主因を構成していた2社のうちの1社が売却撤収となれば、RIZAP再生の浮揚力がもたらされる。構造改革第1弾ではあることは間違いないが、それ以上の意味合いも含まれるとみておきたい。

こうなるとおそらく、ワンダーコーポレーション、サンケイリビングなどの売却撤収も早期に、すなわち19年3月期中に実行されるとみておく必要がある。

ジャパンゲートウェイの売却撤収が速報された1月25日後場マーケットでは、RIZAPの株価は14%の上昇をみせた。先行きを睨む株式マーケットは、RIZAP再生に向けての構造改革、つまり巨額赤字を生み出している企業の売却撤収を評価している格好である。

創業者・堀井氏抜きの買収の是非

RIZAPが、ジャパンゲートウェイをM&Aで傘下入りさせたのは17年12月のことだ。もちろん、ジャパンゲートウェイにしても優れた経営者に任せるということができれば、輝きを取り戻せる潜在力がある企業である。だが、世の中にそんな優れた経営者などいるわけもない。RIZAPが喫緊で迫られている「クライシスマネジメント」では、売却撤収しか途はなかったと思われる。

ジャパンゲートウェイは、06年に堀井昭一氏を中心に創業された化粧品のベンチャー企業である。ファッション企業のワールド出身の堀井氏は、確かに類い希なプロデュース能力を持っていた。

10年に非石油系のノンシリコンシャンプー「レヴール」で大ヒットを飛ばした。ノンシリコンシャンプーはもともと美容サロンなどで使用されるプロユースのものであり、価格的には2000円を超える高額商品ジャンルのものだった。

ジャパンゲートウェイは、それを税込み945円の販売価格で商品化した。一般の家庭用シャンプーは、500円以下の時代だったのだが、「レヴール」は圧倒的な人気商品となった。「レヴール」人気は、花王、P&G、ユニリーバ、資生堂のヘアケア大手4社を翻弄したと評されるほどだ。いまの植物由来原料のボタニカルなどのシャンプーの先駆けとなったわけだ。ジャパンゲートウェイは、売上げを倍々ゲームで伸ばして、13年には200億円台乗せを果たしたと推定されている。

その後、「レヴールスカルプシャンプー」が予想を超えて売れたことから、欠品をなくすために在庫を持つ戦略に転換した。しかし、それが裏目になってしまい、いわば痛恨の経営判断エラーとなって破綻。14年11月、ファンドに買収された経過があった。

RIZAPは、ジャパンゲートウェイを傘下入りさせるに当たって、最終的にジャパンゲートウェイに会長(販売担当)として残っていった創業者の堀井氏を含めて社員たちを引き取らない選択をした。堀井氏は残るのではないかという観測が強かったが、そうはならなかった。

RIZAP、ジャパンゲートウェイの両社内部にどのような事情があったのかいまひとつ不明だが、RIZAPは結果的には会社&ブランドを手に入れ、堀井氏以下の社員というソフトは手にしなかった。堀井氏は外部のアドバイザ-としてジャパンゲートウェイに関係は残したが、ほとんど形だけのものだったとみられる。

優秀な経営者を持っていないなら企業を買ってはならない

RIZAPは傘下に85社の企業を持っているが、M&Aをした企業では、旧来の経営者たちを排除しないで温存しているケースが大半である。

もちろん、RIZAPから新しいトップ経営者が派遣されるが、経営能力面でやや疑問符が付くような旧来の経営者たちも会社に残存させて使ってきた。これは、そうしないと「日本企業はうまく運営できないからだ」という経営理論というか、ある種の“思い込み”や“温情”のようなものによるものとみられる。

ジャパンゲートウェイの場合は、おそらくRIZAPは、当初は従来通りに旧来の経営者・堀井氏などを迎え入れることを考えていたと思われる。ただ、役割分担などの面での交渉の過程で折り合うことができなかったのか、結果的に堀井氏など社員を引き受けることはしなかった。

これはこれで悪い判断と断定することはできない。堀井氏のプロデュース能力は認めるが、経営の失敗にみられるように万能ではない。堀井氏のプロデュース能力も時の推移のなかでやや劣化しているトレンドがみられる。それにマーケットの全体もいまでは堀井氏のプロデュース能力を生かせる環境ではないように見受けられる。

RIZAPの問題は、ジャパンゲートウェイに輝きを取り戻せるような経営者、堀井氏のプライムタイム(全盛期)に匹敵するような経営者を探すことができなかったとこに尽きるのではないか。

優秀な経営者を手当てできるメドがなければ、どんな良い会社も買ってはならない。 M&Aで企業を買う場合は、「買うヒト注意せよ」である。売買交渉時には、売るサイドも、買うサイドもブラフを含めて、いろいろなことを言う。「サギをカラスぐらい」は平気で言うものである。それは洋の東西を問わず当然のことで、ゴールドマンサックスを右代表にして売り買いのコンサルタントはそのぐらいのフェイクは平気で行う。

しかし、いま言えるのは、優秀な経営者を手駒として持っていないのなら、M&Aはやってはいけないというに尽きる。これはRIZAPにとっても萬楽庵の場合でもしかりである。

それでなくとも、Iot、テクノロジーなど時代の流れがとてつもなく速いだけに企業の陳腐化も凄まじいスピードで進んでいく。「持つ経営」は、下手をすれば大きなリスクを抱えかねない時代環境にある。

優秀な経営者といわれたヒトも陳腐化するケースもないではない。以前と違って、企業は自由にM&Aができるようになっている。だが、優秀なプロフェッショナルな経営者というヒトのストックは、ほとんど存在しない。器があってもヒトを得なければ、企業は動かない。優秀な経営者を持たないなら、どんな企業を手に入れても、リスクを増大することになりかねない。

ジャーナリスト・小倉正男