花王ヒューマンヘルスケア研究所は、日常的な疲労感と睡眠との関係に着目し、睡眠を身体状態や生活習慣など複数の側面からとらえる研究を進めている。その中で今回、睡眠中の姿勢(寝姿勢)が睡眠の質だけでなく、起きているときの姿勢とも関係する可能性を見いだした。これは、良質な睡眠の理解を深め、日々の生活における疲労との向き合い方を考える新たな視点となると考える。

近年、疲労に関する調査(※1)において、20~70代の約8割が疲労感を自覚していること、特に20~40代の現役世代で疲労傾向が高いことが報告されている。日常的な疲労には心身の状態に加え生活環境などのさまざまな要因が複雑に影響しており、回復の基本は適切な休養や睡眠だ。しかし、忙しい生活の中では十分な睡眠時間や良質な睡眠を確保することが難しく、疲労が蓄積しやすい状況にあると考えられる。

「十分に睡眠をとったはずなのに、起床時に疲労感が残っている」という声が聞かれるように、睡眠の質を左右する要因にはまだ十分明らかになっていないことがある。花王は、スマホをお腹に抱えて8歩歩くだけで、歩行中の姿勢やクセを簡便かつ詳細に解析する「Walk Coordinator(ウォークコーディネーター)」技術を有しており、2025年、これを応用して、身体アライメント(※2)のゆがみが慢性的な疲労感と関係している可能性を報告した。

さらに今回は、疲労回復と関係の深い睡眠の質にも姿勢が関与するのではないかと考え、検証を開始。花王は、寝姿勢と睡眠の質との関連を確認するため、24年11~12月、30~50代の日本人男女196人の睡眠中の身体の向きや体動、自律神経活動を、3軸加速度計測機能のある心拍計を用いて1週間にわたり連続的に測定した。

まず、対象者が日常的にどのくらい同じ姿勢(仰向け、横向き、うつ伏せ)で寝ているのか(※3)を、5夜以上計測できた98人で確認したところ、多くの人が毎夜同じ姿勢で寝ていることが分かった(図1)。さらに、寝姿勢と睡眠の質の関係を調べると、横向き睡眠の割合が多い人は、寝返りの回数が多く(図2)、浅い睡眠(※4)の出現数も高い傾向があることが分かった(図3)。

一般的に、睡眠中に副交感神経活動のはたらきが優位になると、深い睡眠や良質な睡眠につながると考えられている。そこで、3夜以上計測できた110人を対象に、寝姿勢と睡眠中央時刻(※5)前後の90分の自律神経活動の関係を確認した。

解析の結果、睡眠時間の50%以上を横向きで寝ている人のうち、左右どちらか一方向に向いて寝ていることが多い人は、左右の偏りが少ない人と比較して、睡眠中の副交感神経の活動が低くなっていたことが分かった(図4)。このことから、寝姿勢のクセにより睡眠の質にも差が生じる可能性が示唆された。

花王は、1夜以上睡眠データが取得できた170人について、ウォークコーディネーター技術を用いて身体アライメントのゆがみを得点化し、寝姿勢との関係を解析した。その結果、睡眠時に横向き姿勢で過ごす割合が高い人は、総合得点が低く、ゆがみが大きい傾向にあると考えられた(図5)。

さらに、睡眠中に横向き寝が20%以上存在した144人を対象に、寝姿勢と日中の歩行姿勢の関係を解析してみると、睡眠中に右側を上にして寝る時間が長い人は、歩行時にも右側回旋が強い傾向にあることが分かった(図6)。このことは、歩行時のクセ、身体アライメントのゆがみが睡眠時の姿勢とも相互に関係する可能性を示唆している。

以上の結果から、睡眠の質を理解する上で、起きているときの姿勢の特徴や睡眠時の姿勢の傾向を把握することが有用であると考える。

なお、今回の研究成果は、6月6~7日に山口県にて開催された第22回日本疲労学会総会・学術集会にて発表した。

 

※1 一般社団法人日本リカバリー協会「日本の疲労状況2025」(全国10万人調査「ココロの体力測定2025」)

※2 骨格や関節、筋肉などの位置関係やバランス

※3 姿勢の固定度(%)=計測期間中の最頻姿勢の出現夜数/全測定夜数×100

※4 睡眠中の体動量や心拍のゆらぎが相対的に大きい状態。5分間の解析区間を1分ずつずらしながら判定し、該当した回数を出現数とした。

※5 入眠から起床までを睡眠期間としたときに真ん中となる時刻