数年前のことだ。コーセーの小林一俊社長は社員に「ベンチャー企業の斬新な取り組みは、亜流だと決め込んでいないか」と投げかけたことがある。コーセーの業績は右肩上がりで伸びているが、過去の延長線上の取り組みでは、どこかで行き詰まるのではないか。そこに小林社長の強い危機感があった。当然、佐々木部長も常識にとらわれず、未知の分野に挑戦しようと意識を新たにしたものの、それが実践できていなかったことをリンクルショットの登場で思い知った。

というのは、リンクルショットのテクスチャーも、コーセーにとって想定外だった。「化粧品を使用した直後に効果感を感じさせる品質設計を重要視する」(佐々木部長)コーセーからすると、リンクルショットは、肌の上で伸ばすというより、気になるシワに塗り込むイメージ。発売直後で「ニールワン」の効能効果は把握していなかったとはいえ、「初めて実物に触ったとき、(日本初という)話題性で新客はとれるが、どこかで伸びが鈍化するのではないかと思った」と佐々木部長は話すが、結果は真逆。17年12月期のリンクルショットの売上高は約130億円と好調に推移したのだ。

一方、資生堂のプロモーション戦略も、佐々木部長にとって想定外だった。「エリクシール シュペリエル  エンリッチド リンクルクリームS」の発売と同時に始めた「表情プロジェクト」は、シワ改善の技術を使って、女性が持つ豊かな表情を引き出すのが目的。これにより商品価値は、エイジングケアの範疇を超えた。佐々木部長は次にように振り返る。

「当時、資生堂さんの取り組みには、素直に『やられた!』と思いました。だから、僕らは、豊かな表情の先には幸せがあると考え、コーセーらしいシワ改善を提案しようと試行錯誤を繰り返した。文字通り、背水の陣を敷きました」

(第3回に続くhttps://kokusaishogyo-online.jp/2018/08/5648・8月9日公開)