「まだ価値を磨けるんじゃないか」

コーセー商品開発部の佐々木一郎部長が、「iP.Shot アドバンスト」「ONE BY KOSÉ ザ リンクレス」に続くシワ戦略の中身を話すと、小林一俊社長から冒頭の言葉が返ってきた。シワ改善市場の成長力、「ナイアシンアミド」の可能性を踏まえ、コーセーらしい攻めの戦略を期待しているからだろう。じつは、商品開発部は、社長の叱咤激励を楽しんでいる。それは佐々木部長の話に耳を傾ければよくわかる。

「最近、(会議などで)『それは無理ですね』といわれると、心の中でニヤリとするんですよ。だって、実現したら世界初じゃないか、と。シワ改善美容液で後手に回ったことは大いに反省しなければいけないが、常識を疑う、危機感を持つという考え方を商品開発部、研究所が共有したことは大きいんですよ」

商品開発部の社員も変化した。一人ひとりが「市場を読む力」を意識しているという。これから国内外のエイジングケア市場は変化する。単なる化粧品ではなく、美と健康の観点でカテゴリーが広がる。しかも国と地域によって、変化の中身も、スピードも異なる。「それらを鋭敏に察知して、自分たちだったらどうするかを考え、いつでも提案できるようにしてほしい。部下には、そのように投げかけています」と佐々木部長は話す。

コーセーが6月14日に始めたスタートアップ企業からアイデアや技術を募るアクセラレータープログラムも、過去の延長線上で物事を考えがちな組織風土に新しい風を吹き込むための取り組み。テーマは「テクノロジーを活用したユーザーコミュニケーション」「新しい美容サービスの創造」「先端技術・新素材によるプロダクト・サービス開発」の三つ。進取の精神が持ち味のスタートアップ企業と組むことで、コーセーが1946年の創業から培ってきた化粧品を通じて美を創造するノウハウを活かす考え。原谷美典執行役員は次のように話す。

「アクセラレータープログラムは、オープンな組織にして、新しい価値を創造する試みです。過去の延長線上では、開発は開発、販売は販売と考えがちですが、新しい商品・サービスは、新しい売り方と表裏一体。以前に比べて社内の動きはオープンになっていますが、さらにアクセルを踏むということです」

シワ改善美容液の開発で後手を踏んだコーセー。だが、その結果で組織・社員から慢心が消えつつある。これは売上高5000億円を目指す同社にとって好材料である。(了)