マイク・フー(Mike Hu)は、中国EC業界のキーパーソンの一人である。18年1月から「Alibaba(阿里巴巴)」の中核ビジネス「天猫(Tmall)」において「FMCG(日用消費財・fast moving consumer goods)」事業部トップ(Tmall FMCG Division President)を務めている。Tmallの組織図を見ると、総裁のジェット・ジンの下には、八つの事業部しかなく、マイク・フーがTmall成長の鍵を握る重要人物であることは明らか。FMCGトップに就いてから約8カ月、『国際商業オンライン』に自身の思いや戦略の方向性を語った。

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私は、以前からFMCGのトップにチャレンジしたかったんですよ。Alibabaは3月期決算で、ダニエル・チャンCEOは12月末に組織の調整を行います。新しいリーダーに3カ月の準備期間を与えるためですAlibabaは皆さんが思っている以上にフラットな組織で、日頃から私はダニエル・チャンCEOやジェット・ジン総裁と深いコミュニケーションを取って、自分自身の夢や目標、成長について共有しているんです。

Alibabaの組織で常に問われるのは、自分のポジションを預けられる人材を育てているかどうか。私は昨年まで責任者を務めていた化粧品・日用品カテゴリーで次のリーダーを育てながら、自分の次のチャレンジとしてFMCGのトップに就くことを考えてきたんです。

その理由は単純明快で、私はこれまで化粧品とパーソナルケアの分野で働いてきました。個人でも、組織でもコアな競争力をベースに成長・拡大していくことが大事で、その逆は非効率だと思う。FMCGの食品の経験は少なかったけど、これまでの経験を活かせば、課題を解決し、Tmallの成長に貢献できると考えてきたんです。

TmallのFMCGは、Alibabaが成長を続けるために重要な役割を担っています。最も大事なのは、オンラインの浸透率で、オフラインの消費者をオンラインにシフトさせることが一つの課題です。例えば、化粧品のオンライン浸透率は、25〜28%まで高まっています。エスティローダーなど日本を含む世界のビッグプレイヤーは約35%まで高まると予測しており、化粧品はTmallにとって重要なカテゴリーです。

一方、飲料のオンライン浸透率を見ると、ビールは6%、白酒は1%と低い。私は中国においてFMCGのオンライン浸透率は将来的に15%程度になると考えており、カテゴリーによっては伸び代が十分に残されています。

ですから、もう一つの課題は、成長スピードを高めること。つまり、コンペティターよりも、スピーディにマーケットシェアの拡大を図ることです。化粧品とパーソナルケアのカテゴリーで、Alibabaはナンバーワンのプラットホームです。特にTmallでは、化粧品のプレステージブランドの成長が加速しています。このノウハウをFMCGの他のカテゴリーに水平展開していきます。

じつは、人事異動から3カ月間、改めてTmallのFMCGの戦略を分析し、強みを再確認したんですよ。FMCGは各カテゴリーによって消費者のニーズ、購買パターンが異なりますから、私は五つの会社のCEOだと考えて、個別に戦略を練るようにしています。

例えば、オンライン浸透率が高い化粧品を見ると、競合他社を圧倒するラインアップが消費者の心をつかんでいます。イヴ・サンローラン、ジョルジオ・アルマーニなど、世界的な高級ブランドのほとんどがTmallに旗艦店を設けています。日本と韓国のブランドは、越境ECを活用して毎年約100ブランドを導入する目標を掲げており、その戦略も順調に進んでいます。

さらに、中国の国産ブランドのラインアップも拡大しています。6月1日から20日まで行ったショッピングイベント「Tmall618」で、Tmallと独占契約を結んでいる「佰草集」は、漢方素材を前面に打ち出した大々的なプロモーションを展開し、売上高ランキングは5位に入りました。Taobao(淘宝網)から生まれたブランドのイノベーションとして稀有な成果を上げていると思います。

私は今年の事業目標の一つとして、TmallのFMCGの売上高を前年に比べて大幅増に導く考えです。各カテゴリーの浸透率などを試算した結果で、鍵を握るのは、消費者の購買行動の変化に加え、ライフスタイルでの悩みをいち早く捉え、インターネットの技術を使って、オフラインではありえないスピードで解決していく。それを実現するために、FMCGの組織を再構築しました。

例えば、消費者への提供価値の一つは、豊富な品揃えから、好み商品を発見する楽しみです。それを商品選びや決済、配達などを含めてスピーディに行えることを消費者が求めています。中国のSNSではショートムービーが流行っていますが、それを見て欲しいと思ったものを、すぐに買いたい。これが提供できるのは、オンラインの強みです。

それに加えて、男性は商品の機能性や配達速度などを求めますが、女性は情緒的価値を求めますよね。特に化粧品では、その傾向が強く、スタイリッシュなケースを用意するなど、ビューティインテリジェンスを追求していかなければいけない。化粧品の新商品の情報をいち早く届けるマーケティングツール「HEY BOX」、メーク品を塗った時の自分の顔をシミュレーションできるツール、様々なサンプルを定期配送する仕組みなど、様々な技術を組み合わせて消費者を楽しませていきます。

HEY BOX

また、Tmallに集う世界中のブランドと組んで、色々なコンテストを開き、消費者に興味を持ってもらうことも考えています。その一環として、18年は、化粧品ブランドが抱えているビューティアドバイザーのコンテストをやりますが、間違いなく消費体験の質アップに結び付きます。

最近、比較的興味を持ったニュースは、小米科技(Xiaomi)がIPOしたこと。小米科技は、スマホ事業、IoT事業、インキュベーション事業の三つが柱です。様々なベンチャー企業に出資することで、チャレンジ精神が旺盛な創業者を招き入れ、革新を生み出すエコシステムを構築する発想は、TmallのFMCGの組織に取り入れたい。

例えば、独自の音声AIアシスタントAliGenieを搭載するスマートスピーカー「Tmall Genie」は、17 年だけで200万台も売れており、FMCGでは音楽と商品を組み合わせた消費者体験など、新しい試みを考えているところ。Tmallは、たくさんのKOLと戦略的な提携をしています。これまで以上に様々なコンテンツを創造してもらい、TmallのAPP内で発信する。もっと外部の人が興味を持ち、集まる仕組みにすれば、消費者に新しい体験価値を与えられるはずです。また、消費者を惹きつける小米科技のデザイン力、スマート製品の開発力などをベンチマークして、FMCGらしいスマート製品の開発、訴求を強化していきたいですね。

いずれにせよ、競争環境は刻一刻と変わる。TmallのFMCGの競争力を高めるには、何よりもスタッフの成長、組織の成長が不可欠。そこで社内プロジェクトとして創業コンテストを実施。全スタッフで競い合い、競合他社に真似できない新しい発想を生み出し、実現していきます。

(次回は19年1月頃に掲載予定)