ロート製薬は6月23日、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)重症肺炎を対象とした他家(※1)間葉系幹細胞(※2)を用いた再生医療の企業治験の計画を進めていることを明らかにした。

治験に用いる「ADR‐001」(他家間葉系幹細胞を構成細胞とする細胞製剤)は、ロート製薬が原材料の調達から生産までを国内で行う製剤。他家間葉系幹細胞を用いたCOVID-19重症肺炎に対する治験に国産の製剤を用いるのは初めてとなる。なお、治験の届け出を6月末に提出し、6例の症例に対し、2020年8月~21年12月にかけて治験を実施する予定としている。

COVID-19に関するこれまでの報告では、およそ2割が重症化し、この重症化には感染者の免疫細胞がウイルスと戦うために作るサイトカインが制御不能となって放出され続ける「サイトカインストーム」と呼ばれる現象が関わっていると言われている。

また、サイトカインストームが発生した場合、新型コロナウィルスそのものの排除のみならず、サイトカインストーム状態に対する治療が必要と考えられている。この治療法の一つとして、間葉系幹細胞を用いた治療が世界中で試されており、効果があると推測できる報告が複数されているという。

ロート製薬が開発を進めている、「ADR-001」は他家脂肪組織由来幹細胞を構成細胞とする細胞製剤。動物由来のウイルス感染のリスクを考え動物由来原料を含有せず、脂肪由来幹細胞の能力を最大限に引き出す独自の無血清培地(※3)で脂肪組織に含まれる幹細胞を培養している。脂肪組織は組織中に多くの間葉系幹細胞を含み、採取時の侵襲性が比較的低く、手術時など余剰組織となるケースもあることから、比較的入手が容易であり、他家脂肪細胞による同種移植のため、必要な患者に迅速に提供できるメリットがある。

ロート製薬は、このADR-001の開発を進め、非代償性肝硬変に対する治験を実施しており、そのためADR-001の静脈内投与に対する安全性に関するデータが蓄積されていた。ただし、非代償性肝硬変患者での結果であることから、COVID-19重症肺炎患者での安全性は別途確認する必要があるとの考えを示している。

またADR-001は、活性化したマクロファージでの炎症性サイトカインの産生抑制をin vitro(※4)で確認するなど、感染性の炎症に対する効果も確認されているいう。

〈用語説明〉

※1 他家:投与される人ではない、他の人の組織由来であることを意味する。※2 間葉系幹細胞:骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能をもつとされる細胞。由来となった組織において、幹細胞として機能しているかどうか不明であるため、間葉系間質細胞と呼ばれることもある。※3 無血清培地:間葉系幹細胞の培養においては、動物またはヒト由来の血清を含む培地で培養していたが、クロイツフェルト・ヤコブ病等の懸念から血清を用いない培養方法が望まれ、血清代替物が開発されている。この血清代替物含む培地を無血清培地と称している。※4 in vitro:“試験管内で(の)”という意味で、試験管や培養器などの中で、体内と同様の環境を作り、薬物の反応を検出する試験のことを意味する。