ドクターフィルコスメティクス社は、2022年に創業30周年を迎える。コーセーグループで唯一のドクターズコスメブランドを展開する企業で、ラインアップは、弱バリア肌ケアシリーズ「X-Barrier(エクスバリア)」、ニキビケアシリーズ「ACNEO(アクネオ)」、美療発想の集中ケアシリーズ「IC.U(アイシーユー)」、「悩み肌」の根本にアプローチするスキンケアシリーズ「PHIL NATURANT(フィルナチュラント)」、ビタミンケアシリーズ「FORMULE(フォルミュール)」の五つである。山田育宏社長は、コロナ禍の21年4月1日に着任。アフターコロナを見据え、着々と新しい施策を準備している。マスク着用の常態化で、肌トラブルに悩む生活者は増えている。そのニーズに応えるブランドも増え、コロナ前よりも競争は激しくなっている。ドクターフィルコスメティクス社の成長戦略の方向性について、山田社長に聞いた。

信頼を育む強い商品、認知拡大には課題あり

--21年4月1日の社長就任から約1年。自社の競争力について、どのように分析していますか。

山田 私のキャリアを振り返ると、化粧品専門店の営業担当が長いんです。ですから、コーセーグループとはいえ、専門店チャネルに対して独自の営業チームを持つドクターフィルコスメティクス社との接点は少なかったと言わざるを得ません。21年2月に辞令を受けた後、ドクターフィルコスメティクス社の取扱店さんに足を運び、改めてブランドの魅力を聞いたんです。そうすると、化粧品に精通している専門店の奥さまやコンパニオンの方々はもちろん、他のブランドを愛用しているお客さまも、肌が乾燥しやすかったり、肌が敏感になりやすい時期になると、ドクターフィルコスメティクス社の商品に手を伸ばすことがある、というんです。そのお店さんで商品を購入し、試してみると、確かに、肌に優しく、継続使用への安心感がある。「肌トラブルが起きても、ドクターフィルコスメティクス社があれば大丈夫」という信頼は、ドクター監修のもとで丁寧に作っている商品に力がある証しだと思います。

山田育宏ドクターフィルコスメティクス社長

--それが創業30周年を迎えた原動力ということでしょうか。

山田 販売データを紐解くと、10年、20年のお付き合いがあるお客さまが多いですからね。ドクターフィルコスメティクス社にとって22年は創業30周年であるとともに、コーセーグループに入って、ちょうど20年の節目の年なんです。こうして長い間、お客さまの支持を得ているのは、商品力が生むコーポレートブランド、プロダクトブランドへの信頼があるからではないでしょうか。

--強みの一方で、課題も見えているのではないでしょうか。

山田 もちろん、成長を妨げる課題は山積しています。その一つは、投資の選択と集中が進んでいないことでしょう。大きな企業やブランドであれば、複数のブランドやラインなど、多様な商品を展開し、トップラインを引き上げることができます。しかし、ドクターフィルコスメティクス社の事業規模では、まずはスターブランド、スターアイテムを生み出すことが必須。ニッチなカテゴリーでも構わないので、輝き続ける存在にならなければ、数多の化粧品ブランドの中で埋没してしまうからです。

--ブランドの整理整頓に着手しているのですか。

山田 ブランドの改廃は考えていません。通販から始まったドクターフィルコスメティクス社は、生活者の購買行動の多様化に合わせて、チャネルを拡大してきました。チャネル特性に合わせたブランド配置で顧客層の拡大を目指す戦略は正しかったと思いますが、現在はECを含めて、一人の生活者が多様なチャネルを使い分けています。だから、多様なブランドの認知拡大を同時に進めるのは、一段と難しくなっています。さらに敏感肌市場は伸びているとはいえ、競合ブランドも多い。ドクターズコスメブランドとして確固たる地位を築かなければ、どのチャネルでも勝負ができなくなるのではないか。これらの点に強い危機感があり、ドクターフィルコスメティクス社の競争力が高まるように、限られた経営資源の効率的な投下を考えているところです。

メゾンコーセーでの販売でブランド価値が高まる

--具体的には、どのような成長戦略を描いているのでしょうか。

山田 真っ先に取り組むのは、スターアイテムの創出です。コスメデコルテであればリポソーム美容液、プレディアであればファンゴWクレンズのように、ブランドの象徴商品がありますよね。しかし、残念ながら、ドクターフィルコスメティクス社にはそれが見当たらないのです。生活者が想起するドクターズコスメ群の中に、弱バリア肌ケアシリーズ「X-Barrier(エクスバリア)」とパーソナルニキビケアシリーズ「ACNEO(アクネオ)」を入れていきたい。そのチャンスは芽生えています。例えば、エクスバリアやアクネオの購入者を対象に購入動機などを調査したところ、「コーセーが作っているから」という回答が高確率で寄せられるんです。これは2年前からコーセーグループのオフィシャルWebサイト「Maison KOSÉ(メゾンコーセー)」で販売している効果でしょう。

弱バリア肌ケアシリーズ「X-Barrier(エクスバリア)」

弱バリア肌ケアシリーズ「X-Barrier(エクスバリア)」

--日本の化粧品業界を代表する企業の一つ、コーセーへの信頼は、ドクターフィルコスメティクス社にも波及しているんですね。

山田 その通りで、コーセーグループの企業であること、ブランドであることをより強く打ち出し、お客さまの認知、信頼を引き上げていきます。一方、エクスバリアやアクネオがドクターズコスメブランドであることを広く知らしめるには、ドクターが推奨していることをもっと活用していかなければいけない。この点は戦略を練っている段階ですが、肌疾患の治療に取り組む皮膚科医との連携は守り続けます。ドクターフィルコスメティクス社は、肌荒れやニキビなどの肌トラブルに向き合ってきた会社だからです。この原点を忘れることはありません。