ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、空間デザインで五感体験を魅力的にできる可能性として、コントラストが高く「立体感」のあるデザインや、多彩な色相を使用した「多色」のデザインは、魅力に関わる脳部位の前部前頭前皮質(aPFC: anterior prefrontal cortex)の活性を高め、見た人の覚醒度も高めることを見いだした。
なお、同研究の一部は、2025年3月5~7日に開催された第20回日本感性工学会春季大会で発表された。
同社は過去の研究から、aPFCが「魅力認知の要」であり、この部位が活性化すると視覚や触覚などいろいろな感覚(五感)で魅力を感じやすくなる可能性を示している。この知見から、空間デザインに使用する色味や質感などを通してaPFCを活性化できれば、その空間での体験をより魅力的にできるのではと考えた。
aPFCが活性化すると考えられるデザイン特徴を複数選択し、実際にそのデザインを見た時にaPFCの活性が高まるか検証した。
色・形など視覚的な特徴と脳機能や魅力認知との関係を調べた先行研究をもとに、aPFCが活性すると考えられるデザイン特徴として、コントラスト、色相、鮮明さ、複雑さを選定し、その特徴を含む画像を作製して実験に用いた(図3)。

・コントラスト「低い」vs「高い」
コントラストを高めると画像から立体感を感じることが知られている。また、コントラストが高い画像を見たときは低い画像を見たときと比べ、aPFCを含むBrodmann Area 10(BA10)という脳領域が活性化することが分かっている。そのため、コントラストが高く「立体感」のあるデザインは、コントラストが低く「平面感」のあるデザインと比べaPFCを活性化する効果が高いと考えた。
・色相「単色」vs「多色」
色相は、人が色を見分けるときに最初に認識する特徴であることが知られている。また、色は美しさを判断する際にも重要であり、美しさを判断するときにはaPFCが活性化することが知られている。そのため、多彩な色相を使用した「多色」のデザインは、単一の色相を使用した「単色」のデザインと比べaPFCを活性化する効果が高いと考えた。
・鮮明さ「鮮明」vs「不鮮明」
Franz Klineが描いた輪郭が不鮮明なブラシストロークのみから構成されたアートを観ると、BA10が活性化することが分かっている。そのため、ブラシストロークのみから構成された輪郭が「不鮮明」なデザインは、輪郭が「鮮明」なデザインと比べ、aPFCを活性化する効果が高いと考えた。
・複雑さ「シンプル」vs「複雑」
構成要素が多く、かつ、非対称である「複雑」な幾何学的デザインを観ると、BA10が活性化することが分かっている。そのため、構成要素が多く非対称である「複雑」な幾何学的デザインは、構成要素が少なく対称である「シンプル」な幾何学的デザインと比べ、aPFCを活性化する効果が高いと考えた。
特定のデザインが魅力認知に与える影響を明らかにするために、磁気共鳴機能画像法(functional magnetic resonance imaging, fMRI)を用いた検証を行った。異なるデザインを見ながら、“美しい”と思うか、思わないかの判断をしている時の脳活動を測定した。対比するデザイン(コントラスト「低い」/「高い」、色相「単色」/「多色」、鮮明さ「鮮明」/「不鮮明」、複雑さ「シンプル」/「複雑」のデザイン)を見ている時の脳反応の差から、aPFCの活性の違いを解析した。

その結果、コントラストが高く「立体的」なデザインと多彩な色相を使用した「多色」のデザインは、そうでないデザインと比較し、aPFCを活性化する効果が高いことが分かった(図1)。

脳部位の活性が高まっても、それによる変化を自覚できるとは限らない。そのため、「立体感」や「多色」を感じるデザインを見た際のaPFCの活性化に、自覚できる心理状態の変化が伴うかを検証した。
複数の心理状態の変化を検証した結果、コントラストが高く「立体感」のあるデザイン、または多彩な色相を使用した「多色」のデザインを見た際に、覚醒度の自己評価が高まることを見いだした(図2)。

デザインを見た際のaPFCの活性化が心理状態への影響を及ぼすのかを明らかにするために、アンケートにて心理状態の変化の評価をした。
被験者に異なるデザインを見せた時、主観的に感じた心理状態の変化を6段階で評価してもらった。対比するデザイン(コントラスト「低い」/「高い」、色相「単色」/「多色」、鮮明さ「鮮明」/「不鮮明」、複雑さ「シンプル」/「複雑」のデザイン)を見ている時の心理状態の評価値を解析し、aPFCの活性化に心理状態の変化が伴うかを確認した。

覚醒度が上がると注意力も上がり、感覚が鋭くなることで、五感で魅力を感じやすくなる可能性がある。
今回の結果より、コントラストが高く「立体感」のあるデザインと多彩な色相を使用した「多色」のデザインを見ることで、aPFCが活性化するだけでなく、覚醒度が高まり、さまざまな感覚で魅力を感じやすくなる可能性が示された。このことから、「立体感」や「多色」をデザインに取り入れた空間を設計することで「五感で感じる全ての体験をより魅力的にできる」と同社は考えている。























