世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本における研究開発部門であるロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン(以下、R&Iジャパン)は2025年9月15~18日にフランス・カンヌで開催されたIFSCC 2025にてポスター4件の発表を行った。

国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)は、世界81地域の51団体が加盟する国際組織で、その学術大会には各国の化粧品技術者が参加し、最新の研究成果を発表し議論する。ロレアルR&Iジャパンは今回のIFSCC 2025に下記4件のポスターをもって参加した。

「Glyco-san:クレンザー機能を強化するためのキトサンを基にした多機能性技術」

近年、洗顔料を含む化粧品全般において、機能性・持続可能性への需要が高まっている。従来型洗顔料の課題は、有益なエモリエントオイルや有効成分を皮膚に残留させつつ、泡の安定性を損なわずに高濃度の油分を配合することが課題だった。同研究では、抗菌・抗炎症効果で知られているバイオ由来キトサンとラムノリピッドの静電的複合化を利用し、油分を乳化・封入することでこれらの課題を解決する「Glyco-san」技術を導入し、洗浄性能と皮膚に有用な物質の保持という相反する課題に対処した洗浄剤の開発に成功した。また、泡の安定性も向上している。Glyco-san技術は、天然素材を活用し、調製プロセスに有機溶剤や加熱を必要としない。従って、Glyco-sanはグリーンケミストリーの原則に沿った持続可能な技術で応用範囲が広く、スキンケア処方など様々な用途に有望である。

「スカルプケアのための皮膚GAG誘導活性成分:毛根からの毛球活性化」

頭皮におけるグリコサミノグリカン(GAG)が細胞間および細胞-マトリックス間のコミュニケーションを通じて毛包の発達を促進することは知られている。今回、糖のC-グリコシル化誘導体であるヒドロキシプロピルテトラヒドロピラントリオール(HPTP)が、ケラチノサイト、線維芽細胞の試験管内試験、および毛包の生体外組織試験においてGAG合成を著しく増加させ、毛髪繊維径の増加、および牽引力に対する毛包の抵抗性増強をもたらすことが分かった。更に、HPTPを配合したローションは加齢に伴う薄毛を著しく改善し、脱毛を減少させ、毛髪を太くし、頭皮全体の健康を促進した。この知見は、HPTPが頭皮ケアにおける有望な有効成分であること示唆している。

「ヘアカラーの成分が心的状態に及ぼす影響:EEGによる神経生理学的検証」

ヘアカラーは多くの人に日常的に使用される製品でありながら、施術時の薬剤による頭皮の不快感(刺激)や塗布中の刺激臭といった悪影響が懸念されている。同研究では、神経生理学的手法である脳波(EEG)と主観的評価アンケートを用いて、ヘアカラーリング中の臭いと頭皮不快感が感情価に及ぼす影響を検討した。解析の結果、アンモニアを含むサンプルが強い不快感とストレス反応を引き起こすことが示され、一方で消費者自身が主観的には認識していなかった感情変化も脳波により可視化することができた。これらの知見は、消費者の精神的体験をより深く理解する上で有用であり、今後のヘアカラー製品や施術プロセスの改善に貢献する可能性がある。なお、この発表は京都橘大学大学院健康科学研究科兒玉研究室との共同研究に基づくものだ。

「皮膚完全性の新基準:ハリのある滑らかな皮膚のためのポリイオンコンプレックスを基にしたメイクアップ」

ポリイオンコンプレックス(PIC)技術は、ポリイオン性ポリマーと柔軟な架橋剤から構成される材料であり、混合するだけで自発的に特定の構造を生成し、皮膚上では柔軟な皮膜を形成する。同研究では、天然由来化合物であるヒアルロン酸、ポリリジン、フィチン酸からなる新規なPICを開発し、皮脂コントロールと皮膚の保湿バランスを両立する化粧下地に応用した。この下地は臨床試験において油分コントロールと保湿のバランスを実現したばかりでなく、皮膚のハリと弾力性を改善し、長期の使用で皮膚の滑らかさと弾力性を著しく改善した。この新規アプローチは、一日中続くマットな仕上がりを実現するだけでなく、日常的なメイクアップを通じた皮膚の改善という革新的なコンセプトを提供する。