ファンケルは、キリンホールディングスと慶應義塾大学の三者で、AI技術を用いた新たな洗浄剤の開発プロセスに関する研究に着手。ファンケルが蓄積した実験データをもとに、キリンの機械学習技術と慶應義塾大学の分子シミュレーション技術を組み合わせることで、洗浄剤のメイクを落とす性能を、コンピューターの高い精度でスピーディーに予測ができるシステム構築の可能性を見出した。
ファンケルは2016年から、市販のウォータープルーフアイライナーと人工皮革でメイク汚れの除去率を計算し、洗浄率を算出して500以上の実測データを蓄積。今回このデータを機械学習に活用し、メイク落としの性能を予測するシステムの基礎を検討した。
洗浄剤の成分組成と洗浄率のデータに加え、使用した成分の鎖長の長さや分子の大きさなどの分子構造から得られる情報を、成分のデータベースを用いて数値化して機械学習に加えることで、高い精度(決定係数R=0.765)で洗浄率を予測できた(図1)。
同研究で構築した洗浄率予測システムを用い、コンピューター上で10万通りの計算を実施。その結果、界面活性剤の中でファンケルの独自原料であるヘキサカプリル酸ポリグリセリル-20が最も高いメイク落とし性能を有しており、さらに保湿剤であるPPG-9ジグリセリルやシクロヘキシルグリセリンなどの特定の成分との組み合わせが高い洗浄率に寄与する傾向があることが判明した(図2)。
10万通りの計算結果より、前述の成分を含む予測洗浄率が最も高いと予測されるモデル洗浄剤を試作してメイク落としの性能を評価したところ、予測洗浄率と実際の洗浄率がおおむね一致した。また、図3に示す通り、各種メイクだけでなく、泥などのさまざまな汚れに対して高い洗浄性能を有することが確認できた。
また、さらなる予測精度向上を目指し、洗浄剤のメイク落としに関するメカニズムを解明した。洗浄剤のメイクを落とす性能は、製品開発に使用する界面活性剤分子の構造に加え、界面活性剤を形成する集合構造や汚れに対する吸着状態に強く左右されると考えられる。
コンピューター上でこれらの影響を検討するために、DPD法と呼ばれる分子シミュレーション技術を用いて、モデル洗浄剤の分子シミュレーションを実施。100種類以上の組み合わせでシミュレーションを行った結果、実際の洗浄率と、汚れに対する吸着の仕方の間に相関があることを見出した。
さらに洗浄率が高い洗浄剤と低い洗浄剤では、水中で形成される構造に特徴的な違いがあることが明らかになった(図4)。今後は分子シミュレーションの結果から得られたデータを機械学習に組み込み、洗浄率予測システムの精度向上および実用化に向けた検討を進める。
なお、この研究成果は、9月20日から9月22日に開催された第 32 回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)ロンドン大会2022にて、キリンおよび慶應義塾大学と共同で発表した。