資生堂は、東北大学病院皮膚科・周産母子センター(以下、東北大学病院 皮膚科)との共同研究により、生後2ヵ月時点で角層に含まれる特定のタンパク質が多い乳幼児は、3歳時点でアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症する確率が高いことを発見した。

同発見により、乳幼児期におけるアレルギーの発症リスクを早期予測できる診断法の確立につながることが期待される。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーで悩む人が増えている中、早期予測に基づいた適切なケアにより発症リスクが低減できることで、子どもとその家族の生活の質の向上に寄与できると考えられる。同発見は着想から10年以上の歳月をかけて、東北大学病院皮膚科との協働を通じて見いだされた。

同研究の共同研究者である東北大学病院 皮膚科 小澤麻紀先生の論文は、2025年度サノフィ優秀論文賞「一般部門」を受賞した。また同成果は、25年10月24~26日に開催された日本アレルギー学会にて発表された。

資生堂は、幅広い年代において「美しく健やかな肌」のために長年にわたって皮膚科学研究に取り組み、化粧品などの研究開発を進めてきた。角層中に存在するSCCA1(別名:セルピンb3)は皮膚におけるバリア機能の恒常性を維持する役割を担う重要なタンパク質の一つで、資生堂は06年にタンパク質(SCCA1)が、肌のバリア機能を低下させる原因因子であることを見いだした。同知見は化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会”IFSCC(The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists)”において優秀賞を受賞している。09年~10年にかけては、タンパク質(SCCA1)が、乳幼児のアトピー性皮膚炎において、皮膚局所の重症度指標となることを見いだすなど、これまでに多くの研究成果を出してきた。

14年には乳幼児期からのスキンケアにより保湿をしっかりすることで、アトピー性皮膚炎の発症率が約3割抑制される研究論文が発表され、乳幼児期におけるスキンケアの重要性が注目された。

近年、さまざまなアレルギーの出発点として、皮膚からアレルギーの原因物質が、からだの中に入り込むことが要因の一つと考えられている。そのため、アトピー性皮膚炎などの疾患予防に加え、早期診断や早期予測ができる「皮膚診断法」が求められてきた。そこで、乳幼児にも利用可能な非侵襲性の皮膚診断法の確立を目指し、16年から東北大学病院と更なる共同研究に着手した。

両親のうち少なくとも一人にアトピー性皮膚炎の既往がある117名の乳児(生後2ヵ月、男児62名、女児55名)を被験者として、3歳になるまでの間に定期的に、数回にわたり皮膚科専門医による診察とテープストリッピング法を用いて採取した角層中に含まれるSCCA1量を測定した。アトピー性皮膚炎・食物アレルギーの発症とSCCA1量の関係性を統計的解析により調べたところ、生後2ヵ月時の頬の角層中のSCCA1の量は、アトピー性皮膚炎を発症していない子どもと比較して、発症した子どもにおいては著しく高い結果となった(図1)。

図1

また、生後2ヵ月時の口周りの皮膚の角層中のSCCA1の量が、食物アレルギーを発症していない子どもと比較をして、発症した子どもにおいては著しく高い結果となった(図2)。

図2

乳児のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを生後数ヵ月で診断するのは非常に難しいとされている。今回のように生後2ヵ月でアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを早期発見、ないし早期予測ができれば、より早い段階から適切なケアによる予防が可能となる。

資生堂は、共同研究から得られた先進知見とテクノロジーを掛け合わせ、敏感肌や美容皮膚科領域まで幅広く見据え、新たな化粧品やサービスなどの価値開発に応用し、一人一人の生涯を通じた健やかな美の実現を目指す。

資生堂は35年以上にわたり、東北大学病院 皮膚科と共同研究を行ってきた実績を踏まえ、今後も皮膚科医などの専門医と協力した研究開発を通じて「敏感肌サイエンス」を強化し、多様な敏感肌の症状の根本原因を追求することで、生活者のストレスや不安を和らげ、理想の肌を実現することを目指し、日本におけるダーマ市場の成長を加速していく。 (図3)。

図3