交差性を深く考え自分の特権に気付く

当然、資生堂は25年3月8日の国際女性デーにも力が入っている。今年の国際女性デーのグローバルテーマ「Accelerate Action(アクションの加速)」に合わせて、社員参加型イベントを各地で開催する予定だ。例えば、グローバル本社では、社員に向けて、家庭でもインクルージョンを促進する「家事分担見直しワークショップ」を開催する。目的は、誰もが自分の人生を自分らしく歩むために、どんな暮らしをしているのか振り返り、理想の暮らしを考えることである。日本では共働き家庭が増えている。その実態を見ると家事育児に費やす時間は女性が6.3時間、男性が1.5時間と大きな差がある。夫が家事育児する家庭は、第2子の出生比率が高いことから、少子化が社会課題である日本において家庭のインクルージョンの重要性は高まっている。

また、社員に向けては、昨年と同じように当事者社員登壇イベントも実施する。今年のテーマの「交差性」とは、人種や性別、階級、性的指向、性自認などが複数組み合うことで生まれる差別や抑圧、脆弱性のこと。イベントでは、それを可視化し、理解するためにインターセクショナリティの浸透を図る。具体的には「女性と外国籍(在日コリアン)」に焦点を当てる。女性、在日コリアンともにマイノリティ(少数派)で、その交差性を持ちながら人生を歩んできた当事者の話を聞くことで、社員は意識せずに自分が持ち得た特権があることを実感してもらう試みだ。

「そこに気が付くことで、家庭や仕事で無意識にマジョリティ(多数派)側に立っていないかなどを考え、自分事化してもらう。そして社員に促したい行動変容は対話です。対話を怖がらずに、新しいことを知るポジティブな機会でもあることの認識。対話をし、傾聴することで自分が持つ特権に気付き、違う境遇にいる人への支援につなげていきたい」と岡林グループマネージャーは説明する。

DE&Iに対する社員の自分事化を促し行動変容を起こす

一方、社外に向けては、育児、介護、配偶者の転勤などを理由に一旦キャリアを離れている(キャリアブレイク)社外の女性とキャリアブレイクを経験した資生堂女性社員のネットワーキングイベントを開く。その目的は、女性のキャリアと育児や介護の両立について、資生堂社員のナレッジシェアリングをすること。自分の人生を見つめ直すきっかけづくりである。

さらに社会貢献活動領域に特化した美容職社員によるスキンケアや印象アップのメイクを学ぶセミナーも開く。パネルセッションやグループに分かれて、育児や介護を経験した社員と参加者が対談して、育児、介護もしながら人生形成のアイデアを共有するのが狙いだ。

また、社外向けには「資生堂DE&Iラボ シンポジウム」も開くという。女性活躍という言葉が要らなくなる未来を目指すために、企業とアカデミアで考えるジェンダー平等の「これまで」と「これから」をテーマとして掲げ、資生堂DE&Iラボの研究メンバーと共同研究先の東京大学の山口教授、dentsu DEI innovations代表 林孝裕氏が登壇する。人事担当者、DE&I担当者、女性活躍推進に関心を持つ人、資生堂社員に向けて、改めて女性活躍推進の本質に迫るコンテンツを届けるという。

「DE&Iを自分の言葉で語れる社員を一人でも多く増やしたい」と資生堂DE&I戦略推進部DE&Iイノベーショングループの山田美和グループマネージャーは話す。資生堂の従業員数は3万5000人超で、DE&Iの浸透は容易ではない。そこでDE&I戦略推進部は24年に戦略の再構築を実施。これまで以上にDE&Iの知見が溜まるグローバル本社が地域本社をサポートし、世界中の組織がDE&Iの取り組みを考え、実行できる体制を整えた。資生堂は、多様な生活者に目を配り、イノベーションで需要を掘り起こす人財育成と組織づくりに挑み続ける。

資生堂 DE&I戦略推進部 DE&Iイノベーショングループ 山田美和 グループマネージャー

月刊『国際商業』2025年04月号掲載