2019年末に初めて感染者が報告された新型コロナウイルス感染症は、約3年経過した現在でも大きな影響を与え続けている。しかし、22年春には、まん延防止等重点措置などの行動制限が緩和され、外出機会が増えたことで人流も戻り始めており、国内の化粧品市場でも徐々に回復の兆しが見えてきている。そうした中、資生堂は創業150周年の大きな節目となった22年、日本市場での長期愛用者基盤の拡大を重点戦略に掲げ、着実に成果に結び付きつつある。そして23年、資生堂の「チェインストア制度」は100周年を迎えた。

資生堂ジャパンの直川紀夫社長は「『生活者起点、現場起点』の考えのもと、積極的に生活者との接点への投資を拡大し、この23年を飛躍の年にする」と語り、化粧品市場の回復に向けて、いよいよ資生堂はアクセルを踏み込むという。22年の化粧品市場動向の振り返り、資生堂ジャパンの長期愛用者基盤の拡大に向けた取り組み成果、23年の事業方針やチェインストア制度100周年を迎えた想いなどについて話を聞いた。

「市場は再び動き出す」創業150周年イベントで革新


―まずは、昨年の市場の動向や資生堂を取り巻く環境からお話しください。

直川 化粧品専門店の皆さま方におかれましては、健やかに新春をお迎えのことと、心からお慶び申し上げます。旧年中は資生堂製品の積極的なご紹介にご尽力いただき重ねて御礼を申し上げます。また、新型コロナウイルス感染症や自然災害で多大な影響を受けられている由、心からお見舞い申し上げます。

感染症拡大防止のための行動制限は緩和されたものの、マスク着用の常態化やインフレに伴う節約志向の高まりなど、厳しい環境が継続しましたが、ワクチン接種が進みこれから日本は経済や社会の回復に向かって、大きな転換期を迎えます。

私たちは企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、お客さまお一人おひとりの生涯を通じて健康美を実現するため、お客さまと店頭の絆を深める取り組みを加速し、全社一丸となって、新しい時代に合うビューティービジネスの成長に向けて取り組んでまいります。本年も変わらぬご愛顧とご支援・ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

まず、昨年の振り返りですが、上期においては「我慢の半年」となりました。20年以降、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からリモートワークの定着や外出自粛、またそれに伴い消費意欲が低い状況が続き、22年に入っても6月頃まではなかなか市場が回復しないと感じていました。どこでアクセルを踏むべきなのか、昨年上期はそれを見極めていた時期でした。

外出機会が増えればお客さまは必ず店頭に戻ってくると考えていました。7月ごろから徐々に回復の兆しを感じ始め、それが確信に変わったきっかけは、創業150周年を記念して、7月から全国7都市で実施したスペシャルイベント「Beautiful me STATION」でした。

新型コロナウイルス感染拡大後初めて全社を挙げて開催したリアルイベントで、「いちばん好きな私を見つける場所」をテーマに、チャネルを横断したブランド・商品からパーソナライズ美容提案を行う体験ブースやサンプリング、ゲストによるトークショーなど、150周年ならではの特別なコンテンツを展開しました。

実際に私もイベントに参加して、お客さまが「化粧したい」「化粧を楽しみたい」という強い気持ちをお持ちになっていると感じました。例えば、各会場でイベント開始前から入場待ちのお客さまの行列ができ、それが終日続いて受付終了の時間を予定よりも早く繰り上げなければなりませんでした。コロナ禍の店頭では100%の実習ができず、ご来店いただいても短時間でお買い物を済ませるお客さまが多い中、イベントでは行列に並んででも「アドバイスを受けたい」「化粧をしたい」というお客さまの思いを実感しました。

イベントに参加したビューティーコンサルタント(現パーソナルビューティーパートナー)はご来場いただいたお客さまが笑顔になられることをとても喜んでいました。お客さまに「触れる」活動の大切さを改めて実感できたと思います。7月のイベントがアフターコロナに向けた一つのターニングポイントになったと思っています。

― イベント後の市場の動きはいかがでしたか。

直川 コロナ禍で化粧品市場は、高価格帯と低価格帯の二極化が進みましたが、7月頃から中価格帯でも回復傾向が見られるようになりました。その中でも最初に回復したカテゴリーが「ベースメイク」でした。外出機会が増え、しっかりファンデーションをご使用される方が増えたことが要因だと考えています。

また、猛暑となった8月にはサンケアへの意識が高くなり、「アネッサ」などのサンケア製品の売り上げが伸長。9月には「エリクシール」のリニューアル発売などにより、スキンケアの売り上げも拡大しました。「ベネフィーク」は9月に発売したクリームが好調な立ち上がりとなりました。