コーセーは、ミルボンと共同で、皮膚常在菌の一つであるエンテロコッカス菌が肌の炎症を引き起こすことを確認し、アジアの伝統的な薬草であるエンメイソウ(延命草)のエキスにより、この炎症を抑制できることを見いだした(図1)。

人間の肌には複数種の常在菌が共生しており、そのバランスは肌の状態とも関係している。例えば、アトピー性皮膚炎の人の肌では特定の菌に割合が偏っていることが知られており、肌と菌は共生関係にあることが伺える。そのため、近年では肌と菌の関係を調査する細菌叢研究に注目が集まっている。

ミルボンでは、日本人女性の頭皮の細菌叢と頭皮・毛髪の状態を分析した研究から、エンテロコッカス属という主に腸などにいる細菌の存在比率が多い人ほど、頭皮が硬く、毛髪のうねりが強いことを明らかにしてきた。頭皮の硬さや毛髪のうねりは年齢の高さとも相関があることから、ミルボンではエンテロコッカス菌を頭皮や毛髪の老化と関わりの深い「老化菌TM」と名付けて研究を進めている。

エンテロコッカス菌は皮膚常在菌としても知られているが、その存在比率は低く、あまり注目されてこなかった。そこで同研究では、頭皮の老化現象と関わりのあるエンテロコッカス菌が顔の肌状態に与える影響を調査した。これは肌研究を強みとするコーセーと、頭皮や毛髪研究を強みとするミルボンのコラボレーションにより、新たな知見を目指す試みとなる。

エンテロコッカス菌と顔の肌状態の関係を調査するため、20~70代の日本人女性220名を同菌が顔に存在する人、存在しない人に分け、水分量、皮脂量、シミスコア、シワスコアなどの肌状態の違いを比較した。その結果、エンテロコッカス菌が存在する人には、目の下のシワスコアが大きい、鼻のテカリスコアが大きいなどの肌状態の違いが認められた。

この原因を探求するため、エンテロコッカス菌とともに表皮細胞を培養し、その生存率やどんな遺伝子に変化があるかを調査した。その結果、エンテロコッカス菌によって表皮細胞の生存率の低下が確認された(図2)。

これは皮膚常在菌においてメジャーな存在である表皮ブドウ球菌のときは起こらない現象であり、エンテロコッカス菌によって引き起こされるものであると考えられる。また、この菌の産生する代謝物を含む培養上清や、死んだ菌でも検証したところ、細胞生存率は低下せず、これは生きたエンテロコッカス菌の働きにより表皮細胞が受ける影響であることが分かった。

さらにエンテロコッカス菌が存在するときに表皮細胞で変化がある遺伝子を調査したところ、炎症の発生に関与するタンパク質であるIL-1αやTNF-αなどの遺伝子の働きが増加していることが分かった(図3)。

このことから、生きたエンテロコッカス菌は肌に炎症を起こすことが分かった。炎症は老化促進の要因の一つであると考えられており、エンテロコッカス菌をもつ人は炎症が肌で持続することによって、シワなどの老化が進みやすくなった可能性がある。

次に、この肌の炎症への対策として美容成分の探索を行った。その中で抗酸化効果の高さや、生薬利用の歴史といった観点からエンメイソウエキスに着目した。シソ科の多年草であるエンメイソウはヒキオコシとも呼ばれ、倒れている人を引き起こす力を持つと言われています。表皮細胞とエンテロコッカス菌を培養し、そこにエンメイソウエキスを添加して、炎症に関与する遺伝子の働きを確認したところ、炎症に関わるIL-1αやTNF-αなどの遺伝子の働きが抑制されていることが確認できた(図1)。

また、炎症が抑制された際のエンテロコッカス菌へのエンメイソウエキスの影響を確認したところ、菌の増殖に影響はなかった。このことから、エンメイソウエキスは菌の生育を妨げることなく、エンテロコッカス菌による肌の炎症を抑えることができる有用な成分であることが分かった。菌の生育を妨げないことは、肌と共生する常在菌のバランスを維持することでもあり、エンメイソウエキスは肌を健全にサポートできる成分でもあると考える。

同研究から、皮膚常在菌の一つであるエンテロコッカス菌が肌の炎症を引き起こすことと、エンメイソウエキスがその炎症を抑えることができることが分かった。肌の炎症は老化促進の要因の一つであるため、この成果はエイジングケアに貢献できるものと同社は考える。同成果は、今後のスキンケア商品やサービスの開発に応用していく。今回の研究知見は、頭皮と顔の関連性に着目したことで得られたものであり、それぞれ異なる分野を強みとするコーセーとミルボンの協働による成果だ。これからも異なる知見を合わせることにより、お客に向けた新たな価値創出を目指していく。