投融資委員会の審査能力への期待と不安
経営難に陥った元凶、M&Aの復活か。RIZAPグループは「投融資委員会」設置を決定した。目的は、M&A(買収合併)など投融資活動におけるガバナンス強化と謳っている。だが、ワンダーコーポレーション、ぱど、サンケイリビングが巨額の赤字を計上したことはもちろん、経営を立て直せなかったジャパンゲートウェイを萬楽庵に売却したのは記憶に新しい。「投融資委員会」の設置に厳しい目が向けられるのは、当然のことだ。
瀬戸健社長は、投融資委員会に入らず、投融資委員会は代表取締役社長を除くメンバーで構成される。ただ、投融資委員会委員長は誰が就任するのか明らかにされていない。瀬戸社長は、「社外取締役の望月愛子さんもいる」と委員長候補者を示唆しているが、人選はまだ決まっていない模様だ。
M&Aに対する投融資委員会をつくったのは、昨年11月に宣言した「M&A凍結」の解除が迫っているということを意味している。瀬戸社長は、M&Aでグループ会社を増やしたい。「持つ経営」を志向したい。しかし、一方ではガバナンスといった会社への世間的な評価も切り捨てられない。「持つ経営」を貫きたいが、その「持つ経営」をチェックする機能も持たせたい。やや方向感が定まらない面が内在している。
投融資委員会は、果たしてM&A案件に対する審査能力を持てるのか、瀬戸社長に臆せず意見を述べられるか。そうした独立性が担保されなければ、投融資委員会はムダな組織になりかねない。
ガバナンス強化に内実は伴っているか
日本で「委員会等設置会社」が登場したのは、2003年スタートのHOYAが最初である。HOYAでは、取締役会に社内からはCEOが1人だけ入り、あとは5人の社外取締役というメンバー構成になっている。社内の人間、すなわち社員たちは経営の執行に権限が限定されている。
HOYAでは指名、報酬、監査の3委員会がつくられ、3委員会委員長はそれぞれ社外取締役が就任している。社外取締役は、ほとんどが経営者OBであり、経営の監督権限を担っている。
日本企業では、監督と執行がほとんど分離されておらず、野球でいえばプレーヤーがアンパイア-を兼任しているような形態となっている。ガバナンスでいえば、大変遅れているわけである。そのなかでHOYAは、日本企業としては経営の監督と執行の分離をギリギリまで追求しているケースとして知られている。
RIZAPグループは、取締役会が社内から瀬戸社長1人だけが入り、社外から中井戸信英取締役(取締役会議長)、望月愛子取締役、監査等委員(3人)の5人が名を連ねている。ただし、指名、報酬、監査など経営の執行を監督する委員会はつくられていない。その状態のなかで、主としてM&Aを審査する投融資委員会だけがつくられたことになる。
厳しくいえば、経営に対する監督と執行の分離が不徹底で、プレーヤーとアンパイアがまだ混じり合っている状態となっている。RIZAPグループの投融資委員会設立は、形としてはガバナンスへの試行というべきものだが、内実をつくるにはいま一歩足りないというところか。
日本企業のガバナンスへの試行は悩ましいが、結局のところ、株主が企業経営の監督権を事実上放棄しているところに問題がありそうだ。プレーヤーとアンパイアが曖昧でゲームが意味不明でも黙認する態度を採っている。それではガバナンスはいつまでも実現できない。
小倉正男(ジャーナリスト)