ライオンは11月5日15時から記者会見を開催し、社長交代を発表した。19年1月1日付でスタートする新体制では、現・代表取締役社長執行役員の濱逸夫(はま・いつお)氏が代表取締役会長、取締役会議長、最高経営責任者に就任。そして現・代表取締役専務執行役員の掬川正純(きくかわ・まさずみ)氏が代表取締役社長執行役員、最高執行責任者に就く。

左から、19年1月1日から新会長に就く濱逸夫氏、新社長に就く掬川正純氏

濱新会長と掬川新社長の役割分担は、明確だ。ライオンが目指すのは、世界基準で戦い、成長できる企業になること。そのために必要なのは、強い現場力によって既存事業を着実に成長させるとともに、複数の強力な成長エンジンを創出することだ。この二つを同時並行かつスピード感を持って進めるために、濱新会長は、中長期の価値創造とグループ全体の経営戦略を統括し、掬川新社長が既存事業の拡大と進化を担う。

短期と中長期で分けたのは、社会、生活者、市場の変化に、これまで以上にスピーディに対応するためだ。濱新会長が社長に就いたのは12年。それ以降、組織の風土改革で経営と現場の距離が縮んだほか、選択と集中による付加価値戦略の推進も格段に進み、業績は右肩上がりに改善。高利益を生むビジネス基盤が整った。「社内の雰囲気はポジティブに変わってきている」と掬川氏は話すが、それでもライオンのスピード感は不十分と、濱新会長の危機感は強い。

「社長の仕事は、トレードオフのものが多い。短期的な仕事に追われる一方で、中長期視点で仕込む仕事も進めなければいけない。短期的な仕事を積極的かつ集中してやりながら、成長エンジンをつくるという中長期のことも徹底的にやる。(責任者を分けると)摩擦が起きそうな感じがするでしょうが、しっかりとした方向性があり、二人のコンセンサスがきっちりできていれば問題ない。そういう体制でやらないと、本当の意味でのスピードは上がっていかない」(濱新会長)

二人の経歴は似ている。研究開発から事業部に異動し、役員を経て、社長に就任。「長い間、ずっと一緒にやっている」と濱新会長が話すように、二人の信頼関係は強い。とはいえ、掬川新社長が選ばれたのはなぜか。その理由について、濱新会長は次のように述べた。

「(12年に)社長に就いたときから、次の社長を誰にするのかを考えてきた。持論ですが、社長に必要な要件は二つある。一つは優れた戦略眼。もう一つは人間力。どちらかに長けている人は多いが、両方を兼ね備えている人はなかなかいない。掬川さんは、戦略眼と人間力を高いレベルで持っており、非常に信頼できる人物だ」

「ライオンがやりたいことは明確になっている。それをスピードアップして実現できるか。これが国内でも、海外でもキーだと思う。そういう面での突破力について、彼(掬川新社長)は、私よりも優れていると思いますよ」

その一例が営業部門の活性化である。競争力の高い付加価値商品を開発しても、その価値を店頭で生活者に伝え、購入に結び付けなければヒット商品には育たない。しかし、以前のライオンは、新商品の発売日に合わせて素早く売り場を立ち上げたり、全国の取引店まで売り場構築を徹底することが苦手だった。そこで掬川新社長は、営業部門の改革のエンジン役として外部人材を招聘。組織内に新しい風を吹かせることで、社員に気づきを与え、意識を変え、行動を変えた。「(掬川氏とは)やりたい方向は同じだけど、やり方がかなり違う。アイデアが豊富で、行動力がある。それに単に『これをやって』といっても現場は動きませんが、彼には『やってみようか』と思わせる人間力があるんですよ」と濱新会長は話す。

「ライオンを強く、面白い会社に変えていきたい」と掬川新社長は意気込む。今後の戦略の一例としてあげたのは、成長投資の加速。経営の意思決定のスピードアップ、現場の効率化に向けてデータ基盤の整備を急ぐ考えだ。販売データ、生産データ、物流データをアイテムベースで完全に一致させるとともに、AI(人工知能)を活用することで、これまで以上に効率的な経営が可能になる。手作業に頼っている現場の一部の仕事も自動化することで、ビジネスの機会ロスを少なくする考え。その対象範囲は、当然、国内だけでなく、海外も含まれる。「業務の中身も変え、権限委譲も進める。多少のお金をかけても最先端なものに生まれ変わらせる。こういうものは、決定すれば進むもの、と思っている」(掬川新社長)。新年早々、新社長らしい戦略、施策が見えてきそうだ。