推しの香りを作るという体験が、推し活の新たなトレンドとなりつつある。推し活とは、ゲームやアニメ、アイドルなど、さまざまな人物(キャラクター)を「推し」とし、それを応援する活動の総称。推し活では「推しに会いたい」以外にも、「聞いてほしい」「つくりたい」「モノとして存在させたい(所有したい)」などのニーズがあり、それに応えながら、これまでにない「香り」という形で表現するのが、推しイメージフレグランスづくりだ。

今回は、そのブームの先駆けとなったDanceで、実際にフレグランスづくりを体験させてもらった。同社はクリエイティブディレクター(調香師)である林安里氏が、神戸異人館のフレグランスショップから独立して創業。現在、兵庫・神戸に店舗を構えており、対面あるいはオンラインでのカウンセリングを通して、イメージフレグランスづくりを行っている。2017年以降、SNSで何度もバズっており、推しイメージフレグランスといえば、この店の名前を思い浮かべる人も多いだろう。

想像以上に詳細なカウンセリング

イメージフレグランスを作ってもらったのは、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム<複数人で協力して物語を作りながらクリアを目指すテーブルゲーム>)のために作成したオリジナルキャラクター。18世紀の西アジアを舞台にした物語の中で活躍したキャラクターで、小さなサーカス団の団長を務めている28歳の男性だ。

Danceのフレグランスづくりは、事前カウンセリングと当日カウンセリングの2段階に分かれる。

まず事前カウンセリングとして、当日までに、オンライン上のフォームに回答を書き込む。イメージする人物の性別、年齢、血液型、職業から、好きなもの(色・食べ物・飲み物・音楽・靴・映画・アクセサリー・香水)を記入。キャラクターに関する質問は全部で12項目、四つ目の「職業」以降は全て自由記述欄となっているから、微妙なニュアンスも正確に伝えられる。

今回のキャラクターは、18世紀西アジアの人物であるため、好きな食べ物はデーツ(ナツメヤシの実。中近東諸国の代表的な果実といわれている)、好きな映画などは「現代に生きていたとしたらこういうのを好みそうです」と書いた。

最後に「ご希望欄」として香りのイメージを聞かれたため、「甘さとスモーキーさがあるような香り。シーシャのような感じ」という漠然とした、かつキャラクターがまとっていてほしい香りを記入し、送信。当日を待った。

カウンセリング当日は、Zoomを使ったオンラインで行った。まずは、キャラクターのイメージ画像を林ディレクターと共有。画像を見てすぐに「肌が褐色で、目が青いですね」と鋭い質問が飛んできた。キャラクターを作るときのバックグラウンドとしてこだわった部分だったため、「母親がオスマントルコの出身で、父親は当時この国と交友のあった仏人、という設定があります」と嬉々として答える。

続けて、カウンセリングフォームに記入した回答を基に、生業であるサーカスについて尋ねられる。「団員は何人ですか」と尋ねられ、このキャラクターを含め4人がメインキャストであると答えれば、「そのメンバーは全員男性ですか」「お互いの関係性はビジネスライクなものですか、それとももっと深いものですか」「団長として頼られていますか」「困難に立ち向かったときの心境は」などなど。キャラクターの理念や生き方の根幹に触れるようなものも織り交ぜながら、カウンセリングを重ねていく。自分が作ったキャラクターについて、自分の答えを受けてさらに深掘りする質問が返ってくるのは、非常に楽しい。

完成した香りは唯一無二の逸品

できあがった香りのレシピがこちら

いくつもの質問を経て、ついに香りのレシピが出来上がる。事前にカウンセリングフォームの希望欄に書いた香りのイメージは、林ディレクターの解釈とも一致したようで、「ぴったりですね」とのこと。それに基づき、スモーキーノートをトップノートに据えてもらった。さらに「このスモーキーと相性が良いスパイシーノートがあるので、それをたっぷりと入れて、メンズの力強さと、アジアのエキゾチックな感じをさらに深めたいと思います」。これらのトップノートによりポジティブでタフなイメージが最初に立ち上がるのだという。

ミドルノートからラストノートにかけては、「甘い香りにシフト。男女問わず射貫かれて夢中になってしまうような妖艶な雰囲気を表現したいので、オリエンタルノートでムスクやサンダルウッドがたっぷり入ったものにしたいと思います」との提案。それだけでは終わらない。「さらにもう一癖。ビターチョコレートの中にスパイスやパチュリがブレンドしてあるものを少しだけ入れることで、ビターで怪しい甘さをプラス。彼にぴったりな香りだと思います」。

また、Danceならではのサービスが、香水ボトルに沈むジュエル。約50種類の天然石の中から、最大2種選ぶことができ、その比率も自由。イメージする人物のイメージカラーや石言葉などから選ぶ人が多いとのことだが、今回はビジュアル重視で、イメージカラーからブラックトルマリンとアパタイトを半分ずつ選んだ。

ユニークなスパイシーオリエンタル。2種のジュエルも心を躍らせる

出来上がった香りを送ってもらい、実際に嗅いでみると、その完成度にうっとりする。スモーキーでスパイシーなトップノートでシャープな印象が立ち上がり、それがビターチョコと一緒にとろけていくように芳醇な甘い香りに変わっていく。「暗いテントの中、ろうそくだけが灯っているような雰囲気」と林ディレクターが語った通り、怪しく誘うような甘さがある中にも一つの芯を感じる。ユニークで、ついもう一度嗅ぎたくなるような魅力のある香りに仕上がっていた。

今回のようなオンラインツールを活用すれば全国どこでも、平日でも気軽にサービスを受けることができる他、神戸の店舗に行けば、目の前で作ってもらった香りをそのまま持ち帰ることができる。気に入った香りのリピートも可能で、香りのデータは、最後の注文日から5年間保管される。

自分が描くキャラクター像を香りとして表現し、さらにそれを言語化してくれる、というリッチな体験は、これまでにない有意義な時間だった。他にもイメージフレグランスを作り上げるサービスはあるが、リアルタイムかつインタラクティブにキャラクターを深掘りするからこその充実感がある。体験取材の最後、「こうしたカウンセリングを通したフレグランスづくりは、私のライフワークでもある。これから先も、おばあちゃんになるまでやり続けたい」と林ディレクターは笑顔で語った。