クラシエホームプロダクツカンパニーは「人の美しい後姿」に着目し、「頭部を振った際の後ろ髪のしなやかな動き」を解析する新技術を開発した。さらに、同技術を活用した毛髪の動きの解析により、ヘアアイロン・コテの熱ダメージが髪の動きを損なう物理的要因を解明、「ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)」をキー成分とする、毛髪本来のしなやかな美しい動きを実現する技術の開発に成功した。
同社はこれまでも、髪のなびく様子を評価する手法や近赤外ハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)技術を用いた外観診断システムを開発してきた。今回の開発の背景には近年、髪の形を整えるヘアスタイリング行動として、化学的な処理を必要とするパーマネントウェーブ(以下パーマ)に代わり、自分で簡単に処理できるヘアアイロン・コテなどを用いた熱処理が利用されていることがある。クラシエが行った直近(2024年度)の調査では、アイロン・コテの使用率は、15~29歳女性で約7割、30代女性でも約6割となっており、近年では30代の使用率が伸びている。2000年代ごろには、一部の女性たちがしっかりとした巻き髪を作るためのものだったが、今では毎朝の寝ぐせ直しや毛先だけ曲げるといった誰にでも簡単にできる方法として年齢・性別問わず使用率が高まっている。
熱処理はパーマなどのように酸化還元薬剤による化学処理を伴わないため、毛髪に対するダメージが分かりにくいものだが、毎日繰り返すことで髪が硬くパサつき、「しなやかさ」を失ってしまうといった声が上がっている。しかしながら、この「しなやか」という言葉には、物理的には”弾力があり柔らかい”といった二面性のある要素が含まれていたり、静止写真だけでは見えてこなかったり、実態がよく分からないものだった(図1)。
そこで同社は、毛髪の外観、特にそのしなやかな動きに着目し、美しい髪の「しなやか」な動きの正体とアイロンダメージがそれに与える影響について詳しく研究した。
人が他人の毛髪を見て美しいと感じるときには、必ず動いている時間の中で判断をしている。そこで同研究では、毛髪が揺れる様子をハイスピードカメラで撮影し、時間軸に沿った動きを数値化する独自技術を開発した(図2)。
解析の結果、健康でしなやかな髪は、揺れが収まる際に素早く動いた後、ピタッと静止する(減衰比が増加する)のに対し、アイロンダメージを受けた髪は、いつまでもふらふらと揺れ続け、収まりが悪い(減衰比が上がらない)ことが判明した。
さらに、振動をより詳細に解析し要因を追究したところ、アイロンダメージ毛では「揺れの最後に振動をピタッと収めるための粘性成分」が減少していることが明らかになった(図3)。
「揺れの最後に振動を収める」成分とは、振幅(歪み)が小さくなるにつれて粘性が増加する性質を持つものだ。この挙動の鍵を握るのが、毛髪の細胞間をつなぎとめる接着剤である「CMC(Cell Membrane Complex:細胞膜複合体)」だ(図4)。
そこで同社は、「CMC」と類似の構造を持つ「ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)」に着目し、これをアイロンダメージ毛に処理したところ、微小振動領域での粘性が回復し、健康毛のように揺れが「ピタッ」と収まる挙動を確認した(図5)。同成分が毛髪内部に浸透し、疑似CMCとして機能したためと考えられる。
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)は、これまでも髪のしっとり感やコーミングによる髪のひっぱりによるダメージにアプローチする成分として使用されてきた。揺れの最後に振動を収める機能が今回新発見となった。
今回の研究成果については、26年秋発売のヘアケア製品に応用する予定だ。また、化粧品の国際学会であるIFSCC Congress 2026にて報告予定となっている。
今回の研究を担当したクラシエホームプロダクツカンパニービューティケア研究所 第二研究部 毛髪基礎研究グループ 研究員兼R&D本部 研究企画部 研究DXグループ 研究員(横浜駐在)の礒辺真人氏は「髪の動きに注目している研究は少ない。今後は感性の領域に踏み込んでいきたい」と抱負を語った。





























