資生堂は、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター井元清哉教授、植松智特任教授らとの共同研究において、敏感肌には、健康な肌に必要な表皮ブドウ球菌の生育を阻害する特殊なアクネ菌(以下、阻害菌)が多いことを発見した。この発見は従来よりも解析範囲と解像度を大幅に向上できる全ゲノムショットガン解析を活用した成果だ。

そして、この阻害菌を選択的に抑制し、表皮ブドウ球菌が育ちやすい環境を作る成分として、過酷な環境に生息する微生物由来の発酵エキス(以下、微生物由来エキス)を独自のスクリーニング(特許出願中)で見いだした(図1)。今後も、肌の敏感さをもたらす原因を探り解明することで、新しいスキンケアソリューションの実現を目指していく。これらの研究で得られた皮膚常在菌叢に関する知見と成分は今後のスキンケア製品へ応用していくとしている。

同研究の成果の一部は、2024年8月7~9日に開催された第97回日本細菌学会総会にて発表した。

資生堂は、肌の内部や身体と心の状態、さらにはそれらの関係性を解明する独自の技術を活用し、50年以上にわたって敏感肌の研究に取り組んできた。多様な敏感肌の症状の根本原因を追求することで、生活者のストレスや不安を和らげ、理想の肌を実現することを目指している。

同社は、肌の敏感さには、皮膚常在菌叢(菌叢〈きんそう〉:ある一定の環境に存在する、細菌などの微生物群。マイクロバイオームとも呼ばれる)の中でも大きな割合を占めるアクネ菌と表皮ブドウ球菌の影響が大きいのではないかという考えの下、そのバランスに着目して研究を進めてきた。その結果、敏感肌では、アクネ菌に対する表皮ブドウ球菌の割合が非敏感肌よりも低く、アンバランスな状態であることを見いだした。また、その改善のために、表皮ブドウ球菌を増やすプレバイオティクス成分(サッカロミセス抽出エキスを含む成分の組み合わせ。肌に有益な効果をもつ菌を増やす効果が期待される一方で、悪玉菌の増殖には影響しない)も開発した。

今回はさらに、敏感肌においてアンバランスな状態になる原因を解明し、敏感肌への新たなアプローチ方法を探るべく、研究を進めた。

敏感肌のアクネ菌と表皮ブドウ球菌のアンバランスな状態の原因解明にあたり、皮膚常在菌叢のすべての遺伝子配列を解読すべく、今回初めて「全ゲノムショットガン解析法」を用いた。その結果、敏感肌には、表皮ブドウ球菌を抑制する抗菌ペプチドを作る遺伝子の割合が多いことを発見した(図2)。また、その遺伝子は一部のアクネ菌(阻害菌)だけが持っており、阻害菌と、非阻害菌(阻害菌ではない肌に必要なアクネ菌)が表皮ブドウ球菌の生育に与える影響を比較したところ、阻害菌では表皮ブドウ球菌の生育が抑制されることが確認できた(図3)。

これらを踏まえ、敏感肌に多い阻害菌を選択的に抑制することができるエキスを独自の方法でスクリーニングし、微生物由来エキスを見いだした。阻害菌を抑制する一方で、肌に必要なアクネ菌の生育は阻害しないことにより(図4)、表皮ブドウ球菌が育ちやすい環境をつくり、皮膚常在菌叢のバランスを整える。なお、微生物由来エキスは、以前同社が開発した、表皮ブドウ球菌を増やすプレバイオティクス成分の働きに影響しないことも、確認している。

今回資生堂は、敏感肌の原因のひとつに対する新たなアプローチを確立し、皮膚常在菌叢のバランスを整える成分を見出した。同発見は今後、肌を健康に保つスキンケアソリューションの強化につながると考えられる。